タイトルからわかるとおり、『働きながら60歳で慶應義塾大学を卒業した私の生涯学習法』(大森静代著、合同フォレスト)の著者は48歳で慶應義塾大学に入学し、12年かけて卒業したという異例の経歴の持ち主。

本書ではその稀有な経験に基づき、誰にでもできる「生涯学習」の重要性を説いています。

でも、なぜ年齢を重ねてから大学に進学しようと思ったのでしょうか? そこには、さまざまな事情があったのでした。

■中学・高校在学中に大病を患った

1945年に東京で生まれた著者は、中学・高校在学中に大病を患ったため学校を長期欠席したのだそうです。一時期は、病院から高校へ通学していたこともあったのだとか。

しかしそのような状況では、勉強に遅れが出てしまっても無理はありません。事実、欠席によって勉強は大きく遅れてしまい、成績はガタ落ちしてしまったのだとか。

ところが通っていた高校の進学率は90パーセントだったため、劣等感に悩まされたといいます。とはいえどうすることもできなかったため、仕方なく大学進学を断念し、出光興産に就職することになります。

■48歳の時に慶應義塾大学に入学

そして、その後結婚したものの、12年で離婚。その後はシングルマザーとして女手ひとつで2人の子どもを育てたそうです。

子どもの手が離れたことを契機に大学進学を目指したのは、一度は諦めた進学の夢を叶えたかったから。

そこで48歳で慶應義塾大学に入学し、通信教育課程で学ぶことにしたのだといいます。

とはいっても、勉強と仕事、家事を並行して行うことはそうそう楽ではないはず。事実、何度も失業、再就職を繰り返すことに。

とはいえ折れることなく、キャリアアップのため職業訓練校に入学し、50歳で簿記や電卓の資格を取得したというのですから、そのバイタリティには驚かされるばかりです。

しかも、もちろんその間も大学は継続していたわけです。そのため、卒業率3%の難関を乗り越えて卒業したときには60歳になっていたわけです。

■何歳でも遅いということはない!

さて、さまざまな事情によって大学に進学できなかったという方、あるいは中退してしまったという方もいらっしゃるでしょうが、「できれば大学に行きたかった」という思いが残っている方には、ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。

なぜなら著者は本書のなかで、大学の通信教育課程の可能性について解説しているから。しかも自身がそれによって卒業資格を得ているだけに、強い説得力があるのです。

大学通信教育は、社会人でも仕事と両立しながら学べるところが最大の魅力。誰でも学べる生涯教育の場として、各大学で開かれているそうです。

在学生の年齢は、たとえば慶應義塾大学通信教育課程の場合、

〜29歳:19.2パーセント

30歳〜:26.3パーセント

40歳〜:26.0パーセント

50歳〜:15.7パーセント

60歳〜:12.8パーセント

だそうです(「データで見る通信教育部2014年度」慶應義塾大学通信教育課程より)。つまり、何歳になっても遅いということはないのです。

■通学課程と通信教育は同じレベル

ところで通信教育には、「通学課程とくらべればレベルが低いんだろう」というようなイメージがあるかもしれません。

しかし大学通信教育は、学校教育法に定められた大学。平成11年には、大学院で修士過程の通信教育がはじまり、平成15年には博士課程の通信教育もはじまったのだそうです。

そして、もっとも注目すべきポイントがあります。通信教育課程は通学課程と形態こそ異なるものの、授業も試験もレベルは同じだということ。教員も、通学過程の方があたるのだといいます。

また大学にもよりますが、一定の単位を修得したら、通学課程への編入試験を受けることも可能。

卒業できれば学位記が授与されますが、それも通学課程と同様のもの。卒業したら、履歴書に書くのは「○○大学△△学部卒業」。

成績証明書には「通信教育課程」の文字が入るものの、卒業証明書には入らないのだそうです。

つまり、一般的なイメージ以上に、通信教育課程には可能性があるわけです。

本書が教えてくれるのは、「やる気さえあれば年齢なんか関係ない」ということ。「それを成し遂げた」という前提のもとで書かれているため、強い説得力があるのです。

なお著者は現在、「生涯学習アドバイザー活き活きLifeアドバイザー」という肩書きのもと、ボランティアでの清掃をはじめとする多くの活動を通じ、人と人のコミュニケーションづくりに尽力しているのだとか。まだまだ、やるべきことはたくさんあるようです。

(文/作家、書評家・印南敦史)

 

【参考】

※大森静代(2016)『働きながら60歳で慶應義塾大学を卒業した私の生涯学習法』合同フォレスト