『なぜ蚊は人を襲うのか(岩波科学ライブラリー)』(嘉糠洋陸/岩波書店)

写真拡大

 ジメジメした暑さと並んで、夏が嫌われる理由の筆頭格と言える「蚊」。『なぜ蚊は人を襲うのか(岩波科学ライブラリー)』(嘉糠洋陸/岩波書店)は、都内の研究室で万単位の蚊を飼育する著者が、そんな蚊の生態を科学的に説明する一冊だ。

 そこには「蚊は二酸化炭素、匂い、熱という3つの要素で吸血対象を探し出す」「黒い服を着る人は白い服を着る人の3〜4倍ほど蚊に刺されやすくなる」など、蚊にまつわるトリビアが満載。ただ「血を求めるのはメスのみで、オスと交配した後に吸血に対する欲求が高まる」という大前提の知識については、知らなかった人も多いのではないだろうか。そのほか、マラリアやデング熱を人に感染させる仕組みや、そんな“病気の運び屋”と人類との長きにわたる 戦いも詳しく描写されている。

 そして本書のいちばんの魅力は、蚊と対峙する著者の、研究生活の描写のおもしろさにある。著者はブルキナファソで、直径数メートルにもなる蚊柱に立ち向かい、オス・メスのペアの捕獲に挑戦。交配をはじめた蚊は蚊柱からスーッと落下していくそうで、著者はその落ち際をめがけて網を一振り! 正常位で愛の営みの最中の「可哀想な男女ペアを捕獲」するそうだ。

 さらに南米アマゾンでは、「さあかかってこい」とズボンの裾をまくり上げ、マラリア原虫を持つ可能性のあるハマダラカを、身を挺しておびき寄せている(「人囮法」というそうだ)。「血を吸われないように、必死で蚊を集める様は、どんなシューティングゲームよりもスリルたっぷりです」というですます調の文章と、身に迫る危険のギャップが何ともおもしろい。というか危ない!!!

 部屋の中で蚊を2〜3日も放置して、血を吸わせては「やっと食事にありつけたようです」と温かく見守る慈悲の心を持ち、メスの蚊を「彼女は〜」と人間の女性のように書く。著者の深すぎる蚊への愛に触れると、「あまりにも目の敵にしすぎたかな……」とこちらも反省したくなってくる。

 ちなみに、著者のお名前の「嘉糠洋陸」の読みは「カヌカヒロタカ」。「名前にも『カ』が3匹いる」とよくネタにされるそうだ。

文=古澤誠一郎