2016.08.23


偶然にして必然?
ヒットコスメと理系男子のちょっと素敵なストーリー


百貨店のSALEはとうに終わってショーウィンドウはすっかり秋の洋服に、化粧品カウンターも秋の新商品が揃い始める。目元や口元を秋仕様にするだけで季節を感じることができるからメイクってスゴい。そのほうが断ゼン“旬度”も違うから。

今年の秋といえば、ボルドーやカーキ、ブラウンが人気路線。とくに日本人はブラウン中毒といってもいいほど、ブラウン大好きっ子らしい(笑)。百貨店化粧品バイヤーいわく、「ONでもOFFでも使い回せるから、ブラウンのアイシャドウが発売されると売り上げがグンとあがる」という。

化粧品メーカーの開発者はヒットアイテムをつくることが使命。その年のトレンドと顧客のニーズを先読みし、新しい色と組み合わせを生み出すために研究に没頭する。もちろん、ブラウンのアイシャドウだって例外ではない。
といっても「ヒットに繋がるのなんて、ごくわずかです。もちろん、僕たちは“ヒットする!”と思ってつくってますが、なかなか思うようにいきませんね」と、某化粧品メーカーの研究所に勤める30代理系男子の友人も似たようなことを話していた。何百色つくったとしても売れるとは限らないのだ。

「試作品をつくってみたんですけど」と友人は5種類のアイシャドウパレットを並べ始めた。秋の企画の大詰めで殺気立ってるほど忙しいのに、よりによって居酒屋に呼び出され、商品化されるかどうかもわからない品モノを論評する羽目に。そんな中、一番奥にあるアイシャドウに目が止まった。

柔らかなブラウンを基調にした4色のグラデーションパレット。アイホール全体にのせるホワイトは、淡い黄色が混じっているのでハイライトとしても活用できるし、メインとなるブラウンはアーモンドを軽く炒ったようなやさしい色。締めとなる濃いブラウンは細く筆でなぞっても、ブラシで太めに入れても似合うように設計されている。単色でも使い勝手は良さそうだけど、4色すべてを使ったほうが素敵に仕上がるというのも容易に想像できた。最後のひとつを指差して伝えると、意外な答えが返ってきた。「彼女にプレゼントするならってイメージしてつくったのがコレなんです」。

「えええ? 彼女のプレゼント?」
こいつ、ずい分キザなことをするんだなぁ、と苦笑しながら改めてアイシャドウを見てみたが、完成度の高さは群を抜いていた。よく言う“捨て色”がなく、それぞれの色が絶妙なバランスで構成されていたのだ。
化粧をするのはおしゃれを楽しむのと一緒。このアイシャドウを使ってくれた人がみんなハッピーになればいいな、という彼の想いが垣間見れたような気がして、心があたたかくなった。

そういえば、メイクアップアーティストの友人が「化粧ってね、丁寧にすると仕上がりはもちろん、顔つきまで変わるんだよ。メイクは義務でもお義理でもない、ちゃんと気持ちを込めないと“なりたい顔”にだってなれないんだよ」と話していたことを思い出した。
そのときは「ふぅん」と聞き流したけど、もしかして、彼のつくるようなコスメがこういう気持ちの後押しをしてくれるんじゃないか、と感じた。まさに、理屈じゃない“心に響くコスメ”。

その年の秋、彼が手掛けたアイシャドウは無事に発売されることとなった(理系男子のちょっと素敵なストーリーは世に出ることはなかったけど)。驚いたのは多くの雑誌で取り上げられ、記録的な売り上げを誇るヒットアイテムに成長したことだ。それはきっと、彼が一番驚いているだろう。「世の中、何が起こるかわかりませんね(笑)」と彼からメールが届いた。
ホント、何が起こるかわからない。

(Text & Photo: 長谷川 真弓)

外部サイト