『最下層女子校生 無関心社会の罪(小学館新書)』(橘ジュン/小学館)

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 1972年から2014年の42年間で、18歳以下の自殺が突出して多かったのは9月1日であることが、内閣府の調査でわかっている。夏休みが明けてまた学校が始まることは、子どもたちにとってそんなに辛いことなのか。

 生きづらさを抱える10代20代女性の支援をおこなうNPO法人「BONDプロジェクト」代表の橘ジュンさんは、9月1日の自殺について「イジメなど彼ら彼女らを絶望の淵に立たせる闇が深く関係している」と語る。

 今の世の中は大人ですら弱音を吐こうものなら、「努力が足りない」「辛いのはあなただけではない」「もっと頑張れ」と言われてしまう。だから子どもたちが1人で悩みを抱えた結果、自死を選んでしまうのは想像に難くない。そこで橘さんは「辛いのに、苦しいのに誰にも相談できない」苦しみを抱えた子どもたち、とりわけ少女に寄り添い、生活支援や行政につなぐ役割を果たしてきた。その数は3000人を超え、昨年1年間だけでも278件の保護があったそうだ。

 橘さんの著書『最下層女子校生 無関心社会の罪(小学館新書)』(小学館)には、これまで出会った女性たちがどんな困難を抱え、何が原因で社会の「最下層」に追い込まれたかが描かれている。しかしこのタイトルは、橘さんの希望でつけられたものではなかった。では何を意図し、どんなことを伝えたくてまとめたのか。橘さんにインタビューをした。

■傷だけが増えていく

「実を言うと本のタイトルは、印刷に入る2日前ぐらいまで『女子校生クライシス』にしようと思ってたんです。でも今回取材に同行してくれた子がいて、彼女(同書に登場する、26歳の志緒理)は小学校にも行かせてもらえなかったから字もちゃんと書けず、飛行機はおろか電車やバスにも乗ったことがなくて。両親は今も彼女を家に縛り付けて、社会との繋がりを断ってしまっています。そのことに衝撃を受けた担当編集者から『“最下層女子校生”にしよう』と相談を受けたのですが、私は今まで出会った女の子たちを最下層なんて思っていないし、タイトルで誤解を生んでも嫌だから、最初は反発しました。そして『せめて“無関心社会の罪”という言葉も入れてほしい』と頼みました」

 先ほどの志緒理以外にも「お前は失敗作」と親に言われ続けた満里奈や、12歳からリストカットを繰り返す沙羅、娘の前で自慰行為をする父を持つ愛など、15人の少女のエピソードが描かれている。

 彼女たちには親はおろか、周囲の人たちも関心を示そうとしない。優しく手を差し伸べてくれる男性の多くが、体を目当てにしている。だから援助交際したり風俗で働いたりする女性も登場する。

 25歳の真衣は彼氏に援助交際を強要され、その後たどり着いた風俗で裏オプションの本番に応えてしまったがために、妊娠してしまった。父親の確率が高そうな客にLINEで相談したら、

「どーしたいの! 笑」

 とだけ返事が返ってきたという。

「彼女たちは被害しか重ねていっていないんです。風俗で働いている子もいますが、なかには思考停止状態で本番に応じてしまう子もいます。本当はそれをさせないのがプロですけど、コミュニケーション能力が低くてうまく会話ができなかったり、2ちゃんねるみたいな場所に『地雷』と書かれたりすることを恐れていて。『だったら客に求められることをしなくては』と思い込み、ゴムなし本番を受け入れてしまう。私は風俗の是非を問いたいのではなく、セックスは命を授かる行為なのに、いざ女性が妊娠してしまったら『どーしたいの! 笑』みたいにしらんぷりする大人に怒っています。女の子たちをモノとして扱わないでほしいし、彼女たちも本当はやりたくないし、やっちゃいけないことだとわかってる。なのにそれを求めて、いざとなるとしらんぷりする男性がいかに多いか。

 自分でさえも自分のことを守れない子たちは、最悪、自殺も考えます。私は彼女たちに死を選んでほしくないから、自分にできることをしています。優先順位の高い順にやるしかないから、『じゃあおろすために、一緒に病院に行こう』と言うこともありますが、本当はやるせないですよ。相手は子どもをおろしたことを知らないまま、傷だけが増えていくなんて。『そんな状況でどうやって人を信じろというの?』と私だって思います。彼女たちが生きている場所が最下層なのではなく、この社会が彼女たちを利用し尽くした結果、最下層に落とされてしまった。だから『無関心社会の罪』って言葉は、絶対に必要でした」


■貧困だけが原因ではない

 父親が服役していて、100円のシールですら万引きしないと手に入らないさゆりや、生活保護を受けていた母親に育てられ、その彼氏から性暴力を受けていた有紀のように、貧困家庭で育てられたケースも多い。しかし医者になることを強要されて毎日『バカ』とののしられた琴音や会社社長の娘の沙羅など、裕福な家で育っていても助けが必要だった少女もいる。生まれてくる場所は誰にも選べないのだから、社会に彼女たちを救うセーフティネットが、もう少し存在してもよいのではないか。

「とある区のイベントにBONDの理事が参加したんですが、区長に『援助交際にどういう対策や支援ができますか』と質問したんです。すると『あの子たちってバッグとか財布とか欲しくてやってるんでしょ? そういう子の支援なんてできない』と言われて。私、それを聞いて思わず立ち上がってしまいました(苦笑)。そして『確かにバッグとかが欲しくてやる子もいるかもしれないけど、それは大人への不信感の表れなんです。なぜそれをしたかの背景までを知ってください』と訴えました。確かに『ブランドが欲しい』とか『ディズニーの年パスが欲しかったから』とかいう子もいますが、それは後ろめたさへの言い訳ですよ。そういったことすら、世の中に理解されていないと思います。

 BONDにはその日行く場所がない女の子を預かる、シェルターの役割もあります。だから時々、行政から保護を頼まれることがあります。でも金銭的な援助はわずかです。NPOとはいえ受け入れるにはコストがかかるので、心意気だけではやっていけない。でもやらざるを得ない。わかってくれとはいわないけど、なんとかしようと行政や政治家が考えるようになってくれるまで、活動を続けなきゃと思っていて。だから『細かいことは説明するので、まずは読んでください』って気持ちで、この本を書きました」

【後編】は9月2日配信

取材・文=今井順梨