ダイエットとメンタルヘルスが一石二鳥!「テニス健康法」とは

 治安面や運営面の懸念が大きかったリオデジャネイロ五輪もひとまず幕を閉じた。最高の大舞台で大活躍を見せるアスリートがいた一方、実力を発揮できずに悔し涙を飲んだ選手も多かったに違いない。その違いを生んだのはやはりメンタル面のコンディションだったのではないだろうか。

■試合のプレッシャーで摂食障害に

 昨年から調子を落としているアスリートの中に、女子テニスのウージニー・ブシャール選手がいる。2014年には世界ランキング5位にまでのぼり詰めたが、2015年は49位まで急降下。今年に入って復活の兆しも見せているが、カナダ代表として参加した今回のリオデジャネイロ五輪ではシングルス、ダブルス共に第2ラウンドで敗退。そしてブシャール選手は今年5月、実は最近まで摂食障害を発症していたことを告白している。試合のプレッシャーで食事がノドを通らなくなっていたというのだ。

 一時期は危険な状態まで体重が減少していたという告白に周囲は驚かされたが、試合のプレッシャーで摂食障害になることにもまた驚きを禁じ得ないだろう。カルガリー大学のスポーツ心理学者、ペニー・ワースナー教授は女子アスリートのメンタル面の管理は男子選手とはまったく違うものだとカナダ紙「Canadian Press」で話している。

ダイエットとメンタルヘルスが一石二鳥!「テニス健康法」とは
「Yahoo! News」より

 成績だけでなく顔や体型やファッションという見た目でもいろんなことを言われる女子アスリートは、男子選手よりも摂食障害などのメンタル面でのコンディション低下をはるかに招きやすいということだ。そしてブシャール選手の場合、皮肉なことに2014年に活躍し過ぎたことがこの摂食障害の大きな原因になっているという。

 2014年の全豪オープン、全仏オープンでベスト4進出、ウィンブルドンでの決勝進出と一躍トッププレーヤーとなったブシャール選手に、メディアの取材も殺到して“シンデレラ”状態になったことが摂食障害の引き金になっているというのである。つまりこれ以降の彼女はこれまで以上に負けることへの恐怖が増大していったということだ。シーズン終盤には落とすゲームもやや増え、ますます彼女の中で重圧が増していったという。こうしてブシャール選手は食事がノドを通らなくなったのだ。

 ジワジワとゆっくり経験を積んで頭角あらわしてきた選手に比べて、短期間で一気にランキングを上げてきた選手には思わぬ陥穽が待ち受けているということにもなるだろうか。こうした摂食障害のケースは、女子テニス選手のほかにも、女子体操選手やプロダンサーなどにもよく見られるということだ。また女子フィギュア選手の摂食障害はけっこう耳にしたことがあるのではないだろうか。スポーツの世界においてメンタルヘルスの管理がきわめて重要であることがあらためて確認できる話題だろう。

■テニスで心身の健康

 アスリートにとっては皮肉なことにストレスの発生原にもなってしまう競技スポーツだが、もちろん一般人にとっては良い運動の機会になりメンタルの健康にも大きく寄与するものになる。テニスが心身の健康に及ぼす好影響を「LIVESTRONG.COM」が解説している。

●ストレスの緩和

 運動の負荷が中程度から激しいスポーツは、セロトニンの分泌を促しポジティブな精神状態へと導く。

『食べてやせる人 食べないで太る人』、『2週間ですぐできる 若さのスイッチを入れる方法』(共に東京書籍)などの著作でも知られるメフメト・オズ医師は、不安やうつ、ストレスの緩和には20〜30分の運動が効果的であると説いている。そして1人で行なう運動よりもテニスなどは声をかけあうなど社交的な要素も加わることから、よりストレスの解消に有効であり、精神的充足感を得られやすいということだ。

●循環器系の運動になる点

 テニスのゲーム中は心拍数が上がり、カロリーの消費も大きくなるため効果的な減量にも繋がる。さらに循環器系の機能を鍛えることで心臓病や心臓発作、脳卒中のリスクを低減することができる。

 健康情報サイト「HealthStatus」によれば、体重73kgの人間はテニス(シングルス)のゲーム30分で220キロカロリーを消費するということだ。週に数回、テニスをする機会があれば楽しみながらダイエットができることになる。

ダイエットとメンタルヘルスが一石二鳥!「テニス健康法」とは
「LIVESTRONG.COM」より

●カラダが整う

 コートの中でダッシュを繰り返し、ラケットをコントロールして狙った場所にボールを打ち込み、相手の返球を予測するといったゲームの一連の動きを通じて心身が整えられる。

 つまり思った通りに身体を動かすことができるようになるのだ。具体的には動きのスピードのコントロールや、バランス感覚、関節の柔軟性と可動性が向上する。またこの能力は、習字やビデオゲーム、芸術作品の創作などと関係があるといわれている。

●自信が増す

 テニスのゲームで複雑なプレイを成し遂げられた時には、確実に自信を得ることができる。

 テニス教室でジュニア選手をコーチしているブライアン・ラフナー氏によれば、子どもたちはテニスの技量をあげることで自分に自信を持ち、この自信が学業の成績にも影響を及ぼしているということだ。そして社会人にとっても、テニスで培った自信が仕事の業績や円滑な人間関係の向上に結びつくということである。テニス観戦も楽しいものだが、興味を持った向きは心身の健康のために一度テニスをやってみるのもよいだろう。

■ジュニア選手は身体の成熟度にあわせて養成すべき

 ジュニア選手の話題も出たが、テニスにまつわる最新情報としては、未来のチャンピオンを探す科学的手法が本格的に取り入れられようとしている。ジュニア選手の育成にはもはや年齢は関係ないというのである。

 イギリス・バース大学の研究は、育成中のジュニア選手のグループ分けは、年齢ではなく身体の成熟度によって行なうべきだと指摘している。そのほうが各人の身体的条件に見合った練習プログラムを与えることができ、才能の発掘に有利であるということだ。

 どのスポーツでも、ジュニア選手を対象に才能の発掘が行なわれているが、その際に目立つのが身体的に早熟な選手たちである。背が高く、敏捷性に優れ、大きくて力強い早熟の選手が試合においてきわめて有利であることは明白で、テニスでもジュニア期において身長が1インチ高いと、サービスのスピードが5%あがるといわれている。晩熟型の選手はこの時点でその才能を見落とされてしまうケースが少なくないということだ。

ダイエットとメンタルヘルスが一石二鳥!「テニス健康法」とは
「Australian Herald」より

 イギリスのテニス組織「Lawn Tennis Association」はバース大学の科学者と協働して新たな統計学的手法でジュニア選手の選抜に取り組んでいる。それはジュニア選手の年齢は一度無視して、各人の身体的成熟度を正確に計測してクラス分けをするバイオ・バンディング(bio-banding)と呼ばれる統計学的手法である。

 選手を成熟度別に扱うことでそれぞれに適切なトレーニングプログラムを与えることができ、早熟の選手にも晩熟の選手にもメリットを生むものになるという。得てして早熟型の選手は、そのサービスの速さから同世代の中で“ビッグサーバー”として頭角をあらわしてくるが、そのことが早熟型選手をパワー重視のテニスに導き、細かい技術を深めていくトレーニングがおろそかになりがちだという。そしてジュニア時代はパワーで押し切れたテニスが、成人を迎えて行き詰まるケースが多いという。しかしバイオ・バンディングによって早熟型の選手にこの傾向を早く気づかせることができるのだ。

 そして一方の晩熟型選手には技術面の習得に専念させることで、身体の成長に併せて徐々にゆっくりと力量を向上させることができる。お互いに本当の勝負が決してジュニア時代にあるのではなく、大人になってからであると意識させることもできる。

 イギリスのサッカー・プレミアリーグの選手養成機関「Premier League football academies」では、一足先にこのバイオ・バンディングが採用され実績を積んでいるということだ。またバース大学の研究者はこのバイオ・バンディングをサッカーやテニスだけでなく、ラグビーやダンスなどにも適用させることを考えているという。ということは、今後は科学的に発掘、育成された大器晩成型の選手がますます活躍する時代になっていきそうだ。社会の高齢化が進む中にもあって、いろんな意味で「急いては事を仕損じる」時代になったのかもしれない。

文/仲田しんじ

フリーライター。海外ニュースからゲーム情報、アダルトネタまで守備範囲は広い。つい放置しがちなツイッターは @nakata66shinji