『日本の伝統行事 Japanese Traditional Events』(村上龍ほか/講談社)

写真拡大

 「この絵本は、わたしたちが美しい伝統的な行事を持っていることを確認するために作られた。この本で紹介した伝統的な行事は、わたしたちすべての日本人が、すでに広く平等に持っている無形の財産だ」――序文から村上龍さんの熱いが伝わるのが『日本の伝統行事 Japanese Traditional Events』(村上龍ほか/講談社)だ。日本の風習や伝統行事を1月の正月から12月の年越し・大晦日まで順に並べ、イラストと写真で紹介したものである。

 本書は、村上さんの生い立ちを交えながら、行事やしきたりについて解説しているのが特徴である。例えば、1月にある正月では「子どもの頃、祖父から、正月とは、単に新しい年を祝うものではなく、『年神・歳人』と呼ばれる神が各家に来訪するのだと教えられた」とある。ちなみに村上さんの子どもの頃とは、1950年代後半〜1960年代前半、日本が高度成長期を迎えた時期である。子どもの頃、長崎県の佐世保に住んでいた村上さんにとって、年末になると隣の佐賀県から餅つきチームがやってきて餅をつくことも、2月の節分では豆を炒り、大声で「鬼は外、福は内」と叫ぶことも日常だった。当時、少年だった村上さんの目にはっきり映っていた数々の伝統行事は、「歴史に支えられていて、(中略)洗練されていて美しいものばかり」だったにちがいない。

 実はこうした日本の伝統行事は、儀式的な行為を共有することで、地域共同体の一員であるという自覚と、他の人びととの一体感を得るようにデザインされていたという。それが、日本中のあちこちで似たような服を着て、似たようなものを食べる豊かな時代になると、いつしか町内で行われていた夏の盆踊りや秋祭りもなくなり、公園もさびれ、気がつけば町内から子どもの姿も消えていった。

 だからこそ、「日本の伝統的な行事とその価値を自ら確認し、内外にそれらを伝えていくことは、さまざまなコミュニケーションの手助けとなる、わたしはそう考えている」という締めくくりの言葉にもつながる。すべての解説に日本語と英語が併記されているのも、本書を通じてまず読者一人ひとりに美しく洗練された日本の伝統行事をもう一度見直してもらうだけでなく、海外にもこうした文化をわかりやすく伝えていきたいという強い思いがあるのだろう。

 さらに本書には、こうした行事に欠かせない音楽を耳でも体感できるよう、坂本龍一が監修した童謡と唱歌の入ったCDも付属している。収録されている「うれしいひなまつり」「故郷」などは馴染みのある曲だが、ピアノや和楽器とともに演奏されると、どこか懐かしい気分になるのが不思議だ。日本語盤に加え、英語盤やカラオケ盤もある。一人で堪能するのもよし、またおじいちゃんやおばあちゃんたちと一緒に歌うのも楽しそうだ。

 かつて、日本のどこにでもあった風景や伝統行事は、もはやこの国のどこにでもあるものではない。本書の帯にも「大切に思うこと、愛すること」と書かれてある。今こそ、この国が長く大切にしてきたものを、あらゆる年代の人たちと、そして世界中の人たちと再発見するために、まずは本書を通じて目と耳でじっくり味わいたい。

文=富田チヤコ