バスケットボール女子日本代表"アカツキファイブ"がリオ五輪で放った輝きは、数字には現れず、メダルという形にもならなかった。それでも、準々決勝の対アメリカ戦(64−110)のスコア以上の何かを歴史に刻んだことは間違いない。

 アカツキファイブの平均身長は、参加12チーム中最低。唯一の平均170センチ台のチームだった。

 すべてのポジションでミスマッチが発生し、特に2メートル台も珍しくないインサイドのミスマッチは、常時10センチ以上。一瞬でも気を抜けば大量失点は免れない。匙を投げてもおかしくはない体格差をはねのけることができたのは、司令塔でありキャプテンの吉田亜沙美の頭脳と技術、そして"100年にひとりの逸材"とも呼ばれる、走れて飛べる193cmの渡嘉敷来夢の存在が大きい。

 ただし、それだけが世界と伍すことができた理由ではない。アカツキファイブの強さの陰には"献身"があった。

 圧倒的な身長差のため、ペイントエリア内でオフェンスにポジションを取られることは、日本にとっては即失点を意味する。勝負はボールを持たれる前に決まる。スターターの間宮佑圭、控えで投入される眦朕心らインサイド陣の頑張りは、数字にこそ残らないものの、いぶし銀の輝きを放った。

 ワールドクラスのビッグマンとのポジション争いは、格闘技の要素すら孕(はら)む。自分よりも大きな選手相手に体をぶつけポジションを譲らず、幾度となく肘を顔面や胸に浴びようとゴール下を死守。ふたりの献身、まさに自己犠牲がなければ、そもそも試合は体(てい)をなさなかっただろう。オフェンスではさほど目立たなくとも、間違いなく間宮、眦弔、アカツキファイブの背骨だった。

 栗原三佳、本川紗奈生は2枚の翼だ。この両翼が、チームに躍動感を与えた。

 経験者ならわかるはず。懸命に守っての失点は、コートに視線を落としたくもなる。ふたりは、そんなコンマ数秒の時間すら惜しんで走り出した。失点、もしくはマイボールになった瞬間、既にコーナーを目掛けて全力で走り出している。PGの吉田からのパスが来ると信じて。もちろん、そのランの多くは徒労に終わる。しかし、その献身的なムダ走りのおかげで、相手チームは体力を削られ、さらにはマークマンのズレが生じ、日本のオフェンスが有利に展開できる足がかりとなる。アメリカ代表のエンジェル・マコートリーも、「コートの端から端まで日本の選手を追いかけるのは、本当に大変だった」と試合後に語っている。

 そして、やはりチームの2枚看板、吉田と渡嘉敷の存在なくしてアカツキファイブは語ることはできない。

 吉田は1試合のアシストが平均8.7本でランキングトップで、アシスト王に輝いた。渡嘉敷の平均17.0得点はランキング3位、平均6.3リバウンドは10位にランクインしている。

 各国のエースと遜色ない輝きを放ったふたりで行なうピック&ロールは、まさに教科書に載せたくなるほど基本に忠実かつ鮮やかだった。

 大会を通して、吉田は少しの隙間も見逃さず、針の穴を通すような正確なパスをチームメイトに配給し続けた。まさに彼女が、全身に血液を送り続けるチームの心臓だった。

 オフェンスが苦しい場面でボールを託されるのが渡嘉敷。渡嘉敷は、自身より10センチ以上高いマークマンを背負いながらも怯まず1on1を挑み続けた。例えシュートが外れても、「渡嘉敷が外したのなら」と納得の表情でチームメイトはディフェンスに戻る。渡嘉敷は、チームのエースであり、アカツキファイブのハートだった。

 実況する海外の解説者は、日本の得点が決まると、しきりに「ビューティフォー!」「マグニフェシェント!(お見事!)」を連呼。日本のオフェンスは、世界で最も美しかったと言っても過言ではないだろう。

 ただし、その美しさは、ガラス細工のような繊細さの上に成り立つ美しさだった。何かたったひとつでも歯車が狂えば、あっという間に日本のリズムは消えてしまう。アカツキファイブは、どんな強豪国と戦っても勝つ可能性を持ち、同時に、それと同じだけ大敗の危険性を持ったチームだった。

 それを、今大会の戦績が物語っている。予選ラウンド初戦のベラルーシ(世界ランク10位)戦、第2戦のブラジル(世界ランク7位)戦は、集中力が途切れることなく試合を展開し連勝。

 しかし、第3戦のトルコ(世界ランク10位)戦、日本は脆さを露呈する。中1日のトルコに対し、日本は連戦で疲労もあったはず。第1Q、日本は9点しか奪えず15点のリードを許す。その後はリズムを取り戻し互角の内容で試合を展開するも、最終スコアは62−76。最初に許したリードが致命傷となった。4つのQのうち、ひとつでもリズムが悪ければ、その手から白星はこぼれ落ちる。

 続く世界ランク2位のオーストラリア戦、日本は第4Q開始早々に、この試合最大となる16点のリードを奪う。だが、オーストラリアの203cm、エリザベス・キャンベージにボールを集められ猛追を受ける。最終的にキャンベージは37得点を挙げ、大逆転勝利の立役者となった。

 ただ日本が反省すべきは、キャンベージを抑えられなかったことではない。インサイドからの失点は、ある意味では想定内。痛かったのは、16点差がついた時点で、オフェンスの足が止まったことだろう。コート上の5人が有機的に動き続ける日本のオフェンスは、たったひとりでも足が止まると機能不全に陥る。タラレバに意味はないが、もしも勢いを継続させ、一気に20点差まで突き放せていたのなら、その後の展開は違ったはずだ。

 続く予選ラウンド最終戦となった世界ランク4位のフランス戦、日本は79−71で勝利。しかし、日本、フランス、トルコが3勝2敗で並んだため、得失点差の結果、Aグループ4位で日本は決勝トーナメントに進出することとなる。

 準々決勝の対戦相手は、1996年のアトランタ以来、五輪連覇を続けるアメリカ。日本戦まで、五輪で46連勝を続ける負けなしの女王だ。

 そんなアメリカ相手に、日本は追いかける形であるものの、10点差前後を死守しながら試合を進める。そして第3Q残り8分25秒、本川がレイアップを沈め、いよいよ6点差(50−56)と詰め寄る。しかし、それがアカツキファイブの放った最後の輝きだった。その後は、女王の圧倒的な強さを、ただ眺める展開に終始する。

 それでも、強面のアメリカ代表のヘッドコーチ、ジノ・アウリーマが初めて笑顔を見せたのは、第4Q残り7分40秒、59−89と30点差がついた時点だった。

 試合後、リオで4つ目の金メダルを狙うアメリカのレジェンド、ダイアナ・トーラシが、「日本は世界のトップ4や5のチームと比べても、ほとんど差はない」と語っていたことも記しておきたい。

 そして何より、試合終了のブザーが鳴った瞬間、吉田がこぼした涙は、本気でアメリカに勝ちに行った証だったはずだ。

 もちろん、この大会が、今後の日本女子バスケ発展の礎(いしずえ)となることを願う。ただ同時に、世界の強豪を次々と破り、絶対王者の背中に一瞬手をかけることができたのは、このチーム、このメンバーだったからこそ起こせた奇跡なのではないかとも思えてならない。

 吉田は「夢のようだった」と今大会を振り返り、こう続けた。

「このチームでバスケットをできたことが楽しかったです。1試合でも多く、このチームで試合をしたかった」

 ベスト8に終わった。しかし、持たざる者が強大な持てる者に、知恵と勇気と情熱をもって立ち向かい、世界を驚かせ続けた。"ファンタスティックファイブ"の胸にメダルはない。それでも、ゴールドでもシルバーでもブロンズでもないが、彼女たちの胸に燦々(さんさん)と輝くメダルが見えると言ったら、それは言い過ぎだろうか。

水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro