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定年まであと数年、会社の方針転換で「地方転勤」の可能性が浮上した。高校生の子どもと認知症の実父を置いて、地方へ単身赴任はしたくないーー。Yomiuri Online「発言小町」に、育児と介護の「ダブルケア」をするトピ主から、相談が寄せられました。

トピ主は、夫と高校生の子どもと3人暮らし。近くで、認知症を患う父が一人暮らしをしています。事務職の正社員として働くトピ主ですが、会社の方針で、地方工場への転勤の可能性が出てきました。事務職の人員が余っているため、今の勤務地には異動先はありません。

そこで「子育て中の女性も転勤の対象ですか?」と会社に聞くと「性別、年齢に関係なく異動はある」と伝えられたそうです。

トピ主は、子育てと介護のダブルケアをしていることから、家族を置いて地方への単身赴任は避けたいと考えています。しかし、転勤を断ることで会社から退職に追い込まれたり、立場が悪くなることへの不安もあります。

レスには「多くの男性たちが家族を犠牲にして単身赴任を受け入れてきた」「(転勤に)女性も男性も関係ない」などと、トピ主に批判的な声も集まりました。

もし企業側から転勤を命じられた場合、子育てや介護をしていることを理由に、転勤を断ることはできるのでしょうか。もし転勤を断ったことで、会社から不利益な取り扱いを受けた場合、どのように対処することができるのでしょうか。労働問題に詳しい今井俊裕弁護士に聞きました。

(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「子持ち女性の地方への単身赴任」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0802/772161.htm?g=15)

 ●転勤命令が無効になるケースとは?

まず、実際に転勤命令が下された場合、その命令が有効なのか考えてみましょう。

雇用された時点で、勤務地や転勤の範囲を限定する合意をしていたのであれば、その合意に反する転勤命令は原則として無効です。

また契約書面に明記されていなくとも、その職種や採用方法、雇用管理などが同一の従業員の方々がこれまで誰も転勤命令を受けたことがなく、労使ともにそれが当然と認識してきたなどの事情があれば、やはり「勤務地を限定する黙示の合意があった」と認定されることもありえます。

しかし、そのような明確な合意も事情もない場合は、転勤命令それ自体が即座に無効であるとまでは言い切れません。

逆に、育児や介護といった個々の従業員の事情を踏まえた上で、これまでしばしば転勤命令がなされてきた等の事実があれば、トピ主の置かれている事情にもよりますが、むしろ転勤命令は有効であると判断されるケースも、当然ながらあります。

要はその事情次第ですが、まだ育児に手のかかる小さいお子さんや障害をもつ家族がいる、重い介護を要する家族がいる、他に育児や介護を代わってくれる家族がいない、といった従業員側の事情があれば、転勤命令は無効の方向に傾きます。

また、会社側に悪意がある場合、たとえば、「転勤の必要はないけど自主退職へ追い込むために転勤を命令しよう」とか、「熱心な労働組合員なので地方勤務にとばそう」といった事情があれば転勤命令は無効になるでしょう。

一方で、「激化する競争にうち勝つための人員整理が必要」であるとか、「やむを得ず事業所を閉鎖する必要があり、それに伴う余剰人員の転勤命令である」といった事情があれば、有効に傾きます。

このように、転勤命令の有効性は微妙な判断が強いられます。

 ●転勤命令に逆らったら?

転勤命令に納得できないといって、それを無視した結果、それを原因として会社が減給や最悪は懲戒解雇などの懲戒処分を下してきた場合、どう対処すべきなのでしょうか。

結果的に転勤命令が無効であると判断されれば、その後の懲戒処分も無効となるのが筋でしょう。

逆に、転勤命令が有効であると判断されれば、その命令違反を理由とする懲戒処分の程度によりけりですが、「処分は有効である」という結論になり得ます。

もし、会社の転勤命令を争うのであれば、「転勤命令に従う義務がなく、現在の地位にある」ということを保全してもらうために、裁判所へ仮処分の申立てをすることが一般的な手段となっています。



【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
平成11年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における個人情報保護運営審議会、開発審査会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/