「現代のヒーローは権力にNOと言える人」フランスで100万人が見た映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』主演男優に会ってきたよ!

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[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品の主演男優を直撃インタビューします。

今回インタビューしてきたのは、フランスの社会派映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(2016年8月27日公開)の主演俳優、ヴァンサン・ランドン氏です。ランドンさんは、本作の名演でカンヌ映画祭とセザール賞の主演男優賞を受賞しました。

リストラされて再就職に苦しむ男のドラマ『ティエリー・トグルドーの憂鬱』は、なんとフランスでは100万人動員という大ヒットを記録。しかし、この映画はフランスだけの出来事ではない。日本人が見ても「シャレにならないよ」と思わずつぶやいてしまうリアル・ストーリーです。

そこで、フランスでの失業問題や、名優ランドンさんの役作りについて語っていただきました。

【物語】

エンジニアとして働いていた会社から解雇されたティエリー(ヴァンサン・ランドン)は1年も再就職活動をしています。

研修を受ければ就職に有利と言われてクレーン操縦士の資格を取ったのに「経験がない」という理由ではじかれてしまう。スカイプの面接を受ければ「自己PRが足りない」と言われ、面接のためのグループコーチングでは「笑顔がない」「答えがおざなりだ」と散々な言われよう。このままでは、失業保険が減額される日がきてしまう!

そんなティエリーがやっと得た仕事は、スーパーマーケットの監視員。万引きをチェックする仕事だけれど、人を疑う仕事は精神的な負担が大きく……。

【ティエリーは権力にNOと言えるヒーロー】

『ティエリー・トグルドーの憂鬱』は、フランスの失業問題を斬るというより、その問題に直面している人物を見つめている映画です。簡単に答えがでないリアルな問題ゆえに、サクセス・ストーリーなんて嘘くさい。みんなそんな夢物語よりも、切実に「他の人はどうしているの?」と思っているわけです。ティエリーはそんな人々の仲間というわけですね。

そこで、まずは100万人動員の大ヒットについて、主演のヴァンサン・ランドンさんに聞いてみました。

――フランスでは大ヒットしたそうですが、ヒットの要因をヴァンサンさんはどこにあったと思いますか?

「それは私にもわかりませんね。おそらくティエリーは現代のヒーローだからじゃないか。かつては、カウボーイがヒーローだったけど、現代のヒーローは権力にNOと言える人だと思う。ティエリーは現代のヒーローであり、彼のように生きたいと思わせることがヒットの要因だと思います」

――ティエリーはスーパーマーケットの監視員になり、まずは疑ってかかれという上司に対して違和感を覚えますね。彼の葛藤が凄く伝わって来ました。役作りはどのように? 参考にした人などいますか?

「参考にした人や作品などはありません。周りを見ればいいのです。今のフランスには失業者はたくさんいます。カフェや映画館などに行けば会えます。彼らは自信や希望を失っているのです」

――役作りとして、ティエリーの若い頃のことなどイメージしてみましたか?

「私は役作りで、役の過去など想像しません。この映画の依頼を引き受けたのも、ティエリーと言う男になりたい、彼に会いたいと思ったことがきっかけで、演じる人物の態度、行動などを突き詰めていくのが私の演技のやり方です。演技はすべて役の行動に現れるのです。正直、役作りについて言葉にするのは難しいことですね」

【失業は、誰が悪いわけではない】

――ティエリーが憂鬱になってしまうフランスの失業問題と同じように、日本も失業者の問題は深刻です。このような社会について、ランドンさんはどうお考えでしょうか?

「例えば、大きなスーパーマーケットの社長が、農家に対して信じられない低価格で野菜の買い付けをしていたとします。でもそのおかげでスーパーマーケットは成り立っており、何万人もの従業員の生活を支えているのです。あなたはこのスーパーマーケットの社長は悪人だと思いますか? そう考えてみると、物事は白黒つけられないことが多いんです。何が良いかではなく、最悪な事を避けることができるか否かなんですよ」

――確かにそうですね。物事にはいくつかの面があり、一方ばかりを責めても解決にはなりません。ティエリーの最後の決断も、物事にはいろんな面があることを感じさせます。

「ティエリーの決断については、物語の重要なシーンでネタバレになるので詳しく語りたくないのですが(笑)、私としては、あの決断と行動が共感を呼んだのではないかと思います。妥協せずに困難に立ち向かう決心をしたわけですから。あのシーンはステファヌ・ブリゼ監督ともよく話し合って決めました」

――そういえば、共演した人々はプロの俳優ではなく、一般の方だったそうですね。職業紹介所の人やスーパーの従業員たちも。ナチュラルな芝居で驚きました!

「大変なことはひとつもなかったですよ。私は彼らを信じていました。俳優ではない人が演じたことで、物語としていいハーモニーをかもしだしていたと思います」

ランドンさんのインタビューを終えて、人生は小さな決断の積み重ねなんだなあ……と私は改めて思いました。この映画を振り返ると、ティエリーは最初から多くの決断をしていきます。上手くいかない場合もあるけど、失敗しても、また次の決断をするのです。

「彼の人生、いいことないの?」と思われるかもしれないけど、ティエリーには彼を愛する妻がいて、障害を持っていますが可愛い息子がいて、うれしいときには妻とダンスを踊ります。

大変な毎日を送る彼だからこそ、こういった家族での安らぎの時間がすごく幸福感に溢れ、素敵です。ティエリー・トグルドー、51歳。フランスで多くの人の共感を得た現代のヒーロー。アクションは全然ないけど、人生に勝負を挑み続けるティエリーの歩みを見てください。

あなたのお父さんも、こういう苦労を重ねて、家族の為に闘っているのかもしれませんよ。

撮影・執筆=斎藤 香(c)Pouch

『ティエリー・トグルドーの憂鬱』
(2016年8月27日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー)
監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:ヴァンサン・ランドン、カリーヌ・ドゥ・ミルベック、マチュー・シャレールほか
(C)2015 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA

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