「MCIおよび認知症発症リスク」と「認知機能低下リスク」/※65〜80歳の女性7444人を対象におこなわれた海外の研究結果。睡眠時間7時間を1としたときのそれぞれのリスク(Chen JC et al.Alzheimers Dement 2016;12:21−33)

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 生活のリズムに大きく影響する睡眠。最近の研究で、認知症と睡眠が大きく関係していることがわかってきました。週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』に掲載された、研究や快眠法を紹介します。

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 睡眠が果たす役割は、脳やからだを休ませるだけでなく記憶の定着などにも効果があるといわれています。最近の研究では、認知症とも関係があるとわかってきました。カギを握るのは、アルツハイマー型認知症(以下、認知症)の原因と考えられている「アミロイドβ」というたんぱく質です。

 アミロイドβは、認知症を発症した多くの人の脳内から見つかっている物質で、脳神経細胞を死滅させる原因と考えられています。脳内に沈着しても本来は日々分解されて消えていくものですが、なんらかの原因で蓄積してしまいます。その蓄積は認知症が発症するだいぶ前、症状がまったくない健康な段階から始まっているといわれています。

 このアミロイドβが脳内に蓄積していくと、認知症が発症し進行していくと考えられます。そのため、アミロイドβを蓄積させないことが、認知症の発症を予防したり、進行を抑制したりするであろうと考えられ、現在、治療薬の開発を含め、さまざまな研究が進められているのです。日常生活の中で、アミロイドβを脳内から排出し、きれいに清掃する働きを担っているのが睡眠です。

 脳内のアミロイドβの濃度は、起きている(覚醒している)昼間に高く、眠っている夜間に低いことが示されています。覚醒時に次第にたまってきて、睡眠をとることによって排出していくのです。

 秋田大学医学部精神科学講座教授の清水徹男医師はこう話します。

「最近の研究で、睡眠中は覚醒時に比べて、髄液が自由に脳内で往来できる空間が広がることや、前頭葉にアミロイドβを注入したときに、その排出が速やかであることが見いだされています。これまで睡眠と認知症の関係では、認知症の周辺症状の一つとして、睡眠障害や不眠症があるととらえられてきましたが、それだけではなく、近年は適切な睡眠の質と量の確保がアミロイドβの蓄積を防ぐことがわかってきたため、認知症予防の観点からも睡眠が重要になってきたのです」

 海外の研究で、65〜80歳の女性を対象に、睡眠時間が認知機能低下リスクや、軽度認知障害(MCI)または認知症の発症リスクにどう関係しているかを調べた報告があります。睡眠時間が6時間以下のグループと、7時間のグループを比較したところ、認知機能テストが8点以上低下するリスクは6時間以下のグループが1.36倍と高く、同様にMCIまたは認知症を発症するリスクも1.36倍と高い結果となりました。短時間睡眠や不眠では、認知症の発症リスクが高まるといえます。

 こうした研究結果を見ると、たくさん睡眠をとれば、よりアミロイドβが排出され、認知症の発症を防ぐことができるのではと思う人もいるでしょう。しかし、この研究では、長時間睡眠もよくないことが示されています。8時間以上のグループは、それぞれのリスクが7時間のグループよりも高かったのです。

 なぜ長時間睡眠がよくないかについては、原因はわかっていませんが、清水医師は、「睡眠だけをよくしようと考えるのではなく、起きている時間の過ごし方と合わせた一日全体の生活習慣で考えるべきです」と話します。(取材・文/編集部杉村健)

※週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より