どんな場面でも最高のパフォーマンスを発揮するために[本は自己投資! 第3回]

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リオデジャネイロオリンピックが17日間にわたる熱戦の幕を閉じた。開催中はとかく自国のメダル数に一喜一憂しがちだが、振り返ってみると、やはり心に残っているのは、各競技の選手たちがみせた超一流のパフォーマンスである。

世界が注目する大舞台で最高のパフォーマンスを発揮するのは並大抵のことではない。「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす」と記したのは宮本武蔵だが(『五輪書』「水之巻」)、素質や才能だけにとどまらない気の遠くなるような修練の時間があったからこそ、あのような一世一代の舞台で、観る者の心を揺さぶるパフォーマンスを生み出せたのだろう。

「だから俺たちみたいな凡人とはそもそもモノが違うんだよなぁ」などとビールジョッキ片手にただ感心しているだけであれば、ここで話は終わりだ。

おそらく五輪期間中に日本中の盛り場でオヤジたちがこの手の会話を交わしていたはずで、私も飲み屋の会話は決して嫌いではないが(むしろ好きだ)、今回したいのはそういう話ではない。私はみなさんにひとつの問いかけをしてみたいのだ。

「あなたも超一流のアスリートと同じようなレベルに達することができるかもしれない」こう言ったら、果たしてあなたは信じるだろうか?

ここで、ある人物を紹介したい。その男の名は、ジョッシュ・ウェイツキン。

1976年にニューヨークに生まれたジョッシュは、6歳の冬に公園で賭けチェスに興じる大人たちを偶然見かけ、すっかりチェスというゲームに魅了されてしまう。

やがて天才チェス少年としてめきめきと頭角を現した彼は、父親が書いた本『ボビー・フィッシャーを探して』が映画化されると全米の注目を集めることになる。(ボビー・フィッシャーはIQ187の頭脳を持つ天才チェスプレイヤー。冷戦時代にソ連の選手を破り世界チャンピオンになった。その数奇な人生は『完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯』に詳しい)

全米ジュニアチェス選手権を制し、世界チェス選手権でもベスト4に進出するなど、華々しい戦績を誇ったジョッシュに転機が訪れたのは、18歳のときだった。『道徳経』との出会いをきっかけに、仏教や道教などの本を貪り読むようになったのだ。

そして22歳でマンハッタンのダウンタウンにある太極拳のスタジオの門を叩く。

驚くのはここからだ。決められた一連の動作をゆっくりと、穏やかに集中しながら行う太極拳の動きに魅了された彼は、その一部問である「推手」を習い始め、数年後には全米選手権を制し、世界選手権で銅メダルを獲得、そして2004年にはついに世界チャンピオンになるのである。

チェスと太極拳。ジョッシュ・ウェイツキンは、この異なる分野でトップを極めたのだ。

これがどれだけ凄いことか考えてみてほしい。たとえて言うなら、囲碁界史上初の7冠を達成した井山裕太棋士が突然、「空手の選手になります」と言って表舞台から姿を消し、4年後に東京オリンピックのメダリストになってふたたび我々の前に姿を現すようなものである。

ここで「天は二物も与えちゃうのか。世の中はなんて不公平に出来ているんだ」などとコップ酒をあおっていては、話は終わってしまう。ヤケ酒をあおる暇があったら、ぜひこの本を読んでほしい。

『習得への情熱-チェスから武術へ-上達するための、僕の意識的学習法』(みすず書房)は、チェスと武術をどのように彼が身につけていったのか、そのプロセスをつぶさに記した一冊。世に学習法について書かれた本は数あれど、ベストは間違いなくこの本だ。読めば必ずやあなたの人生に良き変化をもたらすだろう。それほどのインパクトを持った一冊である。

この本の中でジョッシュは驚くべきことを述べている。チェスも武術も根本の原理は同じで、それを踏まえたからこそ、両方を高度なレベルで身につけることができた。しかもそうやって会得した原理は、他の分野にも応用可能であるというのである。