厚切りジェイソンさん

写真拡大

芸人・厚切りジェイソンが日本語の勉強を始めたのは、就職した後のこと。さらに日本支社長をしながらお笑いの勉強をしてデビューしたといいます。今も芸人としてだけでなく、IT企業の副社長としても活躍中。勉強で人生を切り開いてきたというジェイソン氏に、社会人の勉強法(と、60kgものダイエット法)について聞きました。

PRESIDENT誌では、年収2000万円超の人と年収500万円台の人それぞれ500人に、「勉強」をテーマにアンケートを取りました。両者は何が違うのか。年収を上げるためにはどのように勉強すればいいのか? アンケートの結果について、17歳で飛び級でミシガン州立大学に入学し、日本語能力検定1級を取得するなど、勉強で人生を切り開いてきたジェイソン・デイビッド・ダニエルソン氏に解説をお願いします。ジェイソンさんは、IT企業TerraSky Inc.の副社長と、同社日本法人「株式会社テラスカイ」のグローバルアライアンス事業部長という重役をこなしながら、芸人“厚切りジェイソン”としても大活躍。社会人にとって真に役にたつ勉強の仕方について、ジェイソンさんに聞きました。

■給料は、自分の価値が相手にどれほど貢献できているかで決まる

【ジェイソン】どうもー! 厚切りジェイソンです。アメリカからやってきました。よろしくお願いします!

――よろしくお願いします。いきなりですが、「あなたは勉強していますか」と社会人1000人に聞いたところ、「はい」と答えたのは年収2000万円超の人の約7割、年収500万円台の人では約4割でした。社会人が自分の「本業」の仕事以外に勉強することの大切さについて、どうお考えでしょうか。

【ジェイソン】僕は「お笑い芸人とIT企業の役員のどちらが本業ですか」という質問が嫌だから、本業という言葉が嫌いなんだけど……。すごく単純な話だけど、給料というのは自分の価値が相手にどれほど貢献できているかで決まるから、勉強して自分の価値を高めないと、給料も増えない。それがすべてですよね。

――日本で IT企業の役員をされながら、お笑い芸人の養成学校に通い、卒業と同時にデビューされましたね。

【ジェイソン】そうです。でも僕はそれより前から、ずっと2つ以上のことをしてきました。アメリカで初めて就職して新入社員だった時にコンピューターサイエンスの修士号を取ったし、その後で日本語能力検定1級も取ったし。日本に来てからはMBAエッセンシャルズというコースでビジネスの勉強をしたし、仕事以外に、常に何かを並行して勉強してきましたね。

■自分の価値を高めるスキルの組み合わせを考える

――まさに、勉強で人生を切り開いてきたわけですね。仕事以外の勉強をしたのはなぜですか?

【ジェイソン】とにかく出世したかったんです。若いころの僕は、もっとお金欲しい、もっと名誉欲しい、もっと力欲しい、もっと権力が欲しい……それだけです(笑)。社長になることしか考えていなかった。そしてそのためには、自分の仕事のスキルだけを高めるよりも、仕事以外の勉強をした方が早い。そう考えたからです。

――その勉強の成果を、どう生かしてこられたのでしょうか。

【ジェイソン】最初の会社(GEヘルスケア)に入社して3年間ぐらいは職能が一番下の等級でした。仕事をしながら勉強して修士号を取ったら、等級がようやく1つ上がりました。でも僕は修士号によって自分の価値がすごく上がったことをわかっていたから、自分の価値をより高く評価してくれる会社を探して、転職して自分の給料をかなり上げましたね。そこで2年働いている間にまた自分で勉強して自分の価値を高め、自分の能力を全部使える会社を見つけて交渉して、転職しました。そして、日本支社長として日本に来た。こうやって数段跳びで給料を上げてきました。

――日本語能力検定もその一つだった?

【ジェイソン】周りと区別するためです。なかなかないスキルの組み合わせを持っていれば、必要としている会社は、すごいお金を出すからね。僕は社長を目指していたので、周りとどう区別できるのかを考えながら何を勉強したらいいかを考えていた。周りに僕と同じコンピューターサイエンスの修士号を持っている人はけっこういたけど、その修士号と日本語能力検定1級の両方を持っているのは僕だけ。日本進出を考えていたIT企業が、僕を高く評価したのは自然です。

■仕事しながら勉強するコツとは?

――2つのことを同時にやるコツはありますか。

【ジェイソン】「いろんな条件が揃ったら勉強する」という考えではダメですね。条件が揃わないことを理由に後回しにして、やらなくなるから。

――「定時に仕事が上がれて、食事の予定がなくて、家でご飯食べて、子どもが早く寝たら、寝る前に勉強する」みたいなことでは、確かにやらなくなりますね。

【ジェイソン】有効なのは無駄な時間が出ないように隙間時間に(勉強を)組み込むことです。たとえば仕事をやっていても、待ち時間や移動時間、動けない時間って絶対あるじゃないですか。それをどう使うのか。ゲームをやるのか、YouTubeを見ているのか、もしくは何か勉強しているのか。その違いは大きいですよ。その時何をするのかを決めておくことが結構大事なんですが、30分だったらこれをする、とか、5分だったらこれ、とか、どんな時にどんな勉強をすれば効率がいいのかいろいろ試したらいいと思います。

――「時間がない、時間がない」と言っている人のほうが時間を無駄にしているんでしょうね。

【ジェイソン】そうなんです。会社で働いていても、結構無駄って多いですよ。よくあるんですけど、「こういう資料を作ってくれる」と言われて、「これは、どこでどうやって使うんですか」と聞いたら、「いや、決まってないけど、まあ念のため」とかね。「嘘だろ! じゃあ、作らないよ」って断わらなきゃダメ。人生の貴重な時間を使って無駄なことをしないことですよ。

――それは日本とアメリカの風土の違いかもしれません。上司に無駄なことを指示されたときに断ることが許される風土が、アメリカにはあるのですか?

【ジェイソン】いや、その質問おかしいよ。超おかしいよ。言い方を変えると、日本の会社は上司が部下に無駄なことをさせているのをわかっているのに、それを断る人を怒るんですか? 日本人のそういう感覚は本当にわからない。無駄なことを断わるのは当たり前じゃないですか。なんで断れないんですか。Why Japanese people? 不思議でしょうがないですよ。目上の人が頼んだからといって、無駄をする方が正しいんじゃ、会社は破産するよ。そんなんだから台湾の企業に買収されるんだよ。やめろ。

■勉強のための勉強は、意味がない

――……失礼しました。勉強をする理由についての質問で、年収2000万円超の人は「ビジネス全般の知識・スキルを身につけるため」が多く、年収500万円台の人は「資格を取るため」が多いという傾向が出ました。これについてはいかがですか。

【ジェイソン】日本人はとにかく資格が好きですね。資格勉強はいいんだけど、資格を取ること自体が目的になってしまっている人が多くて、もったいない。TOEIC900点取って英語が喋れない人が、結構多いんですよ。なんかそれ、意味ないですよね。だって、TOEICの点数が高くても、英語がしゃべれない人、要る? 要らないですよ。何のために英語の勉強をしているの?

TOEICを否定するつもりはないですが、TOEICで高得点を取ることを目的にしていて、なんでTOEICの勉強をしているのか忘れてる人、いますよね。MBAも同じです。それをどう生かすのかが大事であって、勉強のための勉強は、やめなきゃいけないですよ。

■目標は、具体的な数値で立てないほうがいい

――勉強の計画についてお聞きします。「勉強のスケジュールはどこまで決めていますか?」という質問では、「決めていない」が、年収2000万円超でも5割を超え、500万円台よりも上回りました。編集部としては少し意外でした。

【ジェイソン】「1年後にTOEIC何点」とか、「半年で10キロ痩せる」といった、そういう具体的な数字の目標はダメだと思います。

――えっ、なぜですか?

【ジェイソン】計画通りにいかないときに挫折するから。それよりも、「毎日10分勉強する」とか、毎日の行動に基づいた目標を設定した方が、管理がしやすいので絶対いいですね。

■勉強と同じ方法で60kgのダイエットに成功

――そういえばジェイソンさんは、60kgぐらいダイエットされたそうですね。

【ジェイソン】そうです。でも僕は目標体重を設定して、「いつまでに60kg痩せます」といったことはしなくて、毎日、運動の量と食事の量をコントロールしていました。具体的には、毎日食事で摂取するカロリーよりも1000kcal多く消費する。2000kcalの食事をしたら、基礎代謝量も含めて3000kcalを消費する運動をする。毎日それをすると、1kgの体脂肪が約7700kcalなので、計算上では1週間で1kg近く痩せる計算になるわけです。

でもそれはあくまで目安で、実際はその計算通りにいかない。水分の量でも体重は変わるし、体の状態によってしばらく減らない時期もある。そのときに、目標を設定していると、そこでがっかりして辞めてしまうよね。でも僕の場合は、体重の計画を立てないし、気にしない。ただ1000kcalの差だけを毎日見ているわけです。それを半年も続ければ、結果として誰だって痩せますよ。結果は自然に伴うんです。

――ダイエットも勉強も同じだと。

【ジェイソン】外国語の勉強も、ウェイトトレーニングも、プレゼン力をつけるトレーニングも、貯金も、全部同じですよ。一生懸命計画を立ててしまうと、その通りに進まないで挫折する人がとても多い。だったら計画をする意味がない。

それよりも、毎日の積み重ねは裏切らないですよ。数学なんです。Exponential growth(指数関数定期成長)というものがあるのですが、人が勉強して1日に0.1%成長すると仮定すると、一日一日を見たら、ほぼわからないぐらいの差ですが、途中から二次曲線的に成長し、1年後には40%成長するのです。毎日怠けて0.1%ずつ落ちていく人とでは、80%の差が開いてしまうわけです。

――なるほど、「継続は力なり」ですね。でも「面倒だから今日はいいや」と、休んでしまいたくならないですか。

【ジェイソン】だから、習慣化することが大事なんです。「面倒だから今日はいいや」って歯を磨かない日はありますか?

――いえ、毎日磨きます。

【ジェイソン】習慣化できれば、歯磨きも勉強も同じ。1日逃したらちょっと気持ち悪くなるぐらいまで、習慣化する。朝起きたら必ずやるとか、通勤の電車の中とか、僕だったら楽屋で待ってる間とか、寝る前とか、決めたらとにかくやる。その代わり短くていいですから。10分で済むんだったら「まあしょうがない、やるか」ってなるでしょう。それで毎日欠かさず何年も続けられたら、多少具合が悪くても、出張先でも、何の面倒もなくやれるようになりますよ。

■IT企業の日本支社長をしながらお笑いの勉強をした

――なるほど。ところで、とにかく社長になりたかったジェイソンさんが、今、お笑い芸人をやっているのはどうしてなんですか?

【ジェイソン】若いころ、お金が欲しいとか、立場が欲しいとか、力が欲しいとか、そういった漠然とした思いがあって、勉強して、転職して、日本支社長になった。日本のビジネスもうまくいって、欲しかったものが実際に手に入ってきたら、「ああ、こんなものなのか……」と思ったんです。社長にそれほど魅力を感じなくなったんですね。お金や名誉は想像していたほど、いいものではなかったんです。

だったら、人生をもっと幸せにしてくれるような、本当にやりたいことをやりたい。お金や名誉のために生きていては、人生が台無しだ。よし、お笑いをやろう!と決めたんですよ。

――ジェイソンさんはIT企業の日本支社長の隙間時間に、お笑いの勉強をしたのですか。

【ジェイソン】そうです。何か新しいことをやりたい、習いたい時に、日本人は「今までの人生をすべて捨てないといけない」と勘違いしている人が多いんですよ。「芸人になりたい=会社を辞めないといけない」と考えてしまう。でも僕はそれ、ないじゃん。勉強なんて、いつでもできるんです。夜、飲みに行くのではなくてこれをやるとか、勉強会に参加するとか、本を読むとか、実際に書いてみるとか、何でもいいけど、時間はあるよ。その時間をどう使えるかがすべて。今までの人生を全部捨てなくても、何だって始められるんですよ。

(嶺 竜一=構成、安井信介=撮影)