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SUUMO編集長・池本洋一さんから直接筆者にミッションがおりた。「一戸建ての建物の価値が築後20年〜25年でゼロとされる取引慣行を改善するために、『価格査定マニュアル』が改訂された。その実力を調べて報告するように」とのこと。早速調べることになった。

「価格査定マニュアル」とは? なぜ改訂が必要だった?

まず、「価格査定マニュアル」について説明しよう。

不動産会社が土地や住宅の売買を依頼されたときに、いくらで売れそうかという見込み価格を算出して、依頼者に提示する必要がある。これが「価格査定」だ。売主にとっては重要な指標となるため、提示する価格は合理的な根拠があるものでなければならない。その査定の根拠となる標準モデルが「価格査定マニュアル」だ。

「価格査定マニュアル」は、(公財)不動産流通推進センターが開発しており、土地、中古一戸建て、中古マンションの3種類がある。

土地の価格は、広さだけでなく、交通や商業施設への利便性、住環境の良し悪し、接している道路の幅や間口、土地の形状や方位などさまざまな条件によって価格も異なる。似たような条件の土地が過去にどの程度で売買されているかを参考にして、価格を査定するのが「事例比較方式」といわれる方法だ。
中古マンションも、土地と同様に、同じような条件の中古マンションの取引事例を参考に算出される。

一方、中古一戸建てについては、土地と建物をそれぞれに分けて評価する。土地については「事例比較方式」で算出されるが、建物は「原価方式」といわれる方法が使われる。これは、同じ建物を建てた場合の費用(再調達原価)から築年数に応じて減価するもので、リフォームなどで建物の使用価値が異なっていても、それが査定価格に反映されにくいという側面があった。

そこで、「中古戸建て住宅にかかわる建物評価手法の改善のあり方検討委員会」が国土交通省に設置され、委員会のまとめた指針に沿って、不動産流通推進センターが価格マニュアルを改訂することになった。まず、2015年7月に中古一戸建て用のマニュアル(正式名称は「既存住宅価格査定マニュアル」)が改訂され、2016年8月には土地と中古マンション用も改訂された。

新査定活用事例1)マイハウス
売却物件にインスペクションを実施、価格査定でしっかり成約

新しい価格査定マニュアル(以下、新マニュアル)では、一戸建ての建物を基礎・躯体(くたい)部分と内外装・設備部分とに分け、部位に応じて使用価値を把握したうえで減価する方法になっている。建物検査(インスペクション)や瑕疵(かし)保険に加入するための検査を受けて不具合がなければ基礎・躯体部分で、リフォームが行われていれば内外装・設備部分で、評価が高くなる仕組みとなっている。

新しい査定方法では、実際に前より査定価格は高くなるのだろうか? もちろん、査定価格だけが高くなっても、実際に査定に近い額で成約しなければ売主にメリットはない。実際の成約価格も気になるところだ。

そこで、新価格査定マニュアルを活用している2社に詳しい話を聞いてみた。

まず、長崎県の「マイハウス」取締役・河浪日章さんに伺った。
マイハウスでは、一戸建てだけを扱っており、売却を任せられた一戸建てには必ずインスペクション(売主負担)を行うという特徴があり、社内にリフォーム部門もある。以前は独自の査定マニュアルを用いていたが、2015年10月以降は新マニュアルを使って査定をしているという。
【画像1】長崎・マイハウスの河浪さん。自宅を新マニュアルで査定してみたら、新築時に旧公庫融資の「高耐久性木造住宅」で建築したので、50年程度の耐久性があると評価され、予想したより高い額になったとか(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】長崎・マイハウスの河浪さん。自宅を新マニュアルで査定してみたら、新築時に旧公庫融資の「高耐久性木造住宅」で建築したので、50年程度の耐久性があると評価され、予想したより高い額になったとか(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「築14年で、以前の査定方式なら1800万円程度の額だと思われる一戸建てを、新マニュアルで査定したところ、2180万円という評価になり、その価格で売り出しました」と河浪さん。

300万円近く査定価格が上がったことになるが、実際にこの額で売れたのだろうか?
「わが社では、売り出し価格でしか売りません。ほとんどの物件が査定価格で成約しています」というから、驚きだ。もちろん、査定価格で売るための努力もしている。

マイハウスでは、インスペクションを行い、その結果補修工事が必要という診断になれば「回復工事目安価格書」を提出している(快適性の向上を図るリフォームが必要となれば、自社でリフォーム計画書も作成している)。新マニュアルによる査定結果の報告書と合わせて、これらすべてを売主はもちろんのこと、買主にも公開している。住宅の状態が客観的に分かること、リフォーム費用の目安も把握できること、査定価格の根拠が明確であることなどから、売主も買主も安心して取引ができるようになっているのだ。

新査定活用事例2)バイヤーズスタイル
土地と建物の価格の内訳も公開、インスペクションや住宅履歴情報も活用

疑り深い筆者は、「長崎県だけかもしれない。東京ではどうだろう?」と、東京都板橋区の「バイヤーズスタイル」代表取締役・高橋正典さんにも話を伺った。
【画像2】東京・バイヤーズスタイルの高橋さん。東京では、大手仲介会社が無料で各種保証サービスを提供しているため、自社が提供するサービスの費用を売主に負担してもらうことは難しいが、住宅履歴情報の登録やインペクションなどを行い、その情報をしっかり説明することで、信頼が得やすいという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】東京・バイヤーズスタイルの高橋さん。東京では、大手仲介会社が無料で各種保証サービスを提供しているため、自社が提供するサービスの費用を売主に負担してもらうことは難しいが、住宅履歴情報の登録やインペクションなどを行い、その情報をしっかり説明することで、信頼が得やすいという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

バイヤーズスタイルは、8年前の設立当初は新築一戸建ての仲介を多く扱っていたという。自社で売買が成立した場合は、売主の不動産会社や施工会社から設計図やアフターサービス情報などの「住宅履歴情報」を入手し、バイヤーズスタイルで電子化して10年間保管するというサービスの提供を始めた。さらに、定期的に訪問して不具合の有無や修繕の有無を確認して、住宅履歴情報を更新するなどもしていた。

最近では中古マンションなどの仲介の取り扱いも多くなり、売却を任せられた中古の場合は「住宅履歴情報」の保管、「コールセンター」による相談受付に加えて「インスペクション」の実施、「瑕疵保険」の加入をセットにしたサービス(費用は自社負担)を提供しているのが大きな特徴だ。他社が売却を任せられた中古物件についてもそれを購入したいという人には、インスペクションの実施や瑕疵保険の加入を勧めており(希望すれば購入者負担)、特にインスペクションの実施率は高いという。

2015年8月からは新マニュアルによる査定を始めているが、「中古一戸建ての場合は土地と建物でそれぞれ査定額が出るので、我が社の物件チラシではその内訳も掲載しています」と高橋さん。たしかに、物件価格に加えて、土地と建物の内訳が書いてあるチラシはあまり見ない。

【画像3】左は物件の販売図面全体、右は赤枠部分を拡大したもの。建物価格が720万円、土地価格が2460万円と表示されているほか、参考価格として、価格査定マニュアルによる価格は3325万円と記されている(図面提供/バイヤーズスタイル)

【画像3】左は物件の販売図面全体、右は赤枠部分を拡大したもの。建物価格が720万円、土地価格が2460万円と表示されているほか、参考価格として、価格査定マニュアルによる価格は3325万円と記されている(図面提供/バイヤーズスタイル)

「この物件は、おそらく以前なら2980万円程度の査定になったと思いますが、新マニュアルでは3325万円の額が出ました。市場性などを見て、最終的に『流通性比率』で調整をして3180万円という査定価格になりました。建物価格720万円は以前より倍以上高く評価されていると思います」

成約価格はどうかというと、「早く売りたい売主さんもいらっしゃるし、インスペクションで必要とされた額だけ引いてほしいという買主さんもいらっしゃいますので、個別の取引で違いはありますが、ほとんどが査定価格に近い額で決まっています」
買主から値引き交渉が入るのが当たり前のようになっているが、価格に納得性があれば、値引き前提の駆け引きという不毛なやりとりはなくなるということのようだ。

新査定マニュアルは浸透途中、活用する不動産会社が増えることに期待

さて、2社に共通していたのは、新しいマニュアル導入後は、査定価格が高く出る場合が多いこと。物件の動きなど市場性によって、必ず査定価格で売れるとは限らないが、河浪さんも高橋さんも「新しいマニュアルを使えば、査定価格の根拠を明示できるので、取引の際にも納得していただける場合が多い」と口をそろえていたことが強く印象に残った。

また、消費者の変化についても指摘があった。「インスペクションを嫌がる売主さんはほとんどいません」(河浪さん)。「最近は、中古住宅でも質の良いものがあるはずとか、使える建物を探しているといった買主さんも増えています」(高橋さん)

20年や25年で建物価値が無くなるといわれる古い住宅でも、検査などで状態を把握し、適切にメンテナンスすれば、評価される仕組みが整いつつあるようだ。

以上の結果を池本編集長に報告したところ、
「新しいマニュアルは、現段階では、活用していない不動産会社が多いのが実情。定価格で必ず売れることを約束するものではありませんが、記事を読んだユーザーが自ら、新しいマニュアルならどういう評価になるのか、不動産会社に聞いてみるのもいいでしょう」と池本さん。

売却を任せてほしくて、敢えて高い査定価格を提示して、時間をかけてずるずると価格を下げていく不動産会社もあるという。高く売れるかと思って売り出したら、なかなか売れずに市場にさらされているという状況を想像すると、売主は悲しい気持ちになるだろう。

「売主・買主双方に対して、建物の状態や過去の履歴情報、査定価格報告書などを開示し、納得のできる価格で売買がスピーディーに行われれば、健全な市場になると思います。その実現に向けて、新しい価格査定マニュアルが広がることを期待したいです」と池本さんは力説した。以上、ミッション完了!

【画像4】SUUMO編集長の池本さん。筆者から新マニュアルの査定価格に近い額でほとんどが成約していると聞いて、その実力に驚いたようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】SUUMO編集長の池本さん。筆者から新マニュアルの査定価格に近い額でほとんどが成約していると聞いて、その実力に驚いたようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●取材協力
マイハウス
・バイヤーズスタイル