『伝説の算数教室の授業』(宮本哲也著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者が経営する「宮本算数教室」への入塾方法は、「無試験先着順」。

にもかかわらず、毎年、生徒の大半が開成、麻布、栄光、筑駒、駒東、桜蔭、フェリスなど首都圏の最難関校に進学するという実績を叩き出しているのだそうです。

本書は、小3〜小6、中学受験直前までの授業の実況中継に加え、これまで明かされることのなかった問題を含め、実際に同教室で使われているパズル、テスト問題を全種類網羅したもの。

2006年の『超強育論』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を再編集して刊行した『宮本算数教室の授業』(同)に、『超強育論』の理論編から一部抜粋したものを加え、再々編集したのだそうです。

では著者は、算数を教えることについてどう考えているのでしょうか? 「はじめに」から、基本的な考え方を確認してみましょう。

■子どもが算数を学ぶ目的はなにか

著者は本書の冒頭で、「子どもに算数をやらせる目的はなんでしょうか?」と読者に問いかけています。

もしも「いい中学に入れるため」と答えたとしたら、残念ながら0点なのだとか。なぜなら算数をやる目的はただひとつ、「賢くなるため」だからだというのです。

では、なんのために賢くなるのでしょうか?

それは「よりよく生きるため」。これは、「自分に合った生き方を見つける」ここといいかえることもできるそうです。

当然ながら、自分に合った生き方は本人にしか決めることができません(著者は、親がかわりに決めるなどもってのほかだと主張してもいます)。

だとすれば、そのために必要なのは「情報を取捨選択する力」と「条件を整理する能力」。そしてこの2つの能力は、算数によって高めることができるというのです。

そして著者は、これ以外の目的を持つべきではないともいいます。

中学受験の成功など、ささやかな副産物にすぎないもの。なのに、そちらにばかり気を取られて本質を見失うと、間違った方向に進んでしまいかねないから。

■大切なのはやはりバランスである

人生は二者択一の連続。「どっちに進むべきか?」という岐路に立ったとき、後悔しないためにはあらゆる情報を集め、優先順位を決めることが必要です。

いうまでもなく自分にとって優先順位の低いものから消していくことになるわけですが、そうすればおのずと方向は決まるということ。

このことを踏まえたうえで著者は、「私の授業の目的は子どもを賢くすることにあります」と断言しています。

たとえばピアノの国際的なコンクールで入賞するためには、実績のある先生について、ひたすら練習をする以外にありません。

水泳でオリンピックに出て優勝するためにも、実績のあるコーチのもとで、ひたすら練習する以外に方法はないでしょう。

しかしどちらも、やればやるほど上達するというわけでもありません。大切なのは、健康であることと、自分の意思で練習に臨むこと、そのふたつのバランス。

■算数のできる子はどんな子なのか

この考え方を算数に当てはめてみた場合、練習は計算練習ということになります。では、「算数のできる子」とは「計算が速い」「難しい問題をすらすら解く」子どもでしょうか? それは違うと著者。

大切なのは、「どれくらい深く考えられるようになるか」だというのです。

計算は正確でありさえすれば、それほどスピードは必要ないそうです。

また、本当に難しい問題は、誰がやってもすらすらとは解けないもの。70ページの「究極の数理パズル」など、誰がやっても10分以内に解くことなど不可能なわけです。

もちろん繰り返し練習すれば速く解けるようにはなるでしょうが、初見では無理。

■大切なのは計算の速さではない!

そして重要なのは、すらすら解ける問題を解いているだけでは、学力は向上しないということ。

著者が教室で、できる子を見ていて感じるのは「集中力の高さと考える深さ」だそうです。

そういう子は、いったん問題を解きはじめると決して顔を上げず、ノートの上で問題と壮絶な戦いを繰り広げるというのです。

しかも、答えを出したとしても、そこで終わらないのだとか。むしろ勝負は、答えを出してから。つまり、自分が出した答えに誤りがないかどうか、あらゆる方法を駆使して確認するのです。

これが、「大切なのは計算の速さではなく、考える深さ」ということの意味。

■自分なりの価値観を持つのが大切

事実、最近の中学入試算数では、レベルの高い学校ほど問題数が少ない傾向にあるそうです。だから速さなど必要なく、粘り強く問題に取り組み、時間がある限りひたすら見なおしをする。

計算の速さは有効な武器にはならず、無理にスピードを上げようとすると、雑になるだけだということです。

「算数の上達=賢くなる」。

そして賢くなることとは、計算が速くなることではないという考え方。

ましてや算数の点数が上がることでもなく、レベルの高い中学の入試問題が解けることでもなく、そういう中学に受かることでもないといいます。

大切なのは、ものを考えることができるようになること。つまり、自分なりの価値観(=判断力)を持てるようになることが大切だというわけです。

こうした考え方に基づいた本書には、説得力のある考え方がぎっしりと詰まっています。

「たし算パズル」「お楽しみテスト」「思考力アップ問題」「推理パズル」「ラストスパート問題」など、掲載されている問題もオリジナリティ豊か。子どものいる方であれば、一度、手に取ってみる価値はあると思います。

(文/作家、書評家・印南敦史)

 

【参考】

※宮本哲也(2016)『伝説の算数教室の授業』ディスカヴァー・トゥエンティワン