森理世が振付けた「アリエル」。まだ選手ではない、初心者の子供も多い

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■ 発表会にミス・ユニバース森理世が登場

【写真を見る】上半身をしっかり使わせて、魅力的に見せる振付を心掛けたように見受けられた

7月9日、新潟クラブの発表会において、ひときわ目を惹く存在があった。2007年のミス・ユニバース優勝者であり、ダンサー、振付師としても活躍する森理世だ。スケートクラブの発表会という、いわば草の根の活動ともいうべき場に、なぜ彼女が関わることになったのか、その経緯、そして彼女のフィギュアスケートに対する思いなど、話を聞いた。

「スケートは、昨年まで一度もしたことがなかったんです。“スペシャルオリンピックス日本”のドリームサポーターを務めさせていただいたのがきっかけで、フィギュアスケートに関わることになりました」(森)

スペシャルオリンピックスというのは、知的障害のある人たちに様々なスポーツトレーニングの機会を与え、成果の発表の場としての競技会を提供する活動を行っているスポーツ組織だ。

「今年の2月、新潟大会が開催されたんです。世界大会に行く選手を決めるための大きな大会です。現在、スペシャルオリンピックスではユニファイドという競技に力を入れています」(森)

ユニファイドとは、知的障害者と健常者が一緒になってスポーツを楽しむ、という競技である。

「自分がドリームサポーターとして何か役に立てないか、世間の皆様にこの活動を知っていただくために何をすれば良いか、と考えた時に、私自身がユニファイドの選手としてフィギュアスケートに取り組む、というアイデアが浮かび、夏から約半年間、練習を積んで新潟大会に出場したんです。その折に、新潟クラブの松澤先生とも知り合いました」(森)

普段は静岡を拠点にしている彼女だが、地元にはリンクがないため、東京、新潟に出張して練習したという。初めてのフィギュアスケート体験は、大変に苦労したようだ。

「私もダンサーなので、バランス感覚には自信がありましたが、今まで自分の培ってきたバランス感覚、勘が氷の上では全く通用しなかったんです。最初は立つことも出来ず、ペンギンのようによちよち歩いていました」(森)

スケジュールの合間を縫っての練習のため、ようやく基礎の基礎を教えてもらった段階だという。それでもスパイラルは出来るようになった。

「バレエのアラベスクが出来るからスパイラルも出来るだろう、と最初は思っていました。ところが実際にやってみると全然違うものでした。苦労しましたが、新しいバランスの取り方を追求していくことはとても楽しく、私のダンスにも良い影響がありました」(森)

今回、彼女はいくつかの演目の振付を担当し、スケート靴を履いての出演もすることになった。

「スケートの振付は今回が初めてです。ジャズダンス、バレエのインストラクターもしているので、普段から振付の機会は多いんですが、氷の上で自分の振付がどうなるかは全く想像がつきませんでした。素晴らしい経験になりました」(森)

カナダのバレエ学校で教師過程を修め、パリでもバレエを指導している彼女は、それらの経験をスケーターへの指導にも活かしたい、との思いが強いようだ。

「8年ほどダンスの指導をしています。ダンスをブラッシュアップしていく作業は大好きですし、いつかスケートの選手たちにも教えたいと思っていたんです。その次には振付をしたいとも思っていました。自分の陸上での振りが、氷上でどうなるのか、という点にとても興味があるんです」(森)

スケート経験のない振付師の場合、氷上のコーチとの連携は欠かせないものだ。

「まずは陸上で振付をして、氷上でうまく出来ないところは氷上のコーチにお願いして直してもらう、といったプロセスで作業を進めました。新潟まで頻繁に来ることは出来なかったのですが、クラブ員は皆、私の振付をとても良く練習してくれました」(森)

■ きっかけは昨年のアイスショー

小さい頃からフィギュアスケートが好きだったそうだが、スケートリンクのない静岡では実際に体験する機会がなく、“憧れの存在”だったという。そんな彼女が初めて生でスケートを観たのが、昨年の夏のアイスショーだ。

「初めて生でフィギュアスケートを観た時、氷を削る音に感動したんです。こんなにも素敵な音がするのか、と。テレビではそれが分からない。あのひと滑り、氷の上を滑るあの音に、この人たちの人生が全部詰まっているんだ、そう思って涙が出るほど感動しました」(森)

そんなフィギュアスケートへの思いを、この日のイベントでも表現したかったという。

「今日の私の演技は、まだ演技と呼べる代物ではありません。ただ、ステージで踊るような形にはしたくなかったんです」(森)

スケート経験のないダンサーがアイスショー等に出演する場合、リンク上にステージを作って踊るケースが多い。それをしなかったのは、フィギュアスケートに対する敬意を表す意味があったようだ。

「氷の上に立ったら氷の上で自分が頑張るしかない。まだまだ人様に見せられるものではありませんが、自分なりに敬意を持って真剣にやってきた、そのことが観る人に伝わってほしい」「様々なご縁、出会いがありました。1年前にはまさか、自分がこうしてフィギュアスケートと関わるようになるとは思わなかった。自分の人生にとって、フィギュアスケートとの出会いはとても大きなものになると予感しています」(森)

この日披露した彼女の振付は、過去に観てきたどの振付師のそれとも違う、独創的で美しいものだった。彼女の振付を、再びまた違った形で観てみたいものだ。きっと新たな風を吹き込んでくれることだろう。

【東京ウォーカー/取材・文=中村康一(Image Works)】