『ヤクザライフ』(上野友行/双葉社)

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 ヤクザの普段の生活と聞いて、多くの人は、任侠映画さながらの指詰めや銃撃戦の抗争などを想像するに違いない。また、この『ヤクザライフ』(双葉社)を書店で見かけた人にしてみれば、表紙絵を描いているのが真鍋昌平氏(漫画『闇金ウシジマくん』の作者)で、同氏描き下ろしの「指詰め」ポストカードという物騒な特典が付くことも、ヤクザに対してバイオレンスなイメージを持つ要因になっているのだろう。

 しかし、一度中身を読み進めれば、そんな固定観念は一挙に覆るはずだ。ヤクザだってFacebookやLINEをするし、料理だってお手のもの。

 カタギにとっては意外なヤクザの「日常」にフォーカスした本書の著者は、上野友行氏。現在、裏社会ライターとして活動しており、これまでに『デキるヤクザの人たらし交渉術』(双葉社)や『「隠れ不良」からわが身を守る生活裏防衛術』(双葉社)などを執筆してきた。

 今作中では上野氏が密着したヤクザ関係者16人の日常が綴られているが、その中からとくにインパクトのある3名のエピソードを見ていこう。

■喧嘩から逃げ出すマイルドヤクザ

 深夜の繁華街で、同じ一家内の組同士で小競り合いが勃発。ある若手ヤクザは、自分の兄貴分が袋叩きに遭っているにもかかわらず、なぜ か野次馬の中に身を置き、そこから動こうとしなかった。(ヤクザの)TPO的には、明らかに加勢する場面だ。当然、兄貴分から加勢と援軍の招集を命令されるが、若手ヤクザはキレ気味にこう叫んだという。

「みんな『既読スルー』で返事が来ないんスよーッ!」

 最近では、こういった「身体ばっかいっちょ前に鍛えてやがるくせに、ろくに喧嘩もできねぇ」マイルドヤクザが増えているとか。

■実名でSNSを利用するヤクザ

 ヤクザの多くが今やSNSを使いこなしているという事実は、あまり世間に知られていない。知人の誕生日には我先にとお祝いメッセージを送り、義理堅い彼らはバンバン「いいね!」を押す。

 さらに、2015年11月の「パリ同時多発テロ事件」で、世界中のFacebookユーザーの間で犠牲者を悼む運動が行なわれた際、なんとヤクザまでもが「世界平和」を祈り、イベントに参加していたという。

 これらは「ヤクザとしての営業活動」の一環らしいが、その一方で「無差別テロとか最悪じゃないですか。俺ら(ヤクザ)は、無差別はない……テロと任侠道はもっとも相反するもの」と組員は語っている。

 ネットでの炎上事件やイジメなどが頻発している昨今、これだけ正しくSNSを使いこなせているユーザーは果たしているのだろうか。

■白身魚のムニエルを作る料理当番のヤクザ

 ヤクザの包丁は突いたり、斬ったりするばかりじゃない。組事務所では、当番や若い衆が台所に立つのが当たり前らしく、大抵の組員は料理ができるそうだ。

 ある組員は、ブロッコリーが浮かんだ白いスープに、ジェノベーゼ風のパスタ、白身魚のムニエルまで作れるという。なぜこんなに料理が得意なのか? という著者の質問に組員はこう答えた。

「(朝、女がベッドから目覚めて)男が料理作って待ってたらかっこよくないですか?(笑) 最初はそれがきっかけです。理想は、女の家の冷蔵庫に入っている残り物でチャチャッとなにか作っちゃうことなんですよ。だから、メニューとかも色々研究して。あ、家じゃ盛りつけとかもちゃんとやるんですよ。皿とかマットとか(にもこだわっています)」

 任侠の世界も料理ができて、マメな男ほどモテるのは変わらないらしい。

 本書では、ここで取りあげた3名以外にも、「今から(自分の)指落とすんですけど、ネタになりますかね?」と取材に協力的なヤクザや、Facebookに「組から逃げてこっちで楽しくやってます☆ ウェーイwww」と写真をアップする元組員の日常を描いている。

 これまで「反社会的勢力」というイメージしかなかったヤクザが、敵前逃亡し、SNSを使いこなし、白身魚のムニエルを作る姿を誰が想像しただろう。時代の流れとともに、極道の世界も変革を迫られているのかもしれない。

文=岡田光雄(清談社)