おもしろいこと、この地から。週 刊 東 北! Vol.005/Reborn-Art Festivalの見つめるもの(宮城県石巻市)

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【毎週水曜 16:00更新】
2016年7月、石巻の埠頭で開催されたReborn-Art Festival×ap bank fes 2016は、“音楽”と“アート”、そして“食”をテーマに掲げた“総合祭”。音楽プロデューサー小林武史さんを中心に構想4年を経て、参加者のべ4万人が集った3日間。訪れた人、迎えた人、運営する人はそれぞれ、どんなことを考え感じたのだろう?







天気に恵まれたイベント当日!河合恵里さんと須永浩一さんの後ろに、会場に敷きつめられたウッドチップを提供した日本製紙の工場が見える。

◆海を眺める場所から始まる
人々をつなぐフェス

青空が広がる宮城県石巻市雲雀野(ひばりの)地区。牡鹿半島を眺める石巻港の埠頭で、7月30日、31日と、前夜祭29日を含む3日間、Reborn-Art Festival×ap bank fes 2016が開催された。

これは、2017年に牡鹿半島や石巻の市街地で開催されるReborn-Art Festival 2017のプレイベント。音楽プロデューサー小林武史さんを中心に、さまざまなジャンルのアーティストが参加。51日間にわたり開催される来年の本祭につながるよう、音楽だけでなく、アートや食など暮らしを取り巻くさまざまな角度から、土地に宿る自然や人、文化の豊かさを伝える。通常の音楽フェスとは一線を画す“総合祭”だ。

「こんなところでこんな大きなイベントをやるのは無理だと、視察に来た誰もが言ったんです」。会場に集う人々を嬉しそうに眺めながら話してくれたのはReborn-Art Festival運営事務局、ap bankスタッフの河合恵里さん。雲雀野埠頭は、東日本大震災後、瓦礫の処理場としても使われていた場所。砂利が敷かれただけの荒れた様子は、音楽フェスのイメージにそぐわなかった。開催を後押しした一人が石巻に拠点を持つYahoo! JAPANの須永浩一さん。震災直後から石巻で復興プロジェクトを行っていた須永さんは、宮城県や石巻市など自治体からの信頼も厚かった。
「美しい海と山に囲まれ、水産資源が豊富で…この土地の良い所をどれだけ多くの人に伝えられるか、それを考えながら活動していました。何もなくなってしまったからこそ新しく始められる、そんな可能性に満ちた場所。この場が外の人と土地の人とが出会うきっかけになって欲しいんです」。

「東京から引越し、石巻で開催準備を始めた当初は、不安でいっぱいで。でも、須永さんはもちろん、地元の人たちも応援してくれた。みんなオープンマインドで温かいんです。外から来た私たちを暮らしの中に受け入れてくれる」。

石巻の温かさにふれ、また石巻を訪れる。
「ここでの縁を大切にしたい」。河合さんと須永さんは笑って顔を見合わせる。



現場では、この日のために集まったシェフとサービスのプロ、そしてボランティアが一緒に働く。



石巻や塩竈の4名のシェフがコラボしたランチメニュー。宝船をイメージしたとうもろこしの器には、石巻産のズッキーニやトマト、そしてぷりぷりのウニとホタテをマリネしたものが盛られている。海をイメージして泡の入ったビネガーシートをまとう石巻産のスズキの冷製など、ほれぼれする美しさは食べるのをためらうほど。ほかに、アナゴのリゾットや桃生ポークのキャラメリゼと、個性が調和することでハイレベルなひと皿に。



取りまとめる目黒浩敬さんと安齊朋大さんの温かい笑顔が印象深い。

◆豊かな自然の恵みを囲んで。
シェフが伝える命をめぐる“食”

Reborn-Art=“生きる術”は今回の根幹のテーマ。その中で、“食”は切っても切り離せない重要な要素に。会場には「HARBOR YOCOCHO」や「HAMA MARCHE」といった、地元の食材をふるまう40店舗が並ぶ屋台エリアのほかに、地元のシェフとミシュラン2つ星シェフなど全国のトップシェフがコラボし、腕をふるう野外レストラン「Reborn-Art DINING」が登場した。

トータルディレクターは目黒浩敬さん。食育活動や、食に関するワークショップを全国で開催。現在は、食の根源を見つめ直したいとの思いから、宮城県川崎町で就農している。
「今回集まってくれた総勢20名のシェフは、社会や風土とのつながりなど全てを含めて“食”と向き合っているスペシャリストたちです。震災後僕たちは、どう生きるかという問いを突きつけられました。生きるという本質を食を通し伝え広めていく、そういう料理人が今こそ必要ですし、イベント参加者にそれを受け取って欲しいんです」。

ワンプレートのランチとコースディナーのテーマは“船出”と“航海”。豊かな自然の恵みをふんだんに取り入れた食を通じ、生きることを伝えるこの日だけの特別なメニュー。
地元シェフたちが担当したひと皿に4品がのるランチ“船出”は、テーマをもとにそれぞれにメニューを考えて各々が調理を担当。しかし、いつのまにか担当以外のメニューも作れるようにと、自然に練習し出していたという。同じ船に乗る仲間が、思いをひとつにし、同じ目標を見つめこぎ出す。石巻でつながった縁が、“船出”し“航海”が始まる。

「3日間だけの特別なレストランを通じて、“食”を気にかけなかった人が、一人でも多く関心を持って、変わるきっかけになってくれればとと思います」と話してくれたのは、目黒さんをサポートする統括の安齊朋大さんだ。安齊さんは、福島県福島市でイタリアンレストランLa Selvaticaを営む。
「ここでは、人の心を揺さぶるものとして、“食”が音楽、アートと肩を並べていることがうれしい。そのすべてを楽しんで欲しいですね」。



ところどころに敷かれたウッドチップは座り心地抜群!ひと休みも快適。



大漁旗を使った鉢巻スタイルの、地元のお母さんたち。



青い空を飛ぶウミネコも気持ちよさそう!



牡鹿半島にちなんだ会場限定の「鹿タオル」をかぶった尾崎さん姉妹。遊びに来た人も、迎えた人も笑顔がまぶしい。

◆石巻の出会いを受け取って。
この場所に立って私たちが思うこと

「震災の後、被災地に足を運んだのは初めてです。正直これまでは、ちゃんとした気持ちで向き合えるか不安でした」。
そう話してくれたのは、東京から参加した、尾崎恭子さん、裕子さん姉妹。前夜祭が行われた29日の午前中には、牡鹿半島の文化や豊かな自然と触れ合うReborn-Art Tourに参加したそう。
「最初に、牡鹿半島のいろいろな場所をバスでめぐって。それから、荻浜小学校で行われたベンチ作りのワークショップに参加しました」。
地元の石巻工房主催のワークショップの後は、校庭で地元で獲れた魚介を使ったバーベキューが開かれた。笑顔で銀鮭や貝を焼きふるまってくれる地元の人との交流も楽しめたのだそう。
「復興が進んでいるとかいないとか、感じることは人それぞれ。どう感じたとしても、まず、この土地に来てみる。地元の人たちも喜んで受け入れてくれて、楽しんでくれた。思いをはせるきっかけになる、つながりを持てたことが嬉しくて」。

「どこに住んでいても、震災は起こりうること」。この場所を訪れると、それを誰もが再認識させられる。そして、今自分がどうあるべきかということに思いをめぐらすのかもしれない。

ふたりは来年の本祭で、ボランティアとしての参加も考えているそう。
「Reborn-Art Festivalのために“こじか隊”というボランティア団体が作られて、これに参加してみたいなって。また来年、牡鹿半島に来るきっかけにもなるし。受け入れる側としても活動してみたいです」。
でも、と彼女たちは続ける。「そのためには、会社を休まないと…。災害があった直後だけじゃなくて、継続してボランティアのために休暇が取れる、そんなふうになったら、もっとたくさんの人が石巻を訪れることができるんですよね。そういう風に変わっていったらいいな」。

Reborn-Art Festivalで体験したことを受け取り、未来を考えるようになる。ここで生まれた縁は、つながり、未来へと手渡されていく。





ペールトーンの美しい夕暮れから、夜はMr.Children櫻井和寿さんの歌声に酔いしれ…さわやかな夜風と歌声に会場が包まれて。



牡鹿半島や石巻で2017年に開催されるReborn-Art Festival 2017。Reborn-Art Festival×ap bank fes 2016は、そのプレイベント。アート・音楽・食を通じ、地域とアーティストが協力して作り上げる「総合祭」をめざす。写真は2日間のオープニングを飾った渡波獅子風流塾のみなさん。

WRITING/MACHIKO HOSHI(shoepress)  PHOTO/KOHEI SHIKAMA(akaoni)