リオデジャネイロ五輪女子高飛込み決勝で、16歳で初出場の板橋美波(いたはし みなみ)が8位入賞を果たした。女子の高飛込みとしては80年ぶりの快挙だった。

 予選と準決勝はまったく緊張しなかったという板橋が、「決勝になったらメッチャ緊張してしまって......。でも、もう『最後だからやっちゃえ!』みたいなノリでいきました」と大きな声で笑いながら振り返った。

 彼女は、世界の女子で唯一"前宙返り4回半抱え型"という難易率3.7の大技を持ち、その武器で一躍メダル候補と期待されていた。そんな彼女をリオで見た時に感じたのは、これまでと一変して明るくなっていたことだった。以前は笑顔もまれだったが、今は話していても終始笑みがこぼれる。馬淵崇英(まぶち すうえい)コーチも「明るくなったでしょう。変わりましたよ」と言って目を細める。

「試合は寺内健さんから『最初の五輪の時は選手紹介でプールに出た時には頭の中が真っ白になった』と聞いていたので、そんなにすごいのかなと構えていたけど、いざやってみたら『アレッ、全然普通やん』と思って。だから、よく分からないけど楽しんでいます」

 こう話していた板橋は、予選3本目の"後ろ宙返り3回半抱え型"で失敗。それでも「練習ではすごく体が重かったけど、試合ではメッチャ軽かったので飛んだ瞬間に、『いける』と思って。そうしたら早く体を伸ばし過ぎたので回転が足りなくなってしまったので『アーッ、やっちゃったな』と思いました。でも次の種目はいつ飛んでも決まると思っていたので大丈夫でした」とあっけらかんと言う。

「去年までの自分だったら絶対に次も失敗していたと思うけど、だいぶ強くなったと思います。これまではひとつの種目を『もう何本目やねん、これ』というくらい連続でやっていたのですが、五輪の2カ月くらい前からは、午前中に3種目、午後は2種目を1本まわしで飛ぶ練習にして、1本1本に集中するというやり方に変えました。最初は戸惑って『何でこんな練習をせなアカンねん』と思ったけど、後々考えたら『ああ、こういうことだったんだ』とわかりました」

 馬淵コーチは「技術を安定させるためには同じ種目を繰り返して、安定してきたら1本ずつ違う種目を飛ぶ、試合を意識した練習をさせた」と説明する。

 昨年の世界選手権では"前宙返り4回半抱え型"という武器を持って臨みながらも準決勝敗退で五輪出場権を取れなかった。さらに9月のアジアカップは「優勝できる」と言われながらも4位に終わり、日本選手権でも2位という結果になった。

「あの頃は一番つらくて、泣きっぱなしの1年でした」と板橋は振り返る。今年になって練習法を変えてから、屋外プール対策も兼ねて出場した7月のダイビンググランプリ・イタリア大会で優勝したことが、大きな自信になっていた。

「『ここまで来たら失うものはない』と、思い切ってできました。私の予選の2日前にあった男子3m飛板飛込みでは、寺内健さんと坂井丞さんが予選落ちしてしまって、『こうなったら自分がいい結果を残すしかない』と思いました。健さんには『エネルギーが90%くらい残っているから全部あげる』と言われました」と度胸のよさを見せた。

 結局、予選は10位で通過。準決勝では前日失敗した"後ろ宙返り3回半抱え型"を無難に決めて、335.55点の8位で決勝へと駒を進めた。

 そして決勝では、入賞がかかった最後の"後ろ宙返り2回半1回半捻りえび型"で、入水をきれいに決めて各審判から8.5〜9点をもらう完璧な演技で締めくくった。

「最後の種目は、自分では失敗したと思って水の中では『あーっ、やっちゃった』と思いましたが、あがってみたら思ったより点数がよかったので自信につながりました。健さんには『美波って最後であんなに入水が決めれるねんな』と言われたけど、自分は終わったらすぐにコーチのところに行ったので、再生された映像を見ていませんでした。私、相当決めてたらしいですね」と笑う。

 板橋が高飛込みを本格的に始めたのは4年前。リオデジャネイロ五輪にこの種目で出られるとは思っていなかったという。初めての五輪で決勝まで進み、8位入賞を果たしたことに満足感も大きい。その一方、自分の武器である"前宙返り4回半抱え型"をやってメダルを狙いたかったという気持ちもあるだけに、悔しさも残った。

「今回は"前宙返り4回半抱え型"を入れないでこの点数を取れたのは逆によかったかな、とも思います。五輪出場が決まってからは、コーチとマンツーマンで1日10時間以上も練習していたので、『何で自分だけこんな苦しい思いをしなきゃいけないんだ』とも思ったけど、やっぱり五輪で金メダルを獲りたいという思いがあったので頑張れました。結果的にメダルは取れなかったけど、初めてで色々経験させてもらったので、次の東京では金メダルを獲れるように頑張りたいと思います」

 こう話す板橋を、馬淵コーチは「これからメダル争いができる選手に成長していくためにも大きな成果があった」と評価する。さらに板橋にとっても大きな目標ができた。決勝の舞台で、5種目すべてを完璧な演技で飛び、439.25点で優勝した任茜(中国)は、板橋より1歳若い15歳の選手だ。

「いつ見ても失敗しないし、多分4年後も一緒に戦っていく選手だと思うので、しっかり追いつける様に頑張りたい」

 追いつくべきライバルを意識した板橋が、これからの4年間でどこまで成長していくかが楽しみになってきた。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi