世界が浮かび上がる!“塩水”で描かれた海洋生物が幻想的

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意外な素材で描かれた海洋生物が幻想的で美しいと話題を呼んでいる。

日本料理の中にヒントが

アーティストのヒラシマ マイさんが制作する儚く幻想的な作品は、驚いたことにリサイクルした塩を水に溶かして描いているという。

今回は彼女に、塩水アート作品を制作し始めたキッカケや制作過程に気をつけていることなどに関して伺った。

――“塩水アート”を制作し始めたキッカケは?

仕事で洗い流して捨ててしまう塩を見ていて、いつも「もったいないなぁ」と思っていて、食用にはできないけれど「これで何かはできるな」と思ったのがキッカケです。

できるだけ砂や貝殻の破片など除くように塩を貯め始め、水を含んでモタっとしている塩を触っていて「これは造形物だな!」と…。その塩でつくった塩水や結晶を少しずつ焼き固めながら、小さい珊瑚を造形したのが塩水アートの始まりでした。

Hirashima Mai

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実は、普段から見ていた日本料理の“サザエの貝殻などを固定するときに、卵白と塩を混ぜて固めて土台を作る方法”の中にヒントがありました。

「造形は割と普通にできそう」だと思ったのですが、そもそも湿気った塩が強固な塊になることがあるし…。

卵白使うとはいえ塩釜焼きなども「火の力であんなにガチガチになるじゃない」というふうに考えたことが造形に繋がりました。

見たことがないものが見たい

――作品のインスピレーションはどこからやってきましたか?

魚の塩焼きをする際に“化粧塩”といってヒレなどに塩をつけて焼きます。

その焼き上がった塩が、サザエやアワビの貝殻に付着している珊瑚の塊とよく似ているなと思ったのが、珊瑚をモチーフにした理由のひとつでもあります。

Hirashima Mai

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(以前の作風から)現在の平面や半立体作品に移行したのは、この制作過程で飛び散った塩水が乾燥して結晶のリングができているのを見たためで、キラキラと美しくて「平面もイケるぞ」と(笑)。

もともと何かを“素材”として見るクセがついていたので、思いついたら様々なことをやっていました。

Hirashima Mai

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そして、私自身が今まで“あまり見たことないものが見たい”と思っていましたし、できるだけ“(ここにいる)私だからできることをやろう”と思えることをずっと探していました。

――黒い紙に描いている理由を教えてください。

基本的にずっと黒い紙を使用してきたのは、塩の“白”に対しての黒というだけではありません。“白と黒の世界”=“光と闇”や、“表裏一体”、そして“生と死”の概念のためです。

黒が死をイメージさせる色であり、日本では塩をお清めの塩として使っていたりしますが、塩も水も生命維持に必要不可欠なもの。

そして、モノクロの写真作品を作るときのように「黒い世界の中に光を探し出す作業は、“色”ではなく意味やその先を感じさせるような作品を」という想いからですね。

あぶり出しを基本に

――どのような作業工程を経て制作されていますか?

まず塩水を用意し、黒い紙(ボード)に、その塩水をつけた筆で描きます。

コンロの火の熱であぶったあと、水分が蒸発して塩の結晶が残りカタチが浮かび上がる、というのをひたすら繰り返していくのが基本です。要するに“あぶり出し”ですかね。

Hirashima Mai

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ちなみに私は塩の結晶を育てているのですが、もったいないと思って再利用した塩を再結晶化させたものとその工程で出た塩、そして今は粗塩なども必要に応じて使っています。

テーマやご依頼等なければ「○○の塩じゃなきゃ駄目!」というのは特にありません。そもそもはもったいないアートですので…。

以前はずっと下書きはせずに描いていましたが、大きい作品を制作する機会に(作品の)流れを意識した構図にするために、しっかり考えてラフスケッチをするようになりました。

その後、モチーフのフォルムが重要になる作品を描くことにしたので、そこからは竹串でうっすらと下書きをし始めました。

(下書きが作品に)後々、影響が出ないだろう部分は、塩水の量はあまり気にせず“基本はうっすら”と下書きをします。非常に見づらくはありますが、(竹串のうっすらとした跡の)輝きを頼りに制作します(笑)。

次に乾かしていく方法ですが、自然乾燥にしている部分もありますが、コントロールできる範囲で“表現したい濃度”や“イメージ”によって塩の量や描く回数を変えてみたり、火の強さや距離などを調節したり…。今までの経験を踏まえながら様々ですね。

珊瑚ように見える結晶やかなり強く盛っている箇所などは、塩水と結晶を紙の上で煮立たせるというのを注ぎ足しを繰り返して…。

横着をしてしまうと“(塩水を)盛る”ほどに一気に取れやすくなると思うので、時間はかかりますが染み込ませてしっかり煮詰めて焼いておきます。

Hirashima Mai

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この辺りは、以前立体の塩珊瑚を作っていたときと似たような感覚ですね。

展示に向けて逆算して

――制作中に気をつけていることや難しい部分は?

接着剤やコーティング材などを使用せず自然のままなので水やお湯が付いたら融けるし、場所によっては触ったり落としたりすると塩が取れてしまったりするので扱いが大変です。

とはいえ、作品を作るときは触っても影響がない部分を作ったりと、無意識に持てる部分を残してあります。

Hirashima Mai

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また火を扱うので火傷にも注意したいところですが、素材が紙なので燃えてしまったり表に焦げが出てしまうことは避けたいので、手袋などはせず素手で持つようにしています。

塩を多く盛っている周辺の裏がうっすら焦げるのは仕方がないのですが、作品に当たる熱の調節確認のためと、集中してしまうと気づかずに焦げてしまうと困るので…。

一度、集中し過ぎて気がついたら手の甲が赤くなってて、気温も高い日だったので熱さに鈍感になってしまっていたのかなと思います。

他にも梅雨など湿度が高い時期の制作は避けています。

初期の作品ではそんなに塩を盛って描かない作品でしたので、割と保管が簡単であまり気にせずに描いていました。

しかし湿気や時間の経過でだんだんと薄くなったり消えたりするので、一応作品のピークを観ていただけるように、基本は展示に向けて逆算して制作しています。

実際、今年初めて展示のために梅雨に制作してみたのですが、展示まで間に合い(作品を)保つギリギリのスケジュール制作してみたところ、「(展示する前に)明日消えるかも」と不安やストレスに苛まれ本当に死にそうでした(笑)。

そして実は、作品の作成中より額装のときがいちばん緊張します。未だベストな方法を模索中ですが、撮影と併せて正直とても苦痛で…。

また、搬入は手持ちなので展示作業が終わるまで気が抜けません。

実作業以外でも自分と向き合い

――1つの作品を作り上げるのにどれくらいの時間がかかりますか?

最近の出品作品で最短だったのは、準備やイメージトレーニングを先にしておいた場合で、仕事が終わってからの夜中から朝まで夜通し作業で一晩程度でしょうか。

どういう作品を描くかやサイズなどにもよりますね。ただ、塩をがっつり盛るタイプの珊瑚等があると時間がかかってきます。煮詰めながら気付いたら珊瑚ひとつに2時間以上ということも…。

Hirashima Mai

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今のところ塩水アートの中ではいちばん大きい作品“Dolphin Story10”が最長で、約1ヶ月かかってなんとか仕上げました。

こちらは国立新美術館の展示に出品する作品だったのですが、ピークを展示に持って行くために仕事の忙しい時期ではありましたがギリギリで…。

Hirashima Mai

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さらに“黒い画面の中の世界”と“自分と向き合う時間”は実作業以外でもかなり長く、この作品のサイズ感とテーマがテーマなだけあって、心身共にボロボロになり本当につらかったです。

しかし、無事に完成し賞をいただけたことは、周りの理解や支えがあってこそでしたね。

世界の内側と宇宙が繋がって

――海洋生物や宇宙など神秘的なモチーフを選ばれている理由は?

そもそもは小さい頃からイルカが好きで…。小学生の図画工作の頃から、ずっとイルカを主なモチーフとしてきていました。

昔からの願いが「自由に空を飛びたい、泳ぎたい」だったことと「(海洋生物や宇宙などには)ロマンがあるから」というのが主な理由だと思います。

そして、いつの間にかイルカに自分自身を投影させることで、海と宇宙の無重力感のある世界に自分の願いを連れて行ってもらっているのかなぁと…。

Hirashima Mai

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また、自然や海(深海)や宇宙にはまだ知られていないし、わからないことがとても多いですから、この未知の世界に畏敬の念と強い魅力を感じています。

(モチーフとして海を選んでいるのは)“母なる海”というところが大きいです。生まれた場所に還っていくみたいな…。命を終えたものが深海を沈んでいき、マリンスノーとして海底に降り注ぎながらまた次の命の糧となる。

つまり、大切にしているひとつのテーマは“世界に還る”というもので、世界の内側と宇宙が繋がっているというイメージで自分は描いています。

以前、耐え難いことが起こり、それから水の中にいるかのような息苦しさを日常的に感じるようになってしまい、自分自身の死をとても強く意識したことがありました。

そんなとき、死後の世界が「(呼吸や重力とあらゆるものにとって)自由な世界があればいいなぁ」という希望みたいなものが、魚が泳ぐ海宇宙に表れているんじゃないかなと…。

Hirashima Mai

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例えば、もし魚群が消えてしまったとしても、目に見えない世界で還った魚が(脳内でのみで)泳ぎ続けるというような体験や、瓶の中に閉じ込めた旅先の空気を手の中で眺めているときのような…。

そういう心の豊かな体験のキッカケにこの作品がなってくれるときが来たら、これ以上のことはないかなと思っています。

それから、海からきた塩を素材にしたもので海のものを表現するという、モチーフと素材の関係性に強く意味があるものを作りたいという想いもありました。

――作品は購入することはできますか?

作品は展示した際に販売することがあり、塩水アート作品に関してはサイズなどにもよりますが価格は4、5万円からとなります。

オーダーなどは知り合いのみ受けることがありました。しかし状況により難しい場合などお断りさせていただくこともありますが、やってみたいという気持ちはあります。

しかし、一般的な絵画作品との性質の違いを理解していただける方でないと販売することができません。今のところ、郵送でも作品を傷つけてしまう心配があるので、手渡しという形が主になってしまいます。

というのも前述しましたが、この作品はコーティングなどをしていないため、湿気や時間の経過で薄くなったり消えたり、画面上で再結晶化したりすることもある“変化がある作品”です。

ここに面白さや諸行無常を感じるのですが、よく「消えちゃうのもったいないね、消えないようにできないかな」と言っていただきます。

私はよく「この作品は生物なので」と説明しています。作品が年月をかけてどうなっていくのかは環境や扱いに大きく左右されますし、私自身未だ実験の最中なのでまだわかりません。

Hirashima Mai

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その変化を楽しんだり悲しんだりと、そういう気持ちも含めて“塩水アート”かなと…。盆栽より手はかからず、いけばなよりも長く付き合える、生活の中に寄り添い佇むアート。そんなものもあってよいのではと思っています。

こういった性質をご理解いただいた上で、作品をお迎えいただけるという方がいらっしゃいましたらお問い合わせください。

――今後の活動に関して教えてください。

塩水アート作品での個展はまだ未定なのですが、ずっとやりたいと思っています。

ただ性質上新作を大量に作りためておくことが難しいので、その際は過去の既に消えかかっている作品も含めて“あのときの生で観れなかったこと”を後悔させる展示という異例なこともできたら面白いかなぁなどと考えております。

仕事をしながらの制作活動で、あまり頻繁には展示の参加ができません。

自分自身まだ試行錯誤中で、塩水アート作品だけに限らずやりたいアイデアもまだまだありますし、“自分の中のこだわり”とどう折り合いをつけていくか、またどこまでやっていいのかや貫くべきかと常に頭を悩ませているところではあります。

しかし、自己満足を超えて観ていただいた方を作品の中に、さらには内面世界へと深くに導いていけるるような作品を作り出すことが、いつかできますようにと…。制作が続けられるうちは楽しみ、苦しみ続けたいと思います。

限りある自然の輝きを

「塩による“限りある自然の輝き”を感じてもらえれば」と思っているヒラシマさん。

9月17日から25日、東京都上野の古民家ギャラリーGALLERY心(東京都上野)てグループ展『ボクらのうみ展〜海にまつわるエトセトラ〜』で海水アート作品の展示し、在廊も予定。

ヒラシマさんの作品は、画像と実物ではまるで違うので「ピーク時の作品の実物を観ていただける機会に、ぜひ生で観ていただけたらとても嬉しい」という。

最近は「静かなる躍動感みたいなもの」を意識しており、気になっているテーマは“静と動”だとそう。

そして、「情緒のあるものや趣き深いものが好きなので、そういったものを感じさせられれば」と思い制作しているとのこと。

彼女の作品が気になる方が、ぜひSNSをフォローしてみてはいかがだろうか?

Twitter:@my_11711
Instagram:@mai_hirashima