人の腸内で共生している100兆〜1000兆個の腸内細菌。宿主(人間)の免疫系や代謝調整に一役買っている。

 近年は腸内細菌の研究が進み、特定の疾患や肥満、2型糖尿病患者に特有の腸内細菌叢(そう)があることが解ってきた。これを利用し、腸の感染症や炎症性の腸疾患、自己免疫疾患患者に健康な人の腸内細菌を移植する治療法──「FMT」も試みられている。

 腸内細菌叢の人体への影響は想像を超える。ある標準体形の女性は、腸の感染症の治療のためFMTを受けた後、ドナー(細菌提供者)そっくりのメタボ体形になってしまった。研究者は「腸内細菌を移植する際は、ドナーの健康状態に加えて肥満や過体重がないか確認すべき」としている(米国感染症学会誌)。

 また先ごろ、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)と腸内細菌叢との関連を示唆する研究が報告された。

 ME/CFSは以前、慢性疲労症候群と単独で呼ばれていた難病。神経・免疫系の調節障害で、心血管系の異常、慢性の痛み、胃腸障害などの全身状態を引き起こす。

 明確な診断法がなく「なまけ病」「気のせい」と心ない言葉で揶揄されつらい思いをした方も少なくない。しかし近年、病気の存在を証明するバイオマーカーが明らかになっている。

 米コーネル大学の研究者らは、腸内細菌叢を調べる便検査と血液検査を併用し、8割以上の精度でME/CFSを診断。

 その結果、ME/CFS患者の腸内細菌叢は、健康な人に比べて微生物の多様性に乏しく、炎症を抑える働きを持つ善玉菌が少ないほか、腸内細菌に由来する炎症物質が血液中に有意に増加していることが判明した。

 研究者は「腸内細菌叢の変化がME/CFSの原因か結果かは特定できないが、治療の一端として、善玉菌とその栄養源となる食物繊維やオリゴ糖などの摂取を心がけるといい」としている。

 ME/CFSでもFMTが試みられているが長期的な成果は不明。食事で腸内細菌叢をケアしつつ、有効な治療法の登場を待ちたい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)