「背任」の疑いが…(※イメージ)

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「盲目のピアニスト」辻井伸行氏が輩出したことでも知られる東京・上野にある音楽学校「上野学園大学」を運営する学校法人「上野学園」の現経営陣が「背任」の疑いで8月19日、東京地検に刑事告発されるという事態が勃発した。

 15階建ての総ガラス張りの校舎には付属中学、高校、短期大学、大学が入り、正面玄関には元校長の石橋蔵五郎氏の銅像がある。

 明治37年に設立された学園の経営を近年、担っているのは石橋一族だが、今年に入り、その経営責任を問う声が、教職員や卒業生ら275人で構成する「新しい上野学園を作る会」(以下、「作る会」)を中心に高まっているのだ。

「作る会」の代表の一人、横山幸雄教授は辻井伸行氏の恩師で、最年少でショパン国際ピアノコンクール第3位の入賞歴を持つなど世界的なピアニストだ。刑事告発に至った胸中を本誌に明かした。

「学園はここ10年近く赤字が続いています。経営がどんどん悪くなっていて、ここ数年、約3億の赤字で、教職員の給与をカットしたり、専任教員を非常勤にしたりしています。それなのに、石橋一族の収入は見直されることがありませんでした」

 告発状などによれば、石橋慶晴前理事長が代表を務めるファミリー企業、A社に対して、学園の清掃や食堂の運営などが長年、不透明な形で業務委託されていたという。

「石橋家は学園の理事会の承認を得ずに、A社に業務委託しており、多額の収入を得ています」

 横山教授によるとA社には10年前まで年間約1億8千万円が支払われ、昨年度でも1億円以上が支払われていたという。

「そればかりか、A社は学園に対して、勤務実態のない時間外給与などの架空請求をしている疑いがあるんです。私たちはタイムカードの記録や証言などを得ています」

 学園には静岡県熱海市に臨海学校で使用する施設がある。石橋家の別荘で、前出のA社が管理している。

「施設は老朽化しているので、2006年以降、使用を中止しています。それなのに補償費の名目で年間約540万円を毎年、払い続け、ここ10年間で5千万円、支払っているのです」

「作る会」がA社への業務委託に関し、学園側に問いただすと、「昭和43年と昭和50年の理事会において、業務委託することが承認されており、議事録が残っている」と、熱海市の施設については「保管に使っています」と答えたという。

「40年前の契約書を見直しもせず、言い訳にするのは本末転倒です。別荘を調査すると、古すぎて使用できる状態ではない」

 石橋前理事長の母親の問題も告発されている。母親は学園長で、中学、高校の校長なども兼務していた(現在は辞任)にもかかわらず、12年の秋から学校に来ていなかったという。

「それなのに年間約2千万円も、前理事長の母親に支払われていたんです。学園側は『母親はがんの再発の告知を受け、闘病生活を送り、在宅で仕事をしている。母親への役員報酬は退職金の分割払い』と説明しましたが、納得できません」

 こうしたことなどが学園内で問題化すると、6月には、理事長だった石橋慶晴氏は退任して理事になり、理事だった妻の石橋香苗氏が新理事長に就任した。

「結局は、夫と妻を入れ替えただけ。石橋家の独裁体制は何も変わっていません」

 7月には英国のオークション「クリスティーズ」で、学園所蔵のバッハの直筆の楽譜が売却されたことが海外でも報道された。

 告発を受けて文部科学省と東京都は学校の運営を調査。毎年3億円の補助金を出している都は、上期の支出を保留した。

 本誌が石橋前理事長を電話で直撃すると、「すいませんが、広報を通していただくようお願いします」。

 学園の広報に取材を申し込むと、弁護士事務所から次のような回答があった。

「A社に対する業務委託について、『架空請求』『水増し請求』があったとの指摘がされておりますが、そのような事実はございません。役員報酬につきましても不正な支出ではございません。業務委託や報酬の見直しに関しては、新たな経営改善計画の中で既に対応済み」

 その上で、前理事長の退任に関して触れ、

「今般、『作る会』が起こした学内騒動につきましては大変遺憾でありますが、当学園といたしましては、学生・生徒の皆様が落ち着いて勉学に打ち込める環境を確保・維持することを最優先に考え、経営改善に向けて日々邁進しております。もっとも、一時的ではあれ、学内にこのような無用な騒動を生じさせたことは事実でありますので、石橋慶晴氏が理事長職を辞することで、騒動の鎮静化を図ることといたしました」

 などと回答した。横山教授はこう訴える。

「『作る会』が騒動を起こしたわけではなく、今まで明かされることのなかった情報を公開しただけです。そして彼らに経営は任せられないとなったのです」

週刊朝日 2016年9月2日号