新聞界は戦々恐々

写真拡大

 新聞界が大揺れだ。かねて指摘される新聞社の「押し紙」問題が再燃し、重大な局面を迎えているのだ。

 日本記者クラブで行われた杉本和行・公正取引委員会委員長の講演会(今年2月)でのこと。質疑応答の最後に手を挙げたのは、朝日新聞のO記者だった。O記者は「(朝日では)25%から30%くらいが押し紙になっている。どこの販売店主も何とかしてほしいのだけれど、新聞社がやってくれない。(中略)押し紙の問題については委員長、どのようにお考えになっていますか?」と質問した。

「押し紙」とは、新聞社が発行部数を水増しするため、販売店に注文以上の部数を押しつけたり、注文させたりする行為のこと。独占禁止法で禁じられているうえ、部数水増しは広告主に対する詐欺行為にあたるとして問題視されてきた。記者が自社の不正を暴露するなど、前代未聞だ。O記者の質問に杉本委員長は、「実態がはっきりすれば、必要な措置をとる」と返答した。

 O記者の“公開内部告発”からひと月半後の3月末。公取委は朝日新聞に、販売店との取引に関して口頭注意を行ったという。元全国紙記者で『小説 新聞社販売局』(講談社刊)の著者・幸田泉氏が解説する。

「公取委が新聞業界のタブーである『押し紙』問題に切り込んだことで、新聞社は販売政策の根本的な見直しを迫られるはず。朝日以外の全国の新聞社にとっても重大な出来事と言えます」

 O記者の言う通りなら、朝日の公称660万部のうち、200万部が実際には配られていないことになる。公取委は本誌取材に「注意をしたのは事実だが、その内容については個別の案件には答えられない」と回答した。

 一方の朝日新聞は、本誌の取材に対し、押し紙の存在を否定したうえで、販売店からの注文部数を減らしたいとの申し出に対応した同社社員の言動が「営業活動としてはやや行き過ぎた」ことを公取委から指摘され注意を受けたことを認めた。

「今回指摘のケースは押し紙にあたらないと考えておりますが、注意については真摯に受け止めております」(同社広報部)

 近年はネットニュースの台頭などにより新聞の購読契約数が漸減。「押し紙」に苦しむ販売店からのSOSは裁判所や公取委への告発という形で発信されてきた。

「中でも朝日新聞は、ここ10年の部数凋落が激しく、『慰安婦誤報』問題など一昨年に相次いだ不祥事が追い打ちをかけた。販売所の苦境が臨界点に達したために、公取委も販売店の声を無視できなくなったのでしょう。O記者の行動は、新聞社の歪んだ販売方針に対する強い問題意識からであるのは間違いない」(幸田氏)

 O記者の発言内容についてあらためて朝日新聞にコメントを求めると、「ご指摘の記者が発言したとされる内容は、弊社の見解とはまったく異なります」との回答があった。幸田氏はいう。

「朝日が販売店への姿勢を改めないのであれば、さらなる指導、処分などが下る可能性もあります。またこの問題は朝日だけでなく、ほぼすべての全国紙、地方紙が抱える問題です」

 朝日記者の“告発”に端を発する公取委の動きに、新聞界全体が戦々恐々としている。

※SAPIO2016年9月号