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モバイル広告・デジタルマーケティングの広告賞「コードアワード」。開催年の活用事例を表彰しているため、そのラインナップからは時々の空気を読み取ることができる。

7月末に今年度の授賞式が行われたが、受賞作にはSNSでの広がりを基軸としたキャンペーン、IoTを活用とした製品開発事例など、さまざまな性質をもつものが含まれていた。

今回は、審査委員長を務めたTBWA HAKUHODOの佐藤カズー氏に、同アワードの結果を振り返りながら、先端技術についての見解や、世界的な広告トレンドについてお話を伺った。

――世界三大広告賞のひとつ・カンヌライオンズの現場に足を運んでいらしたそうですが、今年の様子を振り返って、デジタルメディア中心にした印象をお聞かせください。

全体的な雑感で言うと、受賞作に限らず、やはりデータの時代が来ているなという印象を受けました。あと、エージェンシーがいかにAIを駆使していけるかみたいなことが問われた印象があります。

AIのコードを書いてください、とエージェンシーが頼まれると、今の体制ではどうにもなりません。今後来る時代に目を向けると、Google等優秀なエンジニアを抱えた企業が全て競争相手になる。そこをどうにかしないと、次のデジタルトレンドをクリアしていけないかなと個人的には感じました。

――デジタルトレンドとしては、"VR"というのも昨今のキーワードだと思いますが、そのあたりはどのように捉えていらっしゃいますか?

VRについては、デジタルというよりはフィルムの拡張性としての新しい映像体験ではないかと僕は捉えています。例えば一時期のFlashもそれに該当すると思うのですが、映像をPCで見た時にただ座って見るというのではなく、インタラクションしながら映像が拡張していくっていう体験があったと思います。VRは多分、映像が没入型になることで、新しい映像体験が拡張されることなのかなと。

――佐藤さんが審査委員長を務められた「コードアワード」では、今回グランプリは該当なしという結果ですが、それはどういった理由だったんでしょうか?

今年は審査の方向を考える上で、グローバル視点のクリエイティブというものを意識しました。

例えば最近の例で言うと『POKEMON GO』なんかがそうですが、国内だけではなく、その一歩上のグローバルインサイトにも響くデジタル体験だったりとか、例えば国内だけの施策だったとしても、他の国で公開されたら人は動くか?といった基準をベースに審査されました。

Googleのジョン・メリーフィールドさんやキリーロバ・ナージャさんという国籍の異なるコピーライターの方に審査員に加わってもらったというのはそういう理由でもあるんです。もちろん審査は厳しくなりますし、またこれは日本の広告賞だからグローバルとかどうでもいいよといった批判もあるかもしれませんが、基準を上げることが結果として日本のクリエイティブを強化していくものだと思っています。その点、グランプリとして何を選ぶかはメッセージにもなると思うので。

――昨年よりも審査の基準を高めに設定した結果、今回はその水準にまで至るものは該当がなかったということでしょうか?

結果的にはそうなりました。審査の過程でもうちょっと基準を下げても良いのでは?という思いが交錯しましたが、議論を重ねるうちにどんどんハードルが上がっていってしまった感じがあります。今回はコードアワード史上最長の時間をかけたので。

グランプリなしって、読後感が寂しいんです。でも、世界は日本をデジタルクリエイティブの最先端として見ているんですね。だからそういったプライドを持っても良いのではないでしょうか?

――AIやVR以外でデジタルマーケティング向けに活用できるものとして他に注目しているものは?

リアルタイムに展開されるソーシャルメディア上のトレンドや生成されるデータみたいなものを、いかにスピーディーにマーケティングに生かすのか、応用するのかという点に興味があります。

昨年よりTBWA HAKUHODOでは、ターゲットの行動やトレンドをリアルタイムに掴み取り、そこから最速で企画、提案、実施まで行う「ディスラプションライブ」という新しいプランニングメソッドを導入しました。

これまでのプランニングプロセスは、大概企業のマーケティングカレンダーを中心にタイムラインを引き、実施していくものでした。ですがこれからは、リアルタイムで変貌していく世の中の動きに、マーケティングをどう乗せていくか、ということをもっと考えていかなければならないと考えます。そんな時代の空気を先取って、日本発でもっと作っていければいいなと思っています。

――そうした動きを象徴するものとして、今回のコードアワードの受賞作の中で何かありますか?

ど真ん中というものは今回ありませんでしたが、近いものとしてはベスト・ユース・オブ・メディアに選ばれたlyrical schoolのPV「Native Mobile Music Video」。この作品は公開近辺で"スマホの縦型視聴"というのがライブな話題としてあったので、そこをトリガーにしてアイデアのベースにしたのではないかと考えます。

――そういう意味では、世界のトレンドから見ると、期待していたものとは少し違うものが多かったのでしょうか?

というより、もしかしたらエクセキューションアイデアの鮮度なのかもしれません。長崎新聞社の「長崎新聞配達ルート データMAP化 プロジェクト『The Way』」はとても好きな作品です。配達員の移動がデータを作る視点は素晴らしいと思います。ただ、そのデータをマップ化させてビジュアライズするというエクセキューションは、よほどクラフトが突き抜けていないとアイコニックとは言えないでしょう。

モーションキャプチャーデータをデータとして捉えた安川電機の「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」も武道の型をデータ化したのは大変素晴らしいアイデアだとは思いますが、それをアームを使って動画にするというエクセキューションアイデアは若干の既視感があったりします。

――「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」がデータ部門で受賞しているのは、マーケティング分野におけるデータではなく、モーションデータを活用していることが要因だったのですね。

そうなんです。ただ人によってデータをどう捉えるかが分かれるところです。ジオデータやビッグデータまでをデータだと言う方もいれば、キャプチャーデータやマーキングデータといったデータも含めて広義のデータだと捉えるか。特にこういった広告審査の場合は難しいところです。

――今回のアワードをはじめ、ものすごい数の国内外の広告表現をご覧になっていらっしゃると思いますが、昨今日本で見られる傾向や逆に日本では見られない海外のムーブメントなどは何かありますか?

多分、フェーズがあって、一昨年、去年、今年って結構変わってきているように思います。

というのも、3〜4年前あたりまでは"作れる時代"。当時、バイラルマーケットというのがすごく話題になっていたと思うんですが、例えばIoTのモノにしても、バイラル動画向けにミニマムスロットでいいのでちょっとプロトタイプを開発してみようっていうトレンドが、デジタルにおける面白さみたいなところがあったと思います。

それがここ数年は、世の中にちゃんと流通できるのだろうかとか、生産管理も含めて本当にそれを世の中に流通させ、人々の生活を変えるレベルまでいっているかという、イノベーションの視点になっています。

もっと細かく分けると、バイラルプロダクト、インベンション、そしてイノベーションのように、3つのフェーズとして捉えることができると思いますが、バイラルプロダクトは初期段階の「こういうことってできるよね」っていうアイデアを世の中に提示することです。

インベンションっていうのは発明。一応ちゃんと形にしました、でもどうやって量産させるかはまだわかりません、という段階。イノベーションっていうのが、できあがったものをきちんと流通させ、世の中を変えるポテンシャルが見えているもの。このイノベーションのフェーズまで来てやっと、それはアドから脱却できるのかなと。

――そういう点で言うと、今回のアワードでは、"ベスト・イノベーション"に選ばれた、サンスターの「G・U・M PLAY」が準グランプリに相当するのでしょうか?

まさにそうですね。これは単純にこういうことできたらいいよねというアイディアとかプロトタイプ、「サンプルで20個配りました」というようなことで終わっていなくて、製品として世の中の人に届くものを作り上げているということが、デジタル体験を拡張したネクストフェーズのものだと言えると思うんですよ。実際にものすごく売れているそうですよ。

――製品として訴求内容が全部組み込まれているようなものが、これからのデジタルマーケティングのトレンドになっていくということでしょうか?

そうですね。それを作る意味や商品やサービスの存在理由みたいなものを、より深く考える時代になってきているんだと思います。これって企業活動の根本でしょうけど、より簡単に新しいものが発明できる時代だからこそ、一度基本に立ち返って考え抜くことが必要なのではと思います。

――最後に、これからの日本の広告表現で期待されていることをお聞かせください。

表現の話でいうと、日本への愛国心があります。でも、日本の企業が海外進出する時、例えば今、自分がクライアントの立場だったら、日本のエージェンシーを選ばない気がします。それは日本人として少し情けない話だなと思ったりします。自戒の念を込めて。

日本の企業がグローバル展開する全てのマーケティング活動のサポート、広告キャンペーンのプランニングを、日本の広告会社が国境を越えて手がけていくことになったらいいなと思います。

(神野恵美)