作新学院が54年ぶりの優勝を飾った夏の甲子園。大会閉幕とともに夏の終わりを感じる人も多いはずだ。今年はリオ五輪もあってもうひとつ甲子園に熱中しきれなかった、という人もいるかもしれない。

そんな人にお勧めしたいのが先週20日から公開された映画「青空エール」だ。「高校野球×吹奏楽」を描いて人気を集め、今年完結した同名マンガを原作に、「まれ」の土屋太鳳、「仮面ライダードライブ」の竹内涼真の主演で実写映画化された。


この映画の見どころ・聴きどころについて、原作に引き続き映画でも吹奏楽部監修を担当した「高校野球ブラバン応援研究家」梅津有希子さんに話を聞いた。

高校野球と吹奏楽部が強い学校はとても似通っている


───梅津さんは今夏、『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』を上梓するなど、高校野球の応援演奏について奥深い世界を発信しています。『青空エール』の監修を務めることになった経緯は?

梅津 『青空エール』というコミックスに関しては、もともと河原和音先生がご自身で発案されて描かれたもの。そのモデルとなったのが、私の母校である札幌白石高校の吹奏楽部だったんです。たまたま私がそこの吹奏楽部出身で、作品が世に出てから「もし何かお役に立てれば」と関係性ができ、連載開始3年目くらいから監修として関わらせていただくようになりました。

───野球マンガは年々、細分化されていくなかで、「高校野球×吹奏楽」で来たか!と新鮮な驚きがありました。

梅津 そうなんですか!?  実は、私自身は野球まわりに関する知識がほとんどなくて……。私が部活現役だった頃は、たまたま野球部の応援を担当することもなく、高校野球とは無縁で、実は野球そのものにもほとんど興味がなかったんです。

───ちょっと意外です。

梅津 でも、社会人になってからたまたまテレビで甲子園の応援風景を見る機会があって、そこで、常総(学院)、天理、大阪桐蔭、習志野、埼玉栄といった、吹奏楽コンクールの常連校が応援演奏をしていることに気がついたんです。

───見事に、甲子園常連校ですね。

梅津 そうなんです! 高校野球が強い学校と吹奏楽部が強い学校はとても似通っているんです。私自身が東京・普門館の全日本吹奏楽コンクールで競いあった全国の吹奏楽強豪校が、実は甲子園で演奏していたんです。

───なんて贅沢なんだ、と。

梅津 おまけに、高校野球の季節は吹奏楽部にとってもコンクールのある大切な時期。ましてや真夏の屋外という、楽器にとって負担の大きい直射日光も雨もある過酷な環境で、どうして!? と俄然興味が湧いてしまって、野球と応援の関係性について歴史的な背景を調べたり、各地の吹奏楽部に取材をしたりするようになりました。

───『青空エール』の監修を機に、『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』につながった、と。

梅津 はい、『青空エール』の監修をしていなければ、ここまで野球応援にハマることはなかったと思います。今では、各地の球場にいって野球そっちのけで応援の様子ばかり取材をしています。

こだわったリアルな吹奏楽描写


───さて、映画「青空エール」についてお聞きしたいのですが、映画にはどのように関わっているのでしょうか?

梅津 私の肩書きとしては「吹奏楽部監修」という立場です。楽器の持ち方、扱い方はもちろん、挨拶や返事の仕方などの強豪校特有の空気感を、役者の皆さんに嫌がられるくらい(笑)、こだわって監修しているので、吹奏楽の部分はとてもリアルに仕上げていただいています。

───たとえば?

梅津 地域にもよりますが、コンクールの結果発表では、「金」と「銀」を聞き間違えないように「ゴールド金賞」と言うんですね。その「ゴールド金賞」が発表された瞬間、「ギャーーーッ!!」という、悲鳴に近い歓声が上がるんです。そういった、喜び方の指導からはじまり……。

───細かい! でもわかります。野球映画でも、プレー描写が雑だと、ストーリーが良くてもどうしても入り込めないことがあります。

梅津 その点、映画「青空エール」では吹奏楽パートに関して、「そんなのありえない」という描写はないと思いますし、同じように野球パートでもちゃんと監修者がいて、その先生がみっちりと野球指導をされています。リアルなものにするための手間と時間は惜しまず投入されていると思います。

───演者さんの楽器演奏に関しては?

梅津 つばさ役の土屋太鳳さんは、あんなに忙しいのにしっかりトランペット練習を積んで、ちゃんと吹けるようになっていました。ほかにも、つばさと同じく吹奏楽部に所属する水島亜希役の葉山奨之君をはじめ、演者の皆さんは本当に真面目に練習をしていて……俳優ってすごいなって思いましたね。3ヶ月なら3ヶ月でちゃんと吹ける状態にまでもってくるというのが、やっぱりプロだなぁと思いました。

───ほかに、吹奏楽の部分で特にこだわった点というと?

梅津 コンクールに関しても、スタンドでの応援曲に関しても、すべての曲の提案をさせていただきました。もちろん、そのすべてが採用されているわけではないのですが、特に野球応援のシーンは、私の「夢の応援曲リスト」を目指しました。

───応援曲は「アメトーーク:高校野球大好き芸人」でランキング化されるなど、以前にも増してここ数年で注目を集めています。

梅津 「チャンス紅陵」や「天理ファンファーレ」といった高校オリジナルの曲も登場しますが、三木孝浩監督からは、「最近のJ-POPじゃなくてちょっと前、90年代くらいのJ-POPがいい」という話をいただき、「Sunny Day Sunday」や「紅」、「夏祭り」なども登場します。

───皆が聞きたい定番曲ですね。

梅津 あとはトランペットですね。先ほども話題に出ましたが、主演の土屋太鳳さん演じるつばさの重要なパートがトランペットソロ。高校野球の応援でのトランペットソロといえば「必殺仕事人」じゃないですか。

───高知の明徳義塾や、愛知の東邦なんかが有名ですよね。

梅津 でも、私も監督もプロデューサーも「少女漫画の映画だから、本当に『必殺』でいいのか!?」という点を最後まで悩みました。甲子園ファンや野球好きの方は皆さん、「『必殺仕事人』のトランペットソロが球場の流れを変える」ということは知っています。でも、それを知らない女子高生もたくさん観にくる映画です。

───そのどちらも納得できるように、と。

梅津 トランペットソロがどうなったか、映画を観て楽しんでいただければと思います。

     *   *   *

今年の夏の甲子園では、準優勝した北海(南北海道)のブラスバンドが道路渋滞で試合開始時刻に間に合わず、野球部の控え部員たちがアカペラで応援したことがニュースになった。

また、東邦(愛知)が2回戦で7点差をひっくり返した逆転劇。あのミラクルを後押ししたのはブラバンと応援団が甲子園を味方につけたから、と言われた。他にも、ベスト8に残った聖光学院(福島)はブラスバンド部員が3人しかいないため、校内の楽器経験者9人も助っ人として演奏したという。今年の甲子園ほど、応援と吹奏楽が注目を集めた大会はなかったのではないだろうか。

高校野球の最新トレンドを改めて知る上でも、映画「青空エール」はぜひとも観ておくべき映画、といえるはずだ。

映画「青空エール」 TOHOシネマズほか全国で公開中。

◆梅津有希子(うめつ・ゆきこ) 北海道出身。編集者・ライター。『青空エール』監修者。高校野球ブラバン応援研究家。札幌白石高校吹奏楽部時代に、全日本吹奏楽コンクールの全国大会にて3年連続金賞を受賞。近著に『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』。


(オグマナオト)