ミッツも福士加代子も炎上…負けた選手は「泣いて謝れ」という気持ち悪さ

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 8月22日(日本時間)に閉幕したリオ五輪。金12、銀8、銅21、計41個のメダル獲得は日本史上最多。4年後の東京大会に向けて、さらなる飛躍が期待されるところです。

 しかし多くのアスリートが順調にレベルアップする一方で、見る側の目はどうだったでしょうか。やはり、スポーツを楽しむ姿勢がまだまだ整っていないのではないかと思わせる出来事があったように感じるのです。ということで、実際に例を挙げて振り返ってみましょう。

◆福士加代子、レース後のコメントで炎上

 14日に行われた女子マラソンで14位だった福士加代子選手。そのゴール後のインタビューが話題となりました。

「金メダル獲れなかった〜! 暑かった〜! でもがんばった〜! 楽しいけど苦しい。泣きたい。がはは〜!」

 このコメントがネットで袋叩きにあったのです。「日本代表として品がない」とか、「惨敗したくせに“楽しい”なんてふざけてる」とか、「腹が立った」とか。

 こうした批判から読み取れるのは、“敗者ならそれらしく振る舞え”というおせっかいな道徳観なのですね。つまり、力及ばず、国民の期待に応えられなかったのだから、しおらしく申し訳なさそうにしていろと。

 たかがスポーツの勝った負けたについても、市中引き回しのような刑罰を望む中世的な心理が根強く残っていることをうかがわせる一件でした。

◆ミッツ・マングローブ、吉田沙保里の謝罪にしらけて炎上

 女子レスリング53キロ級に出場し、4連覇を目指した吉田沙保里選手。惜しくも銀メダルで、溢れる涙を抑えきれず謝罪する姿に、日本中が胸を打たれたのでした。

 そこに物申したのがミッツ・マングローブ。19日放送の『5時に夢中!』で、「一粒も(涙が)出なかった。かえってしらけちゃって」とコメント。吉田の涙に感動していた視聴者が一転、今度はミッツに向けて、「しらけたとは何だ!!」と怒りを爆発させたのです。

 その後、ミッツはブログで発言を謝罪したものの、再びSNSやネット掲示板で炎上。関連記事のヤフーニュースのコメント欄には1日で6000件以上のコメントが付き、「このカマ野郎は調子に乗りすぎてますね」とか「この辺がマツコとの差なんだろうな」と、まだまだ許してもらえない様子なのです。

 ミッツは、テレビでの発言「ちょっとふざけちゃったマラソン選手の方が、よっぽど泣けた」は、福士加代子選手を指していた、とブログで書いています。

 ミッツの考えを推し量るとすれば、あえてふざけてみせる福士選手のような態度からにじむペーソスが泣けるのであって、全身全霊で涙を流す姿を見せられると、かえって気持ちの上でバランスを取る自分がいる、ということだったのではないでしょうか。

 でも、そうした微妙な綾は理解されにくかったのかもしれません。

◆為末大、アスリート側から「選手の謝罪」に一言

 さて、こうした一連のヒステリーとも言える反応について、アスリートの立場から発言したのが為末大でした。『日本選手はなぜ謝るのか』(日刊スポーツ)というコラムで、次のように述べています。

<日本の選手のインタビューは似通っていると言われるが、私はその一端に、この謝罪要求というのがあるのではないかと思う。負けた原因を分析したら言い訳と批判され、純粋な感覚を表現すれば負けたのにヘラヘラしていると言われる。

選手にとっては競技をすることが一番大事だから、変なことで社会から反感を買いたくない。結局、一番問題が起きにくい謝罪一辺倒の受け答えになっていく。>

 つまり、知らず知らずのうちに、私たちはアスリートに対して表面だけの誠実さとか生真面目さを強要しているのではないか、ということなのです。

 いい成績ならば、とりあえず家族や周りに感謝しとけと。敗北したのなら、何をおいても、まず頭を下げろと。

 結果の良し悪しはさておき、この儀式をきちんとこなせるアスリートが、私たちの社会では高い好感度を得られるのですね。確かに、律儀に感謝の言葉を述べ、素直に頭を下げられる人間はさわやかに思われますが、果たして本当にそうなのでしょうか?

◆生真面さを求めるのは何より安直だ

 イギリスの作家、G.K.チェスタトンは、『正統とは何か』(訳:安西徹雄、春秋社)という著書の中で、こう記しています。

<生真面目ということは、実は、自分のことをことさら重大視するという、人間の陥りがちな悪癖に落ちこむことでしかない。というのも、それは何より容易なことだからである。>

 そう考えると、“金メダル宣言なんてしたっけ?”といった具合で豪快に笑い飛ばしてみせた14位の福士加代子や、吉田沙保里の涙に疑問を呈したミッツ・マングローブの真意が、少しだけ見えてこないでしょうか。

 史上最多のメダルを獲得した陰で、そんなことを考えさせられる大会でもありました。

<TEXT/石黒隆之>