物事をいい方にいい方に考えて期待し、あとあと失望した、という経験を持つ人は多いはず。期待しすぎると失望するとわかっていても、やっぱりどこかで期待してしまうのが人間。今回は期待しすぎが仇になった、源氏の恋の失敗談を紹介しましょう。

「完全な上書き保存型」源氏は過去の女を忘れない

時間が少し遡り、この話の始まりは源氏18歳の早春から。まだ紫の君に出会う数ヶ月前、夕顔の死のショックを引きずっている頃です。源氏は自宅の二条院にお気に入りの女性連れてくる計画を諦めていませんでした。

夕顔、空蝉、軒端荻……。彼女らのことを思い出し、時に手紙を出したりしつつ、源氏が思うことは1つ。やっぱり、また夕顔のような女の子と恋愛したい。そう思って、良さそうな女性にはアプローチしたりもしていますが、どうにもパッとしない日々が続きます。

よく、恋愛について「男は別名で保存、女は上書き保存」とか言われます。源氏は典型的な別名で保存型で、一度でも関係した女性は忘れない、自分から捨てるようなことはしない男でした。その分、相手から見切られる・捨てられるのは根に持つタイプです。

モテ女子からの耳寄り情報、一人ぼっちの高貴な姫君

源氏の乳母(惟光の乳母とは別人)の娘に、大輔命婦(たゆうのみょうぶ)という人がいました。皇族の血を引いた帝の側近くに仕える女房で、源氏も宮中にいる時は特に親しくしています。彼女は恋の噂の多い、モテ女子です。

命婦は、亡くなった常陸宮の姫君が、一人ぼっちで寂しく暮らしている話をしました。「詳しいご様子は私もよく知らないんですが、いつもお独りで寂しく、琴を弾いてお過ごしです」。

源氏は「それは素敵だ。亡くなった宮さまは音楽に造詣の深い方でいらしたから、姫君の琴を一度聞いてみたい。案内してくれないか」。

最近不振続きで、ちょっとでも良さそうな女性がいれば!と思っている源氏は食いつきます。命婦は面倒だなあと思いつつ、適当な日に源氏を案内しました。宮家と言ってもお金がないので、古く荒れ果てたお屋敷です。

命婦がお願いして、姫君の琴の演奏が始まりました。上手いとも下手とも、微妙な腕前です。源氏は離れた部屋で聞いていますが、なんとも言えない。命婦は「うーん、長く演奏させるとマズイな」と、適当に終了させます。

源氏は物足りず、戻ってきた命婦に文句を言います。「もう終わり?あれじゃよくわからないよ。できれば直接、姫君にお話ができるといいんだが」。もう攻める気まんまん。

恋愛経験豊富な命婦は、直感的に「ここは焦らすべき」と判断。源氏はまんまと策にハマり、気持ちを煽られます。

命婦はそれがおかしくて「帝はいつも『源氏は真面目だ、真面目だ』とおっしゃるけれど、こんなところを見たらなんと思われるかしら」。

源氏は宮中では女房たちに手を出さないので、父親の桐壺帝からすると、真面目な息子に見えているらしい。藤壺の宮と源氏がどうなっているかも知らず、なんともお気の毒です。

命婦の言葉を聞いて、源氏もすかさず「何言ってるんだ、そんなこと言ったら、君の遊び放題はどう説明するの」と鋭くツッコミ返しています。源氏に負けないぐらいの遊び人?彼女の恋愛話も聞いてみたかった気がします。

源氏を尾行してきた怪しい男、その正体は

源氏が帰ろうとすると、壊れかけた垣根に怪しい男が。彼は頭の中将でした。一緒に宮中を出たのに、左大臣家にもいかず、二条院にも帰らなかった源氏を不審に思い、後をつけてきたのです。しかもわざわざ変装までして……。

源氏は笑ってしまい、他の予定をキャンセルして、2人で一緒に左大臣家に。仲良く笛を合奏しながらやってきた2人に、義父の左大臣も参加。楽しい音楽の夜です。肝心の妻・葵の上以外の義理の家族とは、源氏は良い関係を築いています。

源氏と頭の中将の話題は、あの姫君のこと。「古びた邸に、高貴な姫君が一人寂しく琴を相手に過ごしている…たまらんね〜!」。2人の妄想は広がり、お互いに先を越そうとラブレター合戦を開始。ところが姫君からの返事はナシ。

頭の中将は頭にきて、源氏にも相談します。「何故かわからないがスルーだ。そっちはどう?」「さあ、どうだったっけ」。

源氏もスルーにムカついて放置する気でいましたが、頭の中将に横取りされるのはなんだか嫌だ。大して本命というのではないけど、他の男にとられるのはやっぱり悔しい! 早速命婦に相談します。

命婦は知っている情報を全て話し「とにかく古風なお家の、内気なお姫様なので」。源氏は「おっとりのんびりした方なんだな、その方がいいな」といい方にいい方に捉えます。

その後、紫の君を見初めたり、藤壺の宮妊娠の件などがあり、あっという間に半年が経ちました。

期待から失望へ……無言で結ばれた初めての夜

秋。源氏は夕顔のことを思い出していました。とにかく夕顔のことを引きずっています。寂しさから、久しぶりに姫君に手紙を出しますが、やっぱりスルー。

源氏から文句を言われた命婦も困りました。
(世間話のつもりだったのに、マジになってきちゃった、ウザ〜。下手に取り持っちゃうと、かえって姫君が不幸になったりしないかなあ。でも断る理由もないかなぁ。

あのお家も荒れ放題だし、誰か頼りになる方がいらっしゃると助かるのよね。それならちょっと会わせて、ダメならそれっきりでいいし、恋愛になっても文句言う人もいないし。まあ、いいじゃん)

というわけで、出会いの場をセッティング。この辺りの素早さ、恋愛なれしてる女の子っぽい!

源氏が通された部屋に、姫君が入ってきたらしく、フワッと香りが漂いました。源氏は(おお!本当にいらしたんだ!)とワクワク。最後の最後まで相手の姿がわからない恋愛は、想像力が全て。相手の声、香りなど、五感をフル活用するんだなあというのがよくわかります。

源氏は姫君に、自分の恋心をとうとうと話しますが、無言。最初は「小洒落た返事をする女性より、のんびりおっとりしている方がいい」と好意的に捉えていた源氏も、だんだん不安になります。「あの、そこにいらっしゃいますよね?」

源氏の困惑に、若い女房の侍従がうまく助け舟を出しますが、埒が明かず。この家にはほとんどおばあちゃん女房しかいないので、夜早い時間でももう寝ているか、ぼーっと源氏に見とれているかで、こういう時役に立たない様子。

コミュニケーションが取れないまま、源氏は焦れて、ついに姫君の方へ押し入ってしまいました。あーあ。

姫君はなすがまま。源氏は「初めてで大事に育てられた人なら、こんなもんだろう」と思いますが、あまりに何の反応もないのにガッカリ。

それに暗闇の中、手探りで触れた彼女の服や体にも「???」。なんか、思ってたのと違う…。勝手に盛り上がっていた分、幻滅してそそくさと二条院に帰宅。

二度寝しながら「ハズしたな〜。でも相手の身分がら一回きりで終わりというわけにもいかないし、うまくいかないもんだ」と心のなかでボヤく始末です。

しなやかに源氏を拒んだ空蝉、初めてだったのに抵抗のなかった軒端荻、ぴったりと源氏に寄り添うようだった夕顔など、かつての女性たちの反応とは一線を画すこの姫君。この後、ガッカリどころではない衝撃が、次々と源氏を襲います。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

(画像は筆者作成)

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか