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 本連載では、「モノが売れない時代」に市場と格闘するマーケターが陥りがちなワナと、そこから脱出するためのいくつかのルールを示します。4回目のテーマは、“買ってくれる本人から評価されれば売れる”というセオリーからの脱却です。みなさんは、「ターゲット=自社の商品を買ってくれる本人」とだけ考え、ターゲットの商品評価を高めることばかり考えていませんか?

■「ターゲットしか見えない!」状態になっていないか

 マーケティングをする上で、正しいターゲット設定が重要事項であることはいうまでもありません。特に現在のように「消費者がモノを欲しがらなくなった時代」には、ターゲティング(=誰をターゲットにするか)は、マーケティング活動の成否を握っているといっても過言ではないでしょう。

 私が日頃お付き合いしているマーケターの方々も、様々なリサーチを通じて、誰が自社商品のターゲットであるかの理解・特定に励んでいます。一般的なアンケート調査はもちろん、クラスター分析などの複雑な解析を行ったり、深層心理・ライフスタイル・情報接触行動までを深く把握するデプスインタビュー調査を実施したりするなど、あの手この手でチャレンジしています。

 これらの努力は決して無駄ではありませんが、ここで指摘したいのは、多くのマーケターが「ターゲット=自社の商品を“実際に買ってくれる本人”」のことだけに注力したマーケティング活動を行っているのではないか、ということです。

 特に商品を開発・販売している事業会社のマーケターは「自身の商品ベネフィットが“買ってくれる本人”にどう評価されるか」に意識が強く向いていて、その商品評価さえ高ければ「その商品を買いたい」という認識が形成される、と判断しがちなのではないでしょうか? つまり「自社商品」と「ターゲット(=買ってくれる本人、購入者)」の1対1との関係がうまくいってさえすれば、買ってもらえると考える傾向がみられるのです。

 しかし、ターゲットの視点に立った時、その考えは適しているといえるでしょうか? ターゲットからすれば、当然ながら自身の生活があり、そこでさまざまな形で社会生活(家庭・職場・趣味の場……etc)を営んでいます。そしてそれぞれの生活の場には、家族・友人・同僚など、様々なステークホルダーがターゲットと関係しており、彼らとの関係は往々にして、モノ選びに大きな影響をあたえています。

■鍵は、購入に関与するキーマンへの「魅力の伝え方」

 ステークホルダーとモノ選びの関係について、いくつかの具体的な事例を示したいと思います。最初のケースは、某家電メーカーの「エアコン(仮に“ブランドA”とします)」です。“ブランドA”は、エアコンの中でも、早い時期に「自動お掃除機能」を取り付けた商品。多少高額にはなりますが、エアコンの掃除を主に担当していると想定していた「男性層(夫)」の負担を解消するというベネフィットをフックに、購入に繋げたいという思惑がありました。

 当初は「お掃除が必要なく、楽々」というメッセージをマス広告・WEB・店頭のセールストークで一貫して伝えていたのですが、思ったほど売上が伸びません。ですが、ターゲット層である30〜40代男性にアンケート調査をすると「自動お掃除機能」の評価は非常に高スコアで、この某家電メーカーの担当者は「一体、なぜ売上が伸び悩むのか」、その原因が掴めませんでした。

 そこで「売上に伸び悩む“より深い事情”」を把握すべく、このブランドAを認知・評価しながら「購入した人」と「購入しなかった人」に対してのデプスインタビューを実施することになりました。「ブランドA」の機能を気に入っていたという共通項はありながら「購入した人」と「購入しなかった人」を比較すると何が見えてくるのでしょうか。

 調査の結果、購入しなかった人の最大のボトルネックは「自身でなく、配偶者が高額の支払いに納得してくれなかった」ことだと判明しました。ターゲット(夫)が広告宣伝にあるように「掃除が楽だから、ブランドAを買おうよ」と伝えても、相手の「あなた(夫)が楽をしたいために、何で余計に●万円も払わなきゃいけないの?」との反論に抗弁しきれず、購入を断念したという実態がありました。

 一方で「購入した人」は巧妙な「プレゼンテーション」によって「ブランドAを買っても良い」という共通認識を創り出し、購入にたどり着いています。具体的には「自分も掃除はするが、どうしても掃除が滞ることもある。その時に、自動的に日々掃除されてキレイになっていると、冷房(暖房)効率が上がって電気代が下がる」といったものでした。

 さらに調査を進めると、このプレゼンをできた人の多くが、店頭で販売員から相手を説得するためのアドバイスを受けていた、という実態も浮かび上がってきました。

 このインタビューを踏まえ、ブランドAは「掃除が楽々」というキーメッセージはそのままにしながら、自動掃除機能による「日々掃除がされている→冷房(暖房)効率の向上→電気代の節約」という文脈をブランドサイト/店頭で展開し、その後の販売の改善につなげていきました。

三宅隆之[著]