緊急スペシャル
英国のEU離脱で年後半マネーはこう動く!

離脱交渉を有利に進めたい英国と
それを阻止したいEU

ギリシャの財政危機発覚を皮切りに欧州一帯を駆け巡っていったドミノ倒しは、ブレグジット(英国EU離脱)の現実化という意外な展開で新たな章へと突入した。官僚的な支配構造、移民・難民問題など、英国民はEUに関して不満を募らせていた。だが、結局は最も許容できなかったのは負担の重さだろう。
現在、EUには28カ国が加盟しているが、ギリシャをはじめとする弱小国を主要数カ国が支える構図となっている。2015年の国別拠出金の負担割合は最大がドイツで 21 ・7%、次いでフランスの 17 ・1%、イタリアの 12 ・2%、英国の11 %、スペインの8・2%という順になっている。
当然、英国が離脱すればほかの主要国の負担はいっそう重くなる。すでにそれらの国々でも不満は高まっており、英国とEUとの交渉の行方次第では、離脱の連鎖も起こりうる。
実際、英国の国民投票から間髪入れずに実施された6月 26 日のスペイン総選挙でも、反EUの左派政党「ポデモス」の躍進が予想されていた。英国がまさかの投票結果となって世界中に混乱が拡大したこともあってか、スペイン国民は冷静な判断を下し、ふたを開けてみれば与党の勝利となったことから、世界中が胸をなで下ろした。
とはいえ、フランスでは新聞社襲撃事件やパリのテロ事件を機に極右政党「国民戦線(FN)」が台頭しており、彼らも反EUを唱えている。来年には大統領選挙を控えているだけに、フランスにも引き続き離脱の火種はある。
残るイタリアも例外ではなく、EUに批判的な新興政党「五つ星運動」が支持を拡大中で、ローマ市長とトリノ市長に同党の候補が相次ぎ当選。今年10月に同国は憲法改正の是非を問う国民投票を予定しており、否決された場合は政界を引退するとレンツィ首相が公言している。
ほかの主要国への影響を警戒するうえでも、離脱をめぐる英国とEUの交渉から目が離せない。交渉期間は、英国が離脱をEUに通告してから2年間に及ぶが、SMBC日興証券株式調査部株式ストラテジストの圷正嗣(あくつ まさし)さんはこう推測する。「交渉は難航を極め、2年程度では終わらないと考えるのが自然。EUからの制度的独立に時間を要し、その間に英国経済に顕著な下押し圧力がかかった場合には、将来的に国民投票を再度行ない、今回の判断が正しかったのかを問う可能性も否定できない」
また、楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジストの窪田真之さんは指摘する。「交渉を開始してから2年たっても話し合いがまとまらず、交渉期間の延長が合意されない場合は、その時点で英国へのEU法適用が停止されます。これがハードランディング・ シナリオです。英国とEUの間で新たに包括的な自由貿易協定を結ぶことなく離脱が決定すると、英国・EU間の貿易にはすべて関税がかかるようになり、人の行き来も遮断されます。英国経済もEU経済も深刻なダメージを受けることになります」
これに対し、離脱のデメリットは英国よりもEU側のほうが大きいと考えているのが武者リサーチ代表の武者陵司さんだ。「英国はEUにとって米国に次ぐ輸出相手国で、貿易 面で巨額の赤字を持つ一方、日本や米国の企業、金融機関などの欧州拠点であり、対EU投資で所得を稼ぐという相互依存関係にある」
国際金融拠点、国際サービス産業拠点としての地位も、EUへの加盟以前から英国自らが確立していたものだと武者さんは訴える。「英国で金融業の免許を持っていればEU全域で営めるというシングルパスポート制度が失われれば一定の影響は避けられないが、相応の緩和措置もありうる。情報の集積、ネットワーク形成などを考えると、フランクフルトなどがロンドンに代替する国際金融拠点化するとは考えがたい」
交渉は一朝一夕には進まないことがまず確実であるし、話がまとまったとしても、英国とEUの両者に大なり小なりの悪影響が及ぶことは避けられそうにない。ただ、10月に辞任することを表明したキャメロン首相の後任と目されていたボリス・ジョンソン前ロンドン市長が英保守党党首選不出馬を表明したことは、一筋の光明となったのかもしれない。離脱の旗振り役だった彼が交渉の場に立つと、英国側の主張ばかりを押し通す恐れがあったからだ。「英国のEU離脱に関して考えられるもう1つは、話し合いによって双方が受ける経済的ダメージが最小となるような形を見つけるソフトランディング・シナリオです。6月24日(国民投票の翌日)はハードランディングへの恐怖から、世界の株式が急落しました。その後、ソフトランディングの可能性もあることがわかり、世界の金融市場はやや落ち着きを取り戻しています」(窪田さん)
ただし、「EU側にとっては、英国に対して安易な妥協をすることは、今後のEU離脱国を増やすことにもつながりかねない」(圷さん)のも確かだろう。英国保守党の党首選挙の結果やEUとの初協議など、今後も重要なイベントを目前にして金融市場に再び動揺が広がる恐れもある。
しかも、11月には米国の大統領選挙が控えている。その結果次第では、「英国に続いて米国までもが独路線に舵を切った」と世界を震撼させかねない。つまり、まだまだ今年の波乱はすべて完全に過ぎ去ったわけではないのだ。