山本裕典、モデル志望で芸能界入りして11年。“舞台漬け”の日々を送る現在の心境とは――
山本裕典、28歳。2005年に開催された第18回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを受賞し、翌年には『仮面ライダーカブト』(テレビ朝日系)で俳優デビューを果たした。あれから11年――芝居の難しさに直面し、悔し涙を流したこともあったと当時を振り返るも、「舞台が好き」「役者という仕事はやめられない」と目を輝かせる。次に挑戦する舞台『鱈々』(だらだら) では、ずっと憧れていたという藤原竜也と初共演。稽古に入る直前の山本に、現在の心境についてじっくりと話を聞いた。

撮影/藤沢大祐 取材・文/花村扶美
スタイリング/中村 剛 ヘアメイク/佐々木麻里子
衣装協力/Tシャツ¥2,550、パンツ¥5,450(ベルシュカ/ともにベルシュカ・ジャパン カスタマーサービス : tel.03-6415-8086)、バングル¥5,500(amp japan : tel.03-5766-8570)


“憧れの人”藤原竜也と初共演の夢が叶った!



――10月に上演される舞台『鱈々』の出演が決まったときはどんな気持ちでしたか?

まずは、(藤原)竜也くんと一緒にお芝居ができることがうれしかったです。竜也くんの舞台を何本も観てきて、楽屋などで挨拶したりすることはあったんですが、共演したことが一度もなかったんです。

――初共演というのは意外でした!

(同じ事務所の溝端)淳平は竜也くんと共演しているんですが、僕は本当に縁がなく…もう永遠にないのだろうか…!と諦めかけていたところだったので(笑)、本当にうれしかったです。

――山本さんは、藤原さんの舞台『ムサシ』を2009年の初演から見ているんですよね。

はい。他にはシェイクスピア作品も観ています。蜷川(幸雄)さんの舞台を観に行くと、竜也くんが出ていることが多かったので。

――山本さんも、蜷川さん演出のシェイクスピア作品に出演していたから、藤原さんには親近感があったのでは?

そうですね。…今回の『鱈々』は、蜷川さんが亡くなられて、竜也くんも僕も最初の舞台なので、感慨深いところがあります。いい舞台にしたいという思いは、竜也くんも僕も強く持っています。

――山本さんにとって、藤原さんは“憧れの人”だそうですね。

知らず知らずのうちに見入っちゃっているんです。気づくと目で追っているんですよね。

――どんなところに惹かれるんでしょう?

存在感というか、もうそこにいる佇まいからして……。僕が小学生くらいの頃から活躍されている方なので、単純にミーハー心もあるのかもしれないですけど(笑)。あとは、やっぱり蜷川さんの舞台にたくさん出演されていて、うらやましいという気持ちもありました。そこも含めての“憧れ”です。

――ビジュアル撮影のときは緊張しましたか?

竜也くんはとても優しくて、僕にいろいろ話しかけてくれたんですけど、やっぱり緊張しました。第一線で活躍されていて、プライベートでは結婚されていてお子さんもいて。お芝居の面だけでなく、人間的な部分でも尊敬しています。すべてにおいて魅力的な人。僕の目標とする方のひとりです。



濃密な4人芝居、膨大なセリフ量への挑戦



――韓国を代表する劇作家・李 康白(イ・ガンペク)が1993年に発表した傑作 4人芝居ということで。

4人芝居……密に濃くできるところは楽しみなんですけど、プレッシャーもあります。少人数での芝居って、4年前の『パレード』という作品くらいしか経験がないんです。

――台本を読ませてもらったんですが、それぞれのセリフ量、かなり多いですよね…?

確かにかなりの量ですよね! わりと稽古前にセリフが入っているほうなんですけど、今回はちょっと心配です(笑)。

――長年、同じ倉庫で一緒に暮らし、朝から晩まで倉庫で働き続ける男、ジャーン(藤原竜也)とキーム(山本裕典)。単調な生活を送るふたりの前に、ミス・ダーリンという女性と彼女の父親が現れたことで、日常に変化が訪れる。……というあらすじですが、山本さんが演じるキームという青年はどんなキャラクターなんでしょうか?

今さえよければいいという考えのお気楽主義。すぐに楽しいほうに流れちゃうような。仕事に対する責任感があまりなく、一緒に倉庫番をしているジャーンにまかせっきりで毎晩飲み歩いてるという…。

――そんなキームに対して、藤原さんが演じるジャーンは特別な感情を寄せているようですが、キームはその思いに気づいているのでしょうか…?

気づいているのかなぁ…。ジャーンはキームに対して愛情をもって世話を焼いているけれど、体を求めたりはしない。ちょっとゆがんだ愛の形かもしれないですね。気持ちが伝わらなくて淋しいだろうなって思うけど、ジャーンはそれを苦と思ってないみたいにも見えるし。

――キームもジャーンもそれぞれに問題を抱えながら、物語は淡々と進んでいきます。

最初に台本だけ読んだ段階では、何か大きな事件が起きるというわけでもないし、わかりやすく答えが用意されている内容でもないので、観てくださる方に何を感じてもらえばいいのかわからなかったんですが、共演者の木場(勝巳)さんとお話していて、思ったことがあって。

――それは何でしょう?

木場さんが「この作品は、お客さんが舞台を見て、私だったらこうするとか考えながら、自由に想像を膨らませていくような舞台なんじゃないかな」っておっしゃっていて、なるほどな、と。観に来てくださるお客さんが、キーム目線で物語を追っていくと、彼が下した決断も含めて、この作品をより楽しめるのかなって思います。



『鱈々』のチラシに反応するお客さんを見かけて…



――演出を手掛けるのは、栗山民也さんですね。

栗山さんとは初めてのお仕事なので、正直ビビってます…。安蘭けいさんからは「繊細に演出される方だよ」って聞いてて。僕、人間が大雑把なので…(笑)。

――栗山さんの舞台を、これまでに観に行かれたことは?

最近だと、7月にパルコ劇場であった『母と惑星について、および自転する女たちの記録』を観に行きました。志田未来ちゃん、鈴木 杏さん、田畑智子さん、斉藤由貴さんが出演されていて…

――『鱈々』と同じ、4人芝居だったんですね。

そうなんです、偶然にも。脚本も演出も、僕にとって今年いちばんと言ってもいいくらい楽しめました! そうそう、そのときうれしかったことがあったんです。

――何があったんですか?

お芝居に行くと、これから上演予定の作品のチラシをたくさんもらうんですね。それで席に座って後ろからお客さんの様子を見ていたら、『鱈々』のチラシのときだけ手が止まってるんですよ。パラパラとめくっていくのに、『鱈々』のチラシには「ん?」って。

――お客さんの目を引いていたわけですね。

しかもひとりじゃないんですよ。僕が見た限りでも、30人以上は同じ動きをしていたから(笑)。それはもちろん竜也くんや栗山さんの名前だからっていうのもあると思うんですけど、でも、今後ね、30歳、40歳になっていく頃には、僕の名前を見つけて手を止めてもらえるようになりたいなって。そう思いました。

――これから稽古が始まるということですが(※取材を行ったのは8月頭)、今はどんな気持ちですか?

共演者の竜也くん、木場さん、中村ゆりさんのなかで僕がいちばん年下なんですが、負けたくないし、置いていかれたくないっていう気持ちです。

――ここで先輩たちに食らいついていけば…。

ひと皮むけて大きく成長できるんじゃないかなって思いますね。もう30歳手前なので、自分自身ももっと変わりたい!っていう欲が出てきています。この『鱈々』が今年最後の舞台になると思うので、全力で向き合っていきたいですね。