法定後見と任意後見の二つの種類がある(週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より)

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 判断能力が低下すると、財産管理や施設への入所契約が難しくなるほか、悪徳商法などの被害にもあいやすくなる。そこで重要な役割を担うのが成年後見制度だ。週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』では、認知高齢者トラブルを防ぐために活用すべき、成年後見制度について調べました。

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「平成26年版高齢社会白書」によると、2013年のオレオレ詐欺や還付金等詐欺などの「振り込め詐欺」は前年の約1.5倍に増加。被害者の約9割は60歳以上だ。また、国民生活センターによると、健康食品の送りつけ商法など、13年に全国の消費生活センターに寄せられた相談のうち、認知症などにより判断能力が不十分な高齢者の被害トラブルが過去最高件数となり、10年前の倍に。

 このように認知症高齢者のトラブルは増えている。こうしたトラブルを防ぐ役割を担うのが、00年に介護保険制度と同時に始まった成年後見制度だ。16年5月からは成年後見制度の利用を促す「成年後見制度利用促進法」も施行されている。

 成年後見制度は、認知症などによって判断能力が不十分な人を法律面や生活面で保護する制度で、成年後見人と呼ばれる人が本人に代わって財産管理や施設の入退所の契約などをすることができる。医療や介護に関する法律サポートに詳しい弁護士の表宏機さんはこう話す。

「後見人がお金や車の鍵を管理することで、認知症高齢者に多いさまざまなトラブルの大半は防げます。また、犯罪者は後見人がいる人をターゲットにしにくいという面もあります。詐欺被害にあうかもしれないといった不安が解消されるので、高齢者の方々の心理的な効果も大きいといえます」

 成年後見人の主な仕事は「財産管理」と「身上監護」だ。財産管理は本人の預貯金や不動産の管理をしたり、税金の支払いや確定申告、生活保護の申請をしたりすることを指す。身上監護は居住環境の確認や調整、家屋の修繕や庭の手入れの契約、要介護認定の申請や更新、介護サービスの契約や老人施設などの入退所に関する契約、医療保険証の交付手続きなどをすることだ。本人がした契約でも後見人が同意していなければ、後日取り消せる。後見人にはおこなった業務を定期的に裁判所に報告する義務もある。

「誤解されやすいのですが、食料品や衣料品といった日用品の購入など身の回りの世話は後見人の仕事ではありません。治療、手術、延命措置などの医療同意も後見人の職務ではありません」(表さん)

 成年後見制度は大きく分けると「法定後見制度」と「任意後見制度」の二つがある。法定後見は、認知症などで判断能力が低下してから家庭裁判所に申し立て、裁判所に認められると裁判所が選んだ後見人がすぐに後見を開始する。申し立てができるのは、本人のほか、配偶者、4親等内の親族、弁護士・司法書士などの法律専門職、社会福祉士などだ。身寄りがない人は市区町村長が申し立て、法律専門職、社会福祉士や市民後見人が後見人に選ばれる。法廷後見は本人の判断能力の程度によって、さらに「補助」「保佐」「後見」に分けられ、支援内容が異なる。

 一方、任意後見は本人の判断能力があるうちに、将来認知症などで判断能力がなくなったときに備えて後見人を選んでおく制度だ。後見人に特別な資格はなく、子どもや配偶者などの家族、知人を後見人にすることもできる。これまで後見人になるのは家族が多かったが、近年は一人暮らし世帯の増加などにより、専門職が後見になる場合が多くなっている。

 任意後見制度を利用するにはまず、必要書類を用意して本人と後見人になる人が一緒に公証役場に行き、任意後見契約を結ぶ。いざ本人が認知症になったら主に後見人が家庭裁判所に申し立てをし、裁判所に「任意後見監督人」を選んでもらう。任意後見監督人とは、後見人が不正をしていないかどうかを監督する立場の人のことで弁護士などが選任される。

 14年の統計では、成年後見制度の利用者は18万4670人、任意後見制度の利用者はわずか2119人。認知症が800万人に増えるといわれるなか、利用者は少ない。表さんはこう話す。

「たとえば財産が少ない場合はトラブルに巻き込まれる可能性は低く、必ずしも後見人をつけなくてもいいかもしれません。また、財産があっても相続人が1人で、かつ同居している場合も後見人の必要性は低いといえるでしょう。しかし相続人が1人もいない場合や、相続人が2人以上でなおかつ財産がある場合、後見人をつけることでトラブルを防げます」

 財産があればそれだけ詐欺被害や無駄な買い物をくり返すなどの金銭トラブルが起きる可能性が高くなる。また、子どもが複数いる場合、財産を管理している人が、ほかの兄弟姉妹から使い込みを疑われることなどもある。

 また、表さんは成年後見制度の中でも任意後見の利用をすすめる。

「自分の意思で後見人候補者を選ぶことができるほか、法定後見とは異なり、必ず後見監督人がつくので、後見人の使い込みなどのトラブルを防げます」

 法定後見は、本人が知らない人や望まない人が後見人に選ばれることがある。

「任意後見では、専門家が後見人になる場合でも、後見がスタートするまでにご本人との信頼関係を築くことができます。後見人の立場からいっても知っている方の後見をすることは、やりがいにつながると思います」(表さん)

 実際には後見開始前の見守りは、任意後見人の職務ではない。そこで、別途「財産管理契約」「見守り契約」などを結んでおけば、後見開始前でも任意後見人と定期的に話す機会ができ、その間に信頼できる人かどうかを見極められる。専門家だからと安心して契約を結んだらいつの間にか財産の一部をだましとられていたという事件もあるので、事前に信頼できるかどうか、実感しておきたい。

 また任意後見では、任意後見人に将来の生活、医療、介護に関する希望を事前に伝えておける。意思は、エンディングノートなどに記しておくほか、データベースに登録できるサービスもある。(取材・文/中寺暁子)

■任意後見と法定後見で悩んだときのチェックポイント
<相続人>
・相続人が1人のみ。または2人以上で関係性が良好 → 法定
・相続人がいない。相続人が2人以上で関係性が悪い → 任意

<財産>
・本人の財産の額が少なく、種類も限られている → 法定
・本人の財産の額が多く、種類も多様 → 任意

<自分らしさ>
・老後の生活環境や介護のあり方、財産の管理・相続人への引き継ぎなどにこだわりがあまりない → 法定
・上記のことにこだわりがあり、自分の意思を事前に伝えたい → 任意

※週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より