【速攻試乗】ガンさんこと黒沢元治が新型ホンダNSXを斬る!

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回生があっても違和感を感じさせないブレーキフィール

初代NSXが誕生した1990年から26年の月日が流れた。ついに新型NSXがデビュー、鈴鹿サーキットにて試乗できるという。


ボクは初代NSXの開発ドライバーを務め、「命をかけて」という表現を使っても過言ではないほどすべてをつぎ込んでクルマを仕上げた。それだけにNSXという名称には思い入れが深い。


そして新型NSX。ボクは開発にはかかわっていないが、開発責任者のテッド・クラウスとは、以前アメリカで別のクルマを開発する際に「クルマとは何か」という話をし、ボクの考え方は十分に伝えている。


早速試乗しよう。ピットロードを本線へ向かう間はEV走行。ハイブリッドカーであることを意識させられる。本線へと入り加速。十分な加速を示すが、3.5リッターV型6気筒エンジン+3モーターで、システム出力573馬力というスペックから想像したのは、もう少し強烈なものだった。

ホンダと言えば、過去のF1を見てもわかるとおり、世界最高のエンジンを作り出すことができるメーカーである。たとえば日産GT-Rは3.8リッターV型6気筒ターボで600馬力に達しているので、こうしたライバルを見ればNSXにはもっとエンジン単体での性能向上を期待してもいいのではないかと思う。


そしてコーナーへ進入。感心したのはブレーキだ。いくらスーパースポーツであってもNSXはハイブリッド車であり、0.2Gまでは回生ブレーキを使用する。だが、サーキットで乗った限り通常の摩擦ブレーキのみのクルマと何ら遜色のないペダルフィーリングで、コントロール性も十分だ。

微細な減速を多用する状況でどうかは、今後の公道試乗を待たねば評価できないが、少なくともサーキットでは違和感なく、ドライバーの操作に対しリニアな減速度を示した。

フロントの重さによりアンダーステア傾向!

そして試乗車はオプションのカーボンセラミックブレーキを装着している。何周もの連続周回を行ったわけではないが、少なくとも今回の試乗で、走行中にフィーリングが変化することはなかった。

だが、ひとつ注意して欲しいのは、スーパースポーツの神器的に語られるカーボンセラミックブレーキだ。もちろん性能は十分だが、サーキットを走行したあとのメンテナンス費用は凄まじいものがある。千万単位の費用をまったく気にしないような人は別として、それ以外の人でサーキットを楽しみたいならスチールをオススメしたい。

カーボンセラミックは普通に走っている限り減りも少ないので、むしろ公道でしか使わないようなオーナーが装着したほうがいいと思う。


減速からステアリングを切り込みコーナーを脱出。限界域でのコーナリングではアンダーステアが強い。これは新型NSXの目玉である「SPORT HYBRID SH-AWD」の影響だ。

このシステムはフロント左右輪を独立したモーターで駆動し、プラスマイナス含めたトルクを与えることができ、それによってヨーを発生させて狙ったとおりのコーナリングを実現するという触れ込みだ。

だが、ボクから言わせれば意味はない。当たり前のことだがタイヤには摩擦力により発生するグリップの限界があり、それを超えてコーナリングフォースを発生することはできない。つまり100%の摩擦力を使って曲がっているときにいくらモーターでトルクを与えても、その力は路面に伝わらないのだ。

実際、ボクが試乗している限り、有効に働いていると感じたシーンはなかった。ではグリップ限界まで使えない人には効果のあるシステム、といえるのかもしれないが、グリップが余っているステアリング操作でクルマが反応するのだから、より曲がりたければ切り増せばいいということになる。


むしろフロントに重いモーターを積むことで慣性モーメントが大きくなり、前述のアンダーステア傾向になるというネガな影響が出てしまっていた。せっかくのミッドシップのよさがなく、まるでデキのいいFRのよようなクルマになってしまっているのは残念だと思う。


そういった理由から、ボク個人としてはSPORT HYBRID SH-AWDなしのリヤ駆動が理想的だと思うが、現在のパッケージでもサスペンションジオメトリーを煮詰めることで、もう少しアンダーステアを解消するなどコーナリング性能を向上することはできる。このあたりは今後に期待したい。

ソフトなエンジンマウントが安定性を阻害

ジオメトリーという部分で言えば、直進安定性ももう少し向上してほしい。現在の数値はわからないが、キャスター角をもっと付けることで改善できるだろう。

もうひとつ気になるのはエンジンマウントだ。マウントがソフトで加減速時の前後、コーナリング時の左右、回転方向に動いてしまう。限界域でなければほとんど気にならないだろうが、サーキットでグリップの限界を使用しているときに重いエンジンが動けば当然挙動に影響する。

具体的にいえば、エンジンはミッドシップに搭載しているので、リヤのスタビリティが今ひとつであった。質感を考えればエンジンなどの振動をドライバーに伝えないため、マウントを柔らかくするというのはわかる。

だが新型NSXは2000万円を軽く超えるクルマだ。たとえばメルセデス-AMG GTが採用している可変エンジンマウントのような技術を使うなど、走りと質感を両立できる解決策を見いだしてほしかった。

さて、今質感という話をしたが、パワーユニットの回転振動は少なく上質なフィーリングを示す。ボディ剛性も十分で、ダイナミクス性能をしっかり支えている。さらにその上の剛性を確保することで、路面からの入力や、エンジンやミッションなど回転部分から伝わる振動、走行中に発生する空気の渦による振動などを抑えることができる、いわゆる振動剛性も十分だった。

新型NSXはリミッターを解除できるが、今回の試乗会では残念ながら解除が許されなかった。そのため180km/hまでとなるが、5速でリミッターに達した。NSXは9速DCTを採用している。スポーツ走行を考えれば、2〜7速はクロスにして繋がりを良くし、8、9速は最高速と燃費に充てればいいのではないだろうか。

具体的に言えば、2速を下げ、今の2と3の中間ぐらいに3速、7速までを順次引き下げるというギヤ比であれば、もっとスポーツドライビングを楽しめるクルマになるであろう。ただしDCTそのものの完成度は高い。ボクが乗ったなかでは最高といえるポルシェPDKまではいかないが、それに次ぐ変速スピードとフィーリングを実現していた。

さて、細かく新型NSXの走りについて述べてきたが、単純にみれば決して悪いクルマではない。ただしスーパースポーツという観点で見ると、やや厳しい評価になる。最大のポイントは重量で、アルミフレーム、カーボンルーフなどを採用しているにもかかわらず1780kgという車重は、3モーターのハイブリッドシステムがゆえのもので、日本国内でライバルといえる日産GT-Rよりも重い数字だ。

もし2年前にこの状態で登場していれば高い評価が与えられただろうが、現在はライバルの進歩も目覚ましい。ボクは世界のスーパースポーツファンたちに、新しい時代のホンダが作るスーパースポーツはこれだと衝撃を与えるような、世界唯一の存在として誇れるものがNSXのなかにあってほしかった。少なくともそれはSH-AWDではないと思う。まだ生まれたばかりの新型NSXの今後の進化に期待したい。

(試乗&リポート:黒沢元治/写真:小林 健・増田貴広)