『小さな魔女と野良犬騎士 1』(麻倉英理也/主婦の友社)

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 小説投稿サイト「小説家になろう」発といえば、いわゆる「異世界転生モノ」を思いうかべるひとは多いかもしれないが、投稿作には正道なファンタジー作品も少なくない。今回ご紹介する「小説家になろう」からの書籍化作品『小さな魔女と野良犬騎士 1』(麻倉英理也/主婦の友社)は、ヒロイックファンタジーの代名詞たる「剣と魔法」、熱い意志がたぎる剣戟と魔法がもたらす奇跡とを真っ直ぐに描いた作品だ。

 物語は戦場から始まる。映し出されるのは、舞台となるエンフィール王国が戦乱の渦中、絶望的な戦況のなかで少年ながら剣を振るう主人公の過去だ。終戦から三年が経ち、王都クロスフィールは平和を取り戻したが、その傷跡は未だ癒えてはいない。彼の髪は、過酷な戦闘を受けて髪の色素が抜け落ち灰色に染まっていた。やがて青年・アルトは下町で日銭を稼ぐその日暮らしの風来坊となり、仲間からは「野良犬騎士」と呼ばれていた。

 ある日、王都の北街である治安の荒れた一画に出向いていたアルトは、不穏な気配を漂わせる男たちに襲われるが、尋常なら撲殺されるような殴打にも全く動じない彼の強さに恐怖した男たちは、運んでいた木箱を残して逃げ出してしまう。木箱をあけると、なかにはひとりのちいさな美しい女の子が眠っていた。驚くアルトに対し、「私は、魔女。人呼んで、テトラヒルの、小さな魔女」と彼女は名乗る。

 魔女・ロザリンの右目には数匹の蛇が絡まり合うような紋章が刻まれていた。それは魔女の一族のみが保有する魔法の力“ウイッチクラフト”をその身に宿す証拠だった。彼女は魔女の規律に従って、同じく魔女である祖母とテトラヒルの森の奥で俗世から離れて暮らしていたが、やがて祖母を亡くし孤独に生活していた。そこへ魔女の責務を引き継ぐことを拒否し家を離れた母から、現在居住している王都へ来ないかと誘う手紙が届く。魔女としての生き方を拒否した母の生き方を見ようと王都へ出立したが、誘拐されてしまったのだと彼女は話し、アルトは気が進まないながらもロザリンの母親捜しに付き添うことを決める。

 母親捜しは難航する。辿りついた母の住居はもぬけの空でモンスターと戦闘する羽目になり、辛くもそれを撃滅するも、北街での殺人容疑をかけられ騎士団に投獄される。獄から解放されるが、母親の消失に騎士団長の陰謀がからんでいることが仄めかされ、頼みの情報屋には難題をふっかけられる……などと畳みかける展開は息をつがせない。

 同時にロザリンはアルトが住まう東街で生活するなかで、人々と触れ合う温かみを感じていく。戦争の傷跡にもめげず、住民たちはみな明るく朗らかだ。とくにロザリンの親身になって世話をやく、アルトとなじみの食堂兼宿屋の看板娘・カトレアは、戦っても強い美少女で、「ロリコン!」とアルトを誹り、売り言葉に買い言葉で悪口をぶつけあうが、彼への好意は周囲にも明らかな様子が微笑ましい(「手を出してこないアイツが悪い!!」と叫ぶ様子は涙ぐましいほどだ)。そんなカトレアと親しくなるにつれ、ロザリンは自らに芽生える感情を自覚していく。東街の人々の底抜けにお人よしな家族のような優しさが響くのは、幼くして母親と離別したロザリンも、両親を知らず戦場を馳せた過去しかないアルトも愛おしい家族の記憶を持たないからかもしれない。

 しかし、穏やかな日常をよそに、アルトは知己から不穏な頼みごとをされる。「テトラヒルの魔女の娘であり、あの子の母親であるその人物を、斬ってほしい」と。

 その言葉の意味を測りかねるまま、物語は終盤へと突入していく。アルトの行く手を阻む戦闘狂の美少女・ラヴィアンローズとの決戦では、血みどろの死闘のすさまじさに驚嘆する。それまでは見せなかった実力を発揮するアルトの剣戟は迫真に満ち、ロザリンのために見返りもなく体を投げ打つ彼の紛うことなき「騎士」の姿に心打たれるはずだ。そして母親の行方が明らかになる最後、ロザリンの秘めたる“ウイッチクラフト”の力の一端が明らかになる。

 本書はファンタジー世界を舞台としながら、世界そのものよりキャラクターたちの心に一貫して焦点が当てられる。語られるのは、壮大な世界の謎や華々しい英雄譚ではないが、地位も名誉も得られなくとも誰かのために戦う「騎士」の姿と「魔法」が繋ぐ母子の物語は、それに劣らず美しい。果たしてロザリンは母親に出会えるのだろうか。その結末をぜひ確かめてもらいたい。

文=丸茂智晴