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愛媛県今治市にある松山刑務所の作業場で8月15日、男性受刑者1人の行方が一時分からなくなる出来事があった。男性はその後、寮の屋上で発見されたが、警察が出動したり、マスコミが報道ヘリを飛ばしたりと付近は騒然となった。

報道によると、この男性(23)は窃盗罪で服役中。別の受刑者が朝食時に男性の姿がないことに気付き、行方不明が発覚した。刑務所は、外部に逃走した可能性があるとして、今治署に通報。約2時間後、寮の屋上で男性が見つかった。

舞台となった松山刑務所大井造船作業場は、構外の開放施設で「塀のない刑務所」として知られている。男性がなぜ行方をくらませたか、理由は明らかになっていないが、発見場所の寮の屋上は「脱走」になるのだろうか。坂野真一弁護士に聞いた。

●「塀のない刑務所」の特性もあって、判断が難しい

服役中に刑務所から脱走すると「逃走罪」に問われます。男性は、窃盗罪で服役中とのことですから、逃走罪の主体である「裁判の執行により拘禁された既決の者」(刑法97条)に該当します。また、「逃走」とは「拘禁から離脱すること」を指し、朝食時に定められた場所から行方をくらませていたようですから、男性の行為は「逃走」行為に該当する可能性があります。

ただし、本件の舞台になった大井造船作業所は「塀のない」開放施設という特殊な環境です。どこまでの行為を「拘禁から離脱する行為」と評価して良いかは、施錠や管理状況など具体的な状況が分からないと、判断が困難です。

仮に、男性の行動が「逃走」行為に該当すると仮定した場合であっても、結局男性は敷地内で発見されたことから、未遂罪ではないかとの問題も生じます。逃走罪は、刑事施設外へ脱出したときや看守者の実力的支配を脱したときに既遂となります。施設の特性を考えると、どの段階で実力的支配を脱したと評価できるのか明確ではありません。

しかし、ずっと敷地内の寮の屋上にいたのであれば、刑事施設の居室から脱出したが、なお刑事施設内にいる場合には未遂とされた裁判例(広島高判S25.10.27)と同様、看守者の実力的支配を脱したとは評価しにくいため、未遂になるのではないかと思います。一方、敷地の外部に出て一旦姿をくらましたのであれば、後で反省して寮の屋上に戻ってきても、看守者の実力的支配から離脱したことは明らかなので、既遂となると思われます(東京高判S29.7.26参照)。

なお、男性が発見されたのが敷地内の寮の屋上ということから、逃走の意図があったのか否か、主観面はまったく分かりません。以上の検討は、男性に逃げ出す意思があって行動していたと仮定したうえでのものであることにご留意下さい。

もちろん、逃走罪に該当しない場合であっても、遵守事項を遵守していないか、刑事施設職員の指示に従っていないことは明らかだと思われますから、本件男性は、刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法律151条に規定された懲罰を受けるものと思われます。

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則(中央経済社)」。近時は火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.win-law.jp/