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不惑の40歳というものの、実際は、これから子どもの教育費がかかる時期にさしかかり、マイホーム取得はどうするのか、仕事はこのままでいいのかと、さまざまな悩みや不安が押し寄せてくるのが40歳。年金受給額は自分たちの世代では、かなり少ないんじゃないか、という不安もよぎるでしょう。しかし、漠然と不安に思っていても、なにも解決しません。ファイナンシャル・プランナーの畠中雅子さんと一緒に考える、40代から始める老後資金のつくり方。1回目は、まず、不安の正体を探ってみることにしましょう。【連載】40代から考える老後のお金
子どもの教育費や住宅購入など、今の40代は大きな出費が複合的に待ち構えている時期でもあります。さらに老後資金もとなると、ただただ不安に思ってしまう人も少なくありませんが、やみくもに不安になっても仕方がありません。安心して老後を迎えるために、今、やっておくべきことを全5回の連載で考えてみます。

可能な範囲で、定年退職後の生活をイメージしてみる

よく老後資金は1億円必要と言われます。本当でしょうか。

総務省の『家計調査』によると、高齢者無職の二人世帯の平均的な1カ月の支出は約27万円。65歳から95歳までの30年間で約1億円の計算になります。これをもって、老後資金は1億円必要、1億円貯めなくては、という話になりがちです。

しかし、実際には、公的年金や個人年金保険、貯蓄もありますから、1億円が必要なわけではありません。
この話には、続きがあります。

高齢者世帯の1カ月の収支は、図1にあるように、6万2326円の赤字です。老後の30年間で約2250万円。これに予備費として300万〜500万円を上乗せすると、約3000万円が不足するという計算になります。

【図1】公的年金の社会保障給付などの収入から税金などの非消費支出を引いた可処分所得(手取り額)は18万1537円。実収入と支出合計27万5706円の差額が、不足分6万2326円という計算になる(総務省『家計調査年報』をもとに筆者作成)

【図1】公的年金の社会保障給付などの収入から税金などの非消費支出を引いた可処分所得(手取り額)は18万1537円。実収入と支出合計27万5706円の差額が、不足分6万2326円という計算になる(総務省『家計調査年報』をもとに筆者作成)

それでは、老後資金は1億円ではなく、年金などでは足りないうちの3000万円準備すればいいのでしょうか。

「老後資金の考え方は、人それぞれで、それこそ1億円あっても不安、3000万円あるから安心、ということではありません。考え方のベースには、どんな生活を送るのか、送りたいのかで、まったく変わってきます。平均的な数値をもとに老後資金を考えるのは、おすすめしません」と畠中雅子さんは言います。

「漠然とした不安は、自分で貯蓄の目安を明確にすることで解消できます。そのために、現在の家計と退職後の家計を一度洗い出してみることが必要なのです」

毎月の生活費の不足額+年間でかかる特別支出を計算する

現在の家計と退職後の家計(予測)を書き出してみたのが、図2です。現在の家計はともかく、退職後の家計を予測するのはイメージしにくいかもしれません。

【図2】日ごろ、家計簿をつけていない家庭は、現在の家計費を書き出すことで削減できる費目が見つかる。退職後の家計費は現段階では予測で書き出してみる。年金受給までの間に、いかに収入を得られるかがカギになるだろう(畠中雅子さんオリジナルの家計表を基に記入例を作成)。ちなみに、平成25年度の厚生年金受給額平均は、男性16万6418円、女性10万2086円(厚生労働省年金局「平成25年度厚生年金保険。国民年金事業の概況」)

【図2】日ごろ、家計簿をつけていない家庭は、現在の家計費を書き出すことで削減できる費目が見つかる。退職後の家計費は現段階では予測で書き出してみる。年金受給までの間に、いかに収入を得られるかがカギになるだろう(畠中雅子さんオリジナルの家計表を基に記入例を作成)。ちなみに、平成25年度の厚生年金受給額平均は、男性16万6418円、女性10万2086円(厚生労働省年金局「平成25年度厚生年金保険。国民年金事業の概況」)

「難しく考える必要はありません。例えば、20年経てば、子どもは独立しているケースが多いですから、食費や携帯などの通信費は抑えることができます。住宅ローンの返済がいくら残っているかも、分かるはずです。ただ、大事なのは、すべての費目で削減するのではなく、ここだけは譲れないという費目はあえて削らない。退職したからと言っても理美容費はきちんとかけたい、ということもあるでしょう。我慢していた趣味や娯楽にお金をかけたいということもあるでしょう。メリハリをつけて考えることが大事です」(畠中さん)

畠中さんが、退職後の家計費を予測することをすすめるのは、夫婦で将来のイメージを話し合うためでもあると言います。

「退職後は、予想以上に時間があります。時間があるのに何もしない生活では、なんのために老後資金を貯めるのか分からなくなります。動けるうちに退職後につながることをやっておく、そのためにも退職後の生活費について、夫婦で今から話し合っておくことが大事なのです」

このように書き出してみると、記入例では毎月9000円ほどの赤字になります。年金受給までの5年間はなんとかやりくりできたとしても、65歳から95歳までの30年と考えると、生活費としては324万円不足します。

このほかに、大きな出費として、冠婚葬祭や旅行費用などが年間30万〜50万円は考えておきたいと畠中さんは言います。これらを足すと、記入例では約1800万円が老後資金として準備しておきたいお金となります。

【図3】毎月の生活費とは別に、年に数回支出が見込まれるものも家庭によって異なる。年齢を重ねると思いのほか冠婚葬祭費がかかり、旅行や趣味のための費用も計上しておきたい

【図3】毎月の生活費とは別に、年に数回支出が見込まれるものも家庭によって異なる。年齢を重ねると思いのほか冠婚葬祭費がかかり、旅行や趣味のための費用も計上しておきたい


もちろん、各家庭によって事情は異なりますので、最終的にいくらあれば安心なのかは、違ってきます。記入例では60歳〜65歳の間は働いて収入がある前提ですが、無収入であれば、不足する額はもっと増えます。65歳からの年金受給額次第では、65歳以降の不足額は増える可能性もあります。しかし、一度、書き出してみることによって、漠然と不安に感じていた老後資金も、ひとつの目安が見えてくるでしょう。

今の60歳はまだまだ若い。65歳まで働くことも視野に

収入に関しては、これからの世代は65歳からの年金受給になります。60歳定年だと5年間は無収入ということになります。記入例でも書きましたが、60歳定年ではなく、再雇用や継続雇用で現役時代よりも収入は減るかもしれませんが、働いて収入を得る、ということも考えておくべきでしょう。退職金があるから大丈夫、というのも20年後にはどうなっているか、分かりません。

「退職金で住宅ローンを完済してしまう人が多いのですが、一度なくなった貯蓄は元には戻りません。退職金の一部を返済に充て、残りは働いて得られる収入で返せる額に条件変更する(月々の返済額を減額する)ことも検討しましょう。65歳から年金生活に入る準備期間として、生活費の見直しや暮らしぶりを変える馴らし期間も必要でしょう」(畠中さん)

これから子どもの教育費が本格的にかかってくる40代。今、退職後の家計をイメージしても、子どもの進学状況で変わってくることもあるでしょう。「家族の状況が変わったときに、見直しをするなど、一度つくったら終わりではなく、退職後の家計イメージを常に持っておくことをおすすめします」と畠中さんは言います。

せっかく貯めたお金も健康でいてこそ、有意義に使えるというもの。

「老後は健康でいる前提で物事を考えがちですが、定年まで我慢した楽しみを減らすのは、実にもったいない話です。老後資金でいくら必要かを考えるのと同時に、老後はどう暮らしたいかを考えるきっかけになってほしいと思います」

●取材協力/畠中雅子さん
ファイナンシャル・プランナー、生活経済ジャーナリスト。新聞・雑誌・ネットで多数の連載を持ち、セミナー講師や個人の家計相談でも活躍中。生活実感のある家計アドバイスに定評がある。著書は『どっちがお得? 定年後のお金』など60冊を数える。「子どもにかけるお金を考える会」、高齢者施設への住み替え資金アドバイスをおこなう「高齢期のお金を考える会」、ニートやひきこもりのお子さんを持つご家庭に生活設計アドバイスをおこなう「働けない子どものお金を考える会」を主宰している。
子どもにかけるお金を考える会HP●参考
・総務省統計局/家計調査年報(家計収支編)平成27年(2015年)