TOEIC満点記者が潜入取材! 英語学習の革命が起こるセブ島の今

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「安かろう悪かろう」とも言われてきたフィリピン留学が近年、目覚ましい進化を遂げ、多くの日本ビジネスマンを引きつけている。英語教育の”イノベーション”が生まれる島、セブを訪ねた。[後編は8/31公開]

「留学先としていろいろな国を調べたんですが、アメリカだと授業はだいたい半日くらいしかない。フィリピンだと安いし、朝から晩まで丸一日勉強できるのでいいかなと思いました」

セブ島の大手語学学校「QQイングリッシュ」に留学中の高橋夏美さん(33)は、3カ月間のフィリピン留学を決めた理由をこう語る。

前職は旅行代理店のツアー販売員。同校では1日8時間のコースをとり、旅行英語のクラスもとっている。将来はハワイで旅行関連業に就きたいという。フィリピンでは今、高橋さんのように転職やスキルアップのために英語を学びにくる日本人が急増している(以下のグラフ参照)。

英語はタガログ語と並ぶ同国の公用語。フィリピン人の英語力はネイティブ並みで、ビジネス英語の通用度に関しては同国が「世界一」だとする調査結果もある。

フィリピン留学のいったい何が魅力なのか。QQイングリッシュの代表、藤岡頼光氏は、「近い、安い、マンツーマン」の3つの特徴を挙げる。

「ロサンゼルスやシドニーなら飛行機で片道10時間くらいかかりますが、フィリピンならたった5時間で行ける。そして留学費用は欧米の半額程度。しかも授業はマンツーマン中心なので、自分のペースで自分に必要な英語を勉強できます」

そして高橋さんも指摘するとおり、授業は朝から晩まで1日6〜10時間くらいあり、どっぷりと英語に漬かる環境が用意されている。フィリピンは日本人が不得手な英語の「実践力」を徹底的に鍛えられる場所として人気なのだ。

だがフィリピン留学には「安かろう悪かろう」というイメージもつきまとう。

藤岡氏は11年前、当時セブで1校しかなかった韓国系の学校へ留学したことがある。

「そのときの学校のホームページに書いてあった売り文句は『3食キムチが食べられます』。生徒の95%が韓国人で、食事も韓国料理ばかり。シャワーはお湯が出なくて、大部屋に10人の集団生活でした。韓国は徴兵制度があるので、彼らは軍隊式の生活に慣れていますが、日本人にはなかなかつらい環境だったと思います」

もともとフィリピンで語学学校を成功させたのは韓国人。1990年代後半のアジア通貨危機で自国の経済が崩壊寸前となり、世界へ出ていく必要に迫られた韓国人は、安価に英語を学べるフィリピンに目をつけた。

そして「外出禁止」「母語禁止」など厳しいルールを敷いた「スパルタ」式と呼ばれる英語の集中特訓スタイルを確立。日本でも徐々にその存在が知られるようになり、日本人留学生も増えたが、食事や生活環境などに馴染めない人は少なくなかったようだ。

だが最近の日本人経営の語学学校に、そんな厳しい面影はほとんど感じられない。

QQイングリッシュが海岸沿いに昨年オープンさせた2つ目のキャンパス「シーフロント校」を訪ねた。

リゾートホテルを改築したという白亜の校舎には、通常の一人部屋や相部屋とは別に、エグゼクティブ向けの宿泊ルームも設けられている。共有スペースにはプールやビリヤード台、卓球台などがあり、秋にはジムやスパもオープン予定だという。

なぜフィリピン人教師は「世界一」なのか

目新しいのは校舎や寮だけでない。授業の質自体も向上している。以前のフィリピン留学は「先生にカリキュラムを任せっぱなし」と批判されることもあった。

「忙しいシーズンに1週間だけ雇われている先生もいて、授業中に先生から『もう来週辞める』なんて言われたこともあります。どちらかというと、英語が話せるフィリピン人をただ寄せ集めて授業させているという感じでした」と、セブで2校の留学経験をもつ中西佑樹氏は言う。

中西氏は昨年、米アップルの元シニアマネジャー松井博氏とともに、セブ市内に語学学校「ブライチャー」を立ち上げた。そのブライチャーで顧問として、自ら教鞭もとる松井氏はこう説明する。

「フィリピンで英語教師は二流の職業。短期雇用だからです。一流なのはコールセンターのオペレーター。正規雇用だし、アメリカ人相手に話さないといけないから、要求される英語の水準もずっと高い」

今でも英語教師の待遇はそれほどよいわけではないが、ブライチャーをはじめ、正規雇用を打ち出す学校も出始めている。

その先駆けとなったのは、前出のQQイングリッシュだ。同校では800人いる教師全員を正社員化。また教師のトレーニングにも日々力を入れ、全員が英語教授法の資格「TESOL」を取得している。

一方、社会人限定の「MBAセブ校」もカリキュラムには定評がある学校の一つ。生徒数が40人程度とコンパクトな同校では、生徒一人ひとりのニーズに合わせてカスタマイズした授業づくりを心がけている。代表の呉宗樹氏は説明する。

「1カ月後に顧客に英語でプレゼンテーションをしなければいけないとします。であれば、どういったプレゼンなのか詳しく話を聞いて、先生と一緒にプレゼン資料を作っていき、文章構成のチェックから、実際のプレゼンの演習までやったりします」

通信関連企業の研修で同校に留学した武藤彰英さん(46)は「先生の質の高さに驚いた」と語る。

「日本で英会話学校に通ったことがありますが、先生としゃべるだけみたいな感じで、そんなに一生懸命教えてくれなかった。でもここでは先生が非常に熱心で厳しく教えてくれる。宿題もいっぱい出るし、忘れると怒られるし、真剣なのが伝わってくるから、こちらも頑張らないといけないって思います」

フィリピン人の先生は総じて英語に堪能だが、個人差もあり、訛りがまったくないわけではない。それでも非ネイティブであることは逆に「強み」になる、と前出の藤岡氏は言う。

「僕はフィリピンの先生が世界で一番英語を教えるのがうまいと思っています。それは彼らがネイティブじゃないから。フィリピン人は母語が別にあって、小学校から英語を外国語として習い、話せるようになっています。だから彼らは英語の勉強が大変だということも知っているんです」

さらに文化的にフィリピン人が英語教師に向いている理由があるという。

「フィリピン人は世界で家政婦や看護師としてたくさん活躍しています。彼らは他人のために何かするのに長けているんです。なぜなら、多くのフィリピン人は大家族の中で生きているから。ここではきょうだいが5人、10人いるのは当たり前で、みんなで助け合って生きている。だからその助け合いの精神、つまりホスピタリティが世界一強いのがフィリピン人だと思っています」(藤岡氏)

授業や生活の質が向上したことで、意外な生徒がフィリピンに来るようになった。子どもたちだ。

セブ市内から車で1時間ほど離れた、マクタン島にある日系の語学学校「ファーストイングリッシュグローバルカレッジ」を訪ねた。代表の本多正治氏は日本で学習塾チェーンを経営し、そのノウハウを活かした丁寧な指導で評判だ。「親子留学」の受け入れ実績も多く、春や夏には小学生以上を対象にしたキッズキャンプも開催している。

取材時はまだ日本の夏休み前だったが、2組の親子(子どもは4〜6歳)が学んでいた。

フィリピンに子連れで留学することに不安はなかったのだろうか。母親のSさん(30代)は答える。

「フィリピンって治安とか水とか食事とかがちょっと危ないかなと思っていました。チビ2人を連れてくるのはかなり勇気がいりましたね。いざ来てみると、やはりここは途上国で、街の雰囲気も想像通り。買い物とかで外出するときは不安でいっぱいです。でも毎日いろんな発見があるので、そういうところを含めて、疲れるけど楽しいですね」

セブはフィリピンの中でも比較的治安は良いとされるが、日本のように公園で子どもを遊ばせるという文化はない。そのため、「子どもを遊ばせる場所があまりなくて困っています」と、別の母親は悩みを打ち明けた。

ハワイ留学のように、という感じにはいかない。

[後編は8/31公開]