「最近法律が変わって、海外資産にも課税されるようになった」と聞く機会がよくあります。

しかし実際には、以前から海外の資産から生じる所得などについては、課税の対象となるケースがほとんどだった……。

このように主張するのは、『海外資産の税金のキホン』(信成国際税理士法人著、税務経理協会)の著者です。

詳しくいえば法律が変わったのではなく、日本の税務当局が海外資産に対する課税を強化・把握するようになったということなのだそうです。

また、パナマ文書のように、ペーパーカンパニーを利用した資産隠しも明らかになるケースが増えているのだとか。

2018年からは海外の金融講座情報なども日本と海外の税務当局間で交換されることが想定されており、「海外に資産を移せば日本の税務当局に把握されない」という時代は終わりを告げようとしているというのです。

そこで本書では、個人で注意しなければならない国際税務の基礎を開設しているわけです。

■世界の税務当局の動きが変わってきている

個人が国境を飛び越えて経済的に活動することは珍しくなくなりましたが、かといって、一国の税務当局がすぐにそうした活動を把握できるというわけではありません。

そこで税務当局はこれまで、課税漏れを見逃す、あるいは税法の制約を逆手にとった個人の租税回避行為を許してしまうことがあったのだそうです。

そのため近年、世界の税務当局は、個人の経済活動や財産の状況をきちんと把握し、課税漏れや租税回避行為を防止しようとしているというのです。

もちろん日本も例外ではなく、近年は「国外送金等調書制度及び国外財産調書制度」の創設や、相続税法の改正、出国税の導入などにより、個々人の財産の動きをチェックし、適切な課税を行おうと全力を挙げているのだといいます。

また、富裕層の行きすぎた節税行為に対し、世界各国の税務当局が共同で、不透明なお金の流れについて情報開示を行うことも予定されているといいます。

つまり海外移住や海外投資を検討している人は、こうした世界的な流れを把握し、納税について知り、対策を講じる必要があるわけです。

■他にも海外資産の税制について知る意義が

そして、海外資産の税制について関心を高める意義がもうひとつ。

それは自国や他国の税制についての知識を蓄え、理解を深めることにより、ムダな納税を防止することです。

事実、自国と他国の税制や租税条約を知らなかったために、税金の申告や農夫の場面で次のような損をするケースも。

(1)外国税額控除という制度を知らずに損をしているケース

海外に所有している不動産を賃貸に出している場合、その所有者が日本在住の人なら、その不動産がある国と日本の両方で、その不動産に課せられる税金を納めなくてはなりません。

海外と日本とで、1つの所得に対して2つの税金を納めているわけで、これを二重課税と呼ぶそうです。

しかし二重課税は、「外国税額控除」という制度を用いれば過払いを防ぐことが可能。なのにこの制度を知らず税金を納めていたのでは、不動産投資が財産を食いつぶすことになってしまいかねないということ。

さらに国によっては、不動産収入から税金を直に源泉徴収する場合もあるとか。税金が源泉徴収されていると、個人のお財布や口座から出ていく痛みを伴わないので関心が向かず、自分の損失に気づきにくくなってしまうというのです。

(2)税務対策を取らずに損をするケース

いまは国外送金等調書制度や国外財産調書制度などにより、海外資産から生じる所得についての無申告や申告漏れは容易に発覚するそうです。

そして税務署はいったん把握すると、納税者に対して「お尋ね」という事実確認の信書を出すもの。

納税に関心の高い人なら、この時点で税理士などの専門家に相談するのですが、そうでない人の場合、そのまま税務署に足を運ぶことに。そして後日、税務調査を受け、本税のみならず、無申告加算税や過少申告加算税、延滞税といった「そもそも適正に申告納税をしていれば、払わなくて済んだ税金」ををムダに払う羽目になってしまうというのです。

■「海外に投資をすれば大丈夫」は過去の話

冒頭の話題にもかかわることですが、かつて海外投資を普及させるための謳い文句として、「海外に投資をすれば日本の税金はかからない」というものがありました。

けれど、もうすでにそんな時代は終わっているということ。

つまりは日本にいる以上、海外資産についてもなんらかの税金をきちんと申告し、納税しなくてはならないということ。

そして税務署が海外の税務当局と連携し、対策を取っている以上、「知らなかったのだから仕方ない」では済まされなくなっているのです。

税法の知識がない人でも理解できるようにと、わかりやすく説明されているところが本書の魅力。そのため、「数字のことは苦手」という方でも無理なく基礎を学ぶことができるでしょう。

(文/作家、書評家・印南敦史)

 

【参考】

※信成国際税理士法人(2016)『海外資産の税金のキホン』税務経理協会