不安定な天候とともに、もうしばらく厳しい残暑が続きそうですね。夏の疲れを癒すには、近郊の隠れ家スポットへのお出かけも良い方法です。今回は関西エリア方面、阪急宝塚線の池田駅にほど近い「小林一三記念館」をご紹介します。阪急文化の集大成を一覧できる展示のほか、都会の喧騒を忘れて、お茶や食事を楽しめる施設になっています。古き良き時代の香り漂う、小林一三が唱えたライフスタイルを体感してみませんか?

小林一三記念館 雅俗山荘


私鉄沿線開発やターミナルデパートは、東京が起源?

小林一三(1873〜1957)は、阪急電鉄や阪急百貨店、そして宝塚歌劇団の創設者として著名な実業家です。2014年の宝塚百周年に続き、2015年のNHKドラマ「『経世済民の男』小林一三」が放映後も話題となり、再び静かな注目が集まっているようですね。
電鉄といえば、私鉄沿線の田園都市計画や住宅開発、郊外のレジャーランド建設、駅に直結するターミナルデパートは、みな東京発祥だとお考えではないでしょうか?実は、これらは全て小林一三が構想を描き、日本では、阪急沿線で初めて着手された事業です。ターミナルデパート業態に至っては、世界初でした。阪急の事業は乗客を誘致するのではなく、創り出すという発想から始まったのです。
小林一三が目指したのは、大衆文化の創造です。彼は、大衆が主人公となる社会を実現するための事業を、次々と打ち出しました。その代表例のひとつが、宝塚歌劇団。沿線に住む女性や家族連れでも楽しめるエンタテインメントとしてつくられた、女性だけの稀有な劇団は、現在年間200万人の観客動員数を誇ります。

小林一三の胸像

小林一三の胸像


近代数寄者たちの茶会文化は、何故崩壊?

一方で小林一三は、茶人としての顔も持っていました。明治後半から大正・昭和初期にかけては、富国強兵と殖産が軌道に乗り、再び日本の伝統文化が見直された時代でした。莫大な富を得た実業家や財閥の当主たちは、茶事による社交文化を極めます。高価な茶道具や書画コレクションを、富の象徴として披露する茶会や園遊会を開き、一方で詫び寂びの茶道も追求しました。
しかし戦後財閥は解体され、財産税の支払いのため、次々に高級茶道具が放出されました。近代の価値観の変化もあり、近代数寄者たちによる茶会文化は、崩壊して行きます。茶人としては号の逸翁で呼ぶのがふさわしい小林一三は、電力王と呼ばれた松永安左衛門(耳庵)、畠山一清(即翁)とともに、最後の数寄者の世代でした。

小林一三記念館

小林一三記念館


「新茶道」が阪急百貨店と連動?

逸翁の茶の湯は、それまでの数寄者とは異なる方向性をもち、新しい時代のニーズを反映しました。逸翁は、一部の特権階級のための茶道ではなく、日常生活の中での茶の湯を人々に広めようと、仏教になぞらえて「大乗茶道」と言い表しました。昭和26年、78歳で出版した『新茶道』は、逸翁の茶道論の集大成。既成の茶を批判しつつ、美術鑑賞の場としての茶の湯や簡素茶道など、新しい時代の茶道の在り方を提案しました。
逸翁は、画期的なアイデアを、次々に実行に移します。懐石料理の代わりに気軽な丼鉢での茶会「丼会」を会員持ち回りで開き、海外旅行で見つけた古物や民芸品を茶器に見立て、今では一般的になった、周りに椅子座が配置された茶室を設計しました。昭和7年には、阪急百貨店内に百貨店としては初めて古美術売場を設け、茶室を導入。茶器などの古美術品を安心して入手し稽古もできる場として、茶道の大衆化をサポートしました。

小林一三記念館 ロビー

小林一三記念館 ロビー


雅俗山荘で、逸翁が具現化した大衆文化や茶の世界を体感しよう

小林一三が生涯目指した大衆文化創造のコンセプトは、茶道においてもぶれていません。和洋折衷と、創意工夫と、合理精神を貫いた逸翁。その茶の湯の世界は、「雅俗山荘」で一部を体感できます。
ドラマでも舞台に使われた雅俗山荘は、実際に小林一三の住まいだった邸宅。現在では増築されて小林一三記念館となり、彼が興した事業の全容を見せてくれます。旧食堂やサンルームなどのスペースは、その名も「邸宅レストラン 雅俗山荘」として、クラシカルな雰囲気の中で本格的なフランス料理を味わうことができます。
茶室「即庵」は、住居部分からも出入りでき、椅子席も含め何通りかの利用ができる、フレキシブルな造り。しかし硝子戸からの緑豊かな庭の眺めや、茶室としての質は本格志向で、まさに雅俗です。記念館や逸翁美術館の複数の茶室は、貸茶室としても機能しています。また、展覧会会期のみ開館される逸翁美術館では、ゆるキャラの逸翁が名品解説に登場するときもあります。逸翁コレクションを所蔵する逸翁美術館は、小林一三記念館から徒歩約数分。時期により、呈茶席も設けられます。
逸翁は晩年、自身が居住する池田市を、「理想的小都会」にする計画をもっていました。逸翁美術館はホール付帯で、隣接して関連文献が収集されている池田文庫があり、どちらも記念館と同じく、ヒューマンスケール。まさに、理想的な都会の文化施設が集積されています。逸翁が提案した、そんな古き良き雅(みやび)カジュアルなライフスタイルを、晩夏の山荘で体感してみてはいかがでしょうか。阪急池田駅から小林一三記念館までは、徒歩約10分。展覧会やイベント及びレストランなどについては、目的別に案内をよく確認して、お出かけくださいね。

参考文献:
小林一三(著)『新茶道』講談社 (1986/11)
小林一三(著)『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』講談社 (2016/4)

茶室 即庵

茶室 即庵