隣りのベランダからくるタバコ…  法律は助けてくれる?

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執筆:伊藤 誠吾(弁護士)

喫煙・受動喫煙の健康への影響が指摘され始めてから、かなりの期間が経過しました。日本でも「健康増進法」「歩きタバコ禁止条例」などの法令が整備されました。

私たちの身の回りを見ても、分煙化が進み、明らかに喫煙できるスペースが減りつつあります。一般家庭においてはどうでしょうか。屋内では禁煙とする家庭が多くなり、アパートやマンション住まいの家庭では、タバコを吸う家族は「ベランダでの喫煙」が常です。

しかしこのベランダで喫煙する行為は、同じ建物の上階や隣に住む住民との間で、「部屋にタバコの煙が入ってくる」「洗濯物にタバコの匂いがつく」などの苦情でトラブルとなるケースがあるようです。そこで今回は、法律的な観点から、この事態を考えてみたいと思います。

ベランダでの喫煙 が民事上の不法行為となるとした裁判例がある!

この問題を考えるにあたって注目されるのが、平成24年12月13日に出された名古屋地裁の判決です。

このケースは、マンションに住むBさん(原告)が、真下に住むAさん(被告)に部屋のベランダで喫煙を継続していることで、Bさんの居室ベランダや室内にタバコの煙が流れ込み、それが原因で体調を悪化させ、精神的肉体的損害を被った、としてAさんに対し150万円の損害賠償の支払いをBさんが求めた事案です。

裁判所は、「タバコの煙が周囲の者の健康にも悪影響を及ぼす恐れがあることは公知の事実」「マンションの使用規則がベランダでの喫煙を禁じていない場合であっても、他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら喫煙を継続し、何らこれを防止する措置を取らない場合には、喫煙により損害賠償義務を負う場合がある」として、Bさんの主張を一部認め、Aさんに対し5万円の慰謝料の支払いを命じました。

Bさんは、「Aさんの喫煙により帯状疱疹を発症した」など健康被害も主張していました。しかし裁判所はこれらとAさんの喫煙との間の因果関係は認めず、精神的ストレスに対する慰謝料のみ認めたわけです。


もっともその中で、Bさんに対しても「互いの住居が近接しているマンションに住むのだから、タバコの煙が室内に流入することもある程度、受忍(耐え忍んで我慢すること)すべき義務がある」という趣旨のことを裁判所は指摘しています。

上記裁判例の論理は、騒音の場合と基本的に同じ方向性のものです。
つまり騒音の場合、一般的な生活音であれば「共同住宅において、共同生活を営む上で各居住者が互いに我慢すべき」とされますが、それを超えるような場合(受忍限度を超える場合)には不法行為責任が生じます。これと同じように、一般的なレベルを超えるような場合には、喫煙行為にも不法行為責任が生じるとしたのです。

ベランダでの喫煙 どう考えるべきか

ベランダで喫煙をすれば、すぐに不法行為になる、というわけではもちろんありません。しかし、喫煙者は上記裁判例のような場合に不法行為責任が生じることがある、ということを十分認識しておくべきです。


次に、迷惑を被っていると考える方は、上記のような裁判例があるといえども「ベランダでの喫煙行為がすぐに違法になるとまではいえない」ことに留意すべきでしょう。

手順としては、まずは大家さんや管理会社の人に申し入れ、マンション全体の管理上の問題として解決することを心がけるべきだと思います。

それでも解決しない場合は、大家さんや管理会社に間に入ってもらえるようお願いしましょう。そのうえで、「客観的数値」を計測して「証拠収集」をしたり、個別に喫煙をやめてもらうようお願いしたり、話し合いをもったり、苦情の申し入れ等をしたり、または弁護士に相談したりといったアクションが考えられるところではあります。


しかしそのような行動は、対立を先鋭化させ、日常生活が快くないものになりかねませんよね。場合によっては訴訟にもなってしまいます。こういった行為は、最終手段と考えるべきでしょう。

マンションやアパートは、「互いの住居が近接している」という大前提の上で、各居住者は生活を営んでいます。喫煙者も、喫煙しない周りの居住者も、そのような状況に対し理解と配慮をすること。それが最も重要なことでしょう。