アナウンサー歴26年、今も現役の「話し方のプロ」熊谷章洋さんがコツを教えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』。今回は、使い方を間違えると逆に「無礼」と捉えられてしまう敬語表現について紹介されています。最適な敬語表現をマスターして、気持ちよく会話できるといいですよね。

最適な敬語表現を心がける

美しい日本語を話すことにおいて、とても重要な位置を占めるのが、「敬語」の問題です。

外国人が日本語を習う時に、とても苦労する要素、であることからもわかるように、敬語には極めて日本的な人間関係が反映されています。例えば、「あなた」を英語で言えば you ですが、日本には、あなた以外にも「お前、君、お宅、貴殿、貴様、お手前、てめえ、そなた、そち…」さすがに、「そなた、そち」は今では誰も使いませんが、そのような時代劇や小説にしか登場しない言葉でも、私たちは聞けばすぐに理解できるわけですから、かろうじて生き続けている言葉であると言えるでしょう。このように、学校で習うような明らかな敬語だけではなく、相手と自分との関係によって自然にいろいろな言葉を使い分けますよね。特に、身分に違いがあって当然だった時代では、現代よりも多様な敬語の使い方、身分や人間関係を反映させた言い方が存在したものと思われます。

例えば、テレビドラマの鬼平犯科帳を見ていると、こんな「粋な」敬語が話されていました。火付盗賊改方の長官である長谷川平蔵が、部下の密偵たちを馴染みの軍鶏鍋屋、五鉄に招集すると、各々、三々五々、集まってくるわけですが、やってきた相模の彦十という老密偵が、五鉄の店主に挨拶代わりに、こう尋ねます。

「おいでかい?」

「おいで」というのは、彦十と店主の両者から見て、第三者であり、「居る」の尊敬語であるわけですから、その第三者とは誰と言うまでもなく、長谷川平蔵その人を指す言葉ですよね。また、「かい?」というのは、彦十と店主との人間関係において対等な親しさを含んだ言い回しであることがわかります。彦十と店主の間に、もし身分の差があるならば、「おいでになられますか?」「いらっしゃいますでしょうか?」などになるはずです。お・い・で・か・い、という、たった5音節のなかに、これだけの意味が含まれているわけですから、敬語など、人間関係への配慮を言葉に込める、というのは、とても複雑で繊細なんですよね。

いっぽう、現代の日本語に目を転じますと、私たちの生活は、身分の差もなくなり、平等であることが尊重されていますから、殿様に対して使うような絶対的な敬語は、時代劇の中だけの存在になってしまいました。しかし、年長者や、勤め先の役職、習い事、学校などの先生、初対面の人、商売相手など、微妙な人間関係に合わせて言葉を変化させ、敬意を込めています。もしかしたら、身分の差が小さいぶんだけ、時代劇の言葉よりも、使い方は難しくなっているのかもしれませんね。そんななかで、いかにスマートに洗練された敬語表現ができるか考えてみましょう。

尊敬語、謙譲語、丁寧語などは現代国語の世界ではかなり流動的な分野のように思われます。いまどきの若い人は、「です」「ます」など普通の丁寧語についても尊敬語と理解している人が多いようですね。ここでは、

・相手を持ち上げるのを尊敬語

・自分が謙る(へりくだる)のを謙譲語

と簡単に理解しておきましょう。

言葉は時代によって変化するのが当たり前。特に、尊敬語、謙譲語などは、人間関係の在り方に伴って変わりやすいものですから、流動的になるのは当然だと思います。しかも言葉はより合理的、法則的な方向に収斂(しゅうれん)していきます。つまり、複雑で例外的な約束事などはなくなり、シンプル化する傾向にあるのです。例えば、単語によって違うアクセントなども言い慣れると平板化するのはそういうことでしょうし、「食べられる」が「食べれる」に変わりつつあるなどいわゆる「ら」抜き言葉が広まってしまったのは、「られる」と言う時のほうが、どちらかというと例外的で、「れる」一本に集約される過程ではないかと、考えられます。

では、具体的に考えてみましょう。「誰々が、○○する。」という簡単な構文において、○○する、という動詞の部分に尊敬の意を込めたい場合、大きく分けて、パターンが4つも存在し、しかも、それらを同時に併用することができてしまいます。

その4パターンとは

・お○○になる

・○○いらっしゃる

・れる、られる

・上述の「居る→おいでになる」のように、違う言葉がある場合

です。

○○=食べる、とすると、上記の4パターンは、

・お食べになる、

・食べていらっしゃる、

・食べられる、

・召し上がる、

であり、これらを可能な限り併用してみると、「お召し上がりになられていらっしゃる」となります。日本語としてなんとか成立はしていますが、これはちょっとやり過ぎですね。

日本語の中でも、特に敬意を表す言葉は、重ねて使われる傾向が見られます。例えば、お味噌汁のことを、おみおつけ、とも言いますが、この「おみおつけ」とは、漢字で書くと、「御御御付け」であり、言葉を丁寧にする「お」を、3回も重ねているんですよね。このように、丁寧や尊敬の意は、たくさん込めるのが、サービスである、というような感覚が、日本人にはあるように思います。

日本人と日本語の性質上、丁寧や尊敬の意は、重ねてしまいがちなのですが、上述の、「お召し上がりになられていらっしゃる」のように重ね過ぎると、かえって上品さは失われ、むしろ慇懃無礼とも受け取られかねませんから、重ねるなら、相手との関係に合わせて、最適な組み合わせで最大2つまで、そして、尊敬表現を洗練させるなら、「居る→おいでになる」「食べる→召し上がる」のように、違う言葉で言い表すことに、重点を置くと良いと思います。

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メルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』

著者/熊谷章洋

アナウンサー歴26年の著者が、実体験でしか知り得ない「話し方のコツ」を、理論化。滑舌、緊張、発声発音、会話、説明、講演講義、プレゼン、自己紹介自己アピール、セールス、ビジネス、面接、ナレーション、話の構成、人としての魅力…人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技をお伝えします。

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出典元:まぐまぐニュース!