週に一度、心の癒し&夜食テロが同時にやってくるアニメ『甘々と稲妻』。妻を亡くした高校教師の公平(演:中村悠一)が、5歳の娘・つむぎ(演:遠藤璃菜)を育てつつ、教え子の女子高生・小鳥(演:早見沙織)と3人一緒においしいごはんをつくるお話だ。


深夜アニメなのに視聴率が4%に達したり(関西地区・第4話)、見逃し配信を行っているdアニメストアのランキングでもデイリー1位(7月27日、8月3日)とウィークリー1位(7月18日〜31日)を獲得したりと、7月スタートのアニメの中ではトップクラス、日常を描いたアニメとしては異例のヒットとなっているようだ。いまやゴールデンのドラマでも視聴率1ケタがおかしくない時代に4%ってすごい数字だよね。

先週放送の第7話「五平餅とだいぼうけん」は、つむぎが“はじめてのおつかい”に出かけるお話。ズバリ、神回です。

つむぎ大号泣! 甘稲版『はじめてのおつかい』


公平が高熱でダウン! こういうとき、親ひとり子ひとりは本当に困る。冷蔵庫はほとんど空っぽだし……。つむぎは高熱で弱っている父親を助けようと、小鳥の家に助けを求めに行こうとする。5歳の女の子がたったひとりで!

大好きな魔法少女アニメを見て気合を入れ、小さな階段(子どもがいる家庭にはたいていある)を使って玄関の鍵を開けて、外の世界へと飛び出すつむぎ。

道路の白線の上を歩きながら、「サメ♪ サメ♪ サメに気をつけろ〜」(白線の外にはサメがたくさんいるという設定らしい)とオリジナルソングを歌うつむぎが可愛らしすぎる。ちゃんと伴奏もついているのが素晴らしい。途中で立ちすくんでしまったときは、通りがかりのジャージ女子高生たちが助けてくれた。なんて優しい世界。

途中で大きな犬に顔を舐められたり、謎のダンジョン(ガード下のトンネル)をくぐり抜けたり、おばあちゃんに助けられて横断歩道を渡ったりと、まさに「だいぼうけん」。「あ〜、暑いな〜♪ 夏、夏っ♪」という2曲目の挿入歌も飛び出した。遠藤璃菜の歌声は脳がとろける。

しかし、優しい世界ばかりではない。急に飛び出してきた自転車の少年に「あっぶねーよ!」とキレられて、つむぎの心はゲリラ豪雨寸前。それでも泣かずにガマンできたのは偉い。ネットには「自転車野郎は死刑!」「お前に命はない」という声が飛び交い、少なく見積もっても彼はタイムライン上で100回は処刑されていた。

一方、熱から回復した公平は、家のどこにもつむぎがいないので顔面蒼白。ひとりで家から出て行ったのは、階段が置かれている玄関を見ればわかる。あわてて寝巻きのまま、外につむぎを探しに飛び出す。このときの公平の気持ちは、4歳の娘の父親でもある筆者は本当に一瞬で想像できる。生きた心地がしない。

必死の思いで探し回る公平をよそに、つむぎはなんとかいつも3人で料理を作っている小鳥の家(小料理屋「恵」)にたどりつく。入口が開かずにまた泣きそうになるが、つむぎに気づいた小鳥が2階から顔を出してくれてセーフ。もし小鳥が出かけていたら……と思うと、たまらない気持ちになる。

人気長寿番組『はじめてのおつかい』では、つむぎと同じぐらいの幼児が親から離れておつかいに出るのだが、あれは子どものまわりに撮影スタッフが大勢いるから安心して子どもを外に送り出すことができる。いや、それでも親は子どもが無事におつかいから帰ってくると安堵して泣き出してしまうことが多い。そして見ているおれも泣く。まさか自分が『はじめてのおつかい』で泣くようになるとは思わなかった。

今回のつむぎの「だいぼうけん」は『はじめてのおつかい』より圧倒的にハードモードだ。小鳥に対して「泣かなかったよ、えらい!?」と胸を張る気持ちもよくわかる。そして、親の心配はもっとわかる……。

薬や食べ物などを持って、つむぎは小鳥と一緒に家に向かう。商店街で娘を探し回っている公平を見つけて、「もう元気になったのー!」とうれしそうに駆け寄るが……。

「一人で勝手に出るなあああああ!」

公平、マジギレ。温和でここまで一度も怒ったことのない公平が大声でつむぎを怒鳴りつけた。わかる。気持ち超わかるよ、公平。「子どもに怒鳴っちゃいけない」って子育てマニュアル本には書いてあるけど、理屈じゃない。

一瞬ポカンとしたつむぎだが、これまた一度も見せたことない顔で大号泣。公平はすぐにつむぎを抱きしめようとするものの、つむぎは泣きながらものすごい抵抗を見せる。公平が帰ろうとして抱きかかえても、「いやぁぁぁ、かえらないぃぃ!」と泣き叫びながら、その手から逃れようと空中で暴れ回る。

「アクロバティックすぎるだろww」「ダイナミックすぎるww」「すごい暴れ方ww」というネットの声が相次いだが、つむぎの暴れ方はものすごくリアルだ。子どもって泣いているときは、本当にこうやって抵抗するし、親が抱きかかえても思いっきり体をそらして逃げ出そうとするのだ。つむぎの泣き声に胸を押し潰されつつ、「リアルな描写だなぁ」と感心していた。

小鳥が気をきかせて「恵」に向かう3人。冷静さを取り戻した公平はちゃんとつむぎに言い聞かせている。

「大きい声で怒鳴って、ごめん。でも、お父さん、つむぎがいなくなってすごく心配だったんだ。もうひとりで勝手にどこかに行かないって約束できるかな?」
「……ごめんなさい」
「うん」
「……具合悪かったでしょ? おとさん、具合悪かったでしょ?」
「……うん。ごめんな、心配かけて。大変だったね」
「うん」
「頑張ったね」
「うん」
「ありがとう」
「うん」

泣ける。でも、わかりあえてよかった。小鳥は美味しいものをつくって2人を仲直りさせようとしていたが、こんなときに限って土鍋のごはんを焦がしてしまう。

「とびきり美味しいのを……って。で、“おいしいね”って……思ってたんです……。思ってたのに……どうしよう……」

この小鳥の失敗は、つむぎの失敗をなぞっている。誰かのためによかれと思ってやったことが失敗して落ち込んでいるのだ。まだ小鳥はつむぎと同じ子どもの世界の住人。しかし、つむぎに「食べられない?」と聞かれると、はっとする。つむぎの前では立派なお姉さんでいなければいけない。当たり前だけど、高校生は大人と子どもの中間の存在である。それをさりげなく見せているシークエンスだ。

小鳥は焦げて固くなったごはんを五平餅にすることを思いつく。五平餅は小鳥にとって、幼い頃に親が離婚して離ればなれになった父親との思い出の味だった。父と娘をつないでいる味で、目の前の父と娘をつないだわけだ。

美味しい五平餅が出来上がり、みんなで食べて笑顔を取り戻す。翌朝、公平は土鍋でごはんを炊いて、つむぎを起こしに行くと、寝起きのつむぎは一言、「おとさん、元気になって、よかったね」。

このエピソードを見終わり、心があたたかなもので満たされた筆者は、急に娘の顔が見たくなって声をかけたものの、YouTubeに夢中な娘は返事ひとつ寄越しませんでした。娘よ……。

こうやって親子の絆はつくられる


今回のエピソードは、実はアニメオリジナルに近い。お祭りではぐれてしまったつむぎが公平に大声で叱られて大泣きし、小鳥が気を利かせて五平餅をつくる「お祭りと五平餅」(単行本2巻)と、熱で倒れた公平のためにつむぎが一人で小鳥の家に行く「ごまごま冷やし中華と大冒険」(単行本3巻)を合体させたものだ。

「お祭りと五平餅」では、つむぎは遊びに夢中で公平とはぐれてしまったのだが、その部分を公平を助けるために行動する「ごまごま冷やし中華と大冒険」のエピソードと入れ替えることで、親子のお互いを想う気持ちがより強く浮かび上がる構成になっている。子が親のことを心配し、親が子のことを心配する話に作り替えたわけだ。

前述のように、小鳥にとって親子の味である五平餅も有効に使うことができている。挿入歌などはアニメならではの演出だが、そのほかにも玄関のドアを開けるために階段を使うなど原作にない丁寧な描写も光る。脚本はシリーズ構成を務める広田光毅。

とはいえ、原作は原作でとても良くて、「お祭りと五平餅」で強く叱られたのに、「ごまごま冷やし中華と大冒険」ではそれをわかった上で、あえて一人で家を出るつむぎの強い気持ちが描かれている。未読の方はぜひ。

今回、公平はつむぎをたぶん初めてぐらい強く叱り、その後、自分でつむぎに優しく言い聞かせている。父母がいれば、父が叱り、母がフォローする(あるいはその逆)ということもできるのだが、妻がいない公平は一人ですべてをやらなければいけない。一方、子どものほうもたった一人の親に強く叱られればショックのはずだ。なにせ逃げ道がないのだから。だからこそ、より親のフォローが大事になる。

親として当たり前のことではあるが、そこから目を背けずに、公平はしっかりとつむぎと向き合った。こうやって親子はより深い絆を結ぶことになるのだろう。いやぁ、神回だからたくさん書いちゃったよ。

今夜放送の第8話は「明日もおいしいイカと里芋の煮物」。つむぎがママの思い出を話すらしい……。ハンカチを持って放送を待つ。
(大山くまお)