ママを追いつめる“母乳プレッシャー”、知って欲しい母乳の本当のメリット|光畑由佳さんインタビュー(2)

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「母乳はいいもの」と言われ、朝に晩に頑張り続けているママも多いのでは?
でも子どもへの影響は人生で考えれば微々たるもの、“母乳育児”はもっと楽なモノだそうですよ!

「母乳」にも危険がある! ミルク・完母育児のメリットデメリット

NPO法人「子連れスタイル推進協会」代表で「快適母乳生活研究所」研究所長も務める光畑由佳さんに聞きました!

母乳とミルクの違い

――「母乳はいいものだから頑張って出さなきゃ! 」と日々戦ってきたママのひとりとして、今日はお話を聞きにきました。どうしたら“快適母乳生活”が送れるようになるんでしょうか。

『まず大切なことは、母乳はたしかに「いいもの」です。

でも母乳だったかミルクだったかの違いなんて、子どもの成長をトータルで考えたら、本当に微々たるものじゃないかしら。

それからの食生活とかの方がずーっと大切。その後の育児で全然、取り返せるものなんですよ。』

――えぇッそうなんですか? てっきり「母乳はいいもの! だからこんな風に頑張ってみて! 」なんて話になると予想していたのですが。

『授乳服メーカーの「モーハウス」で社長なんてやっているので、いわゆる“母乳が絶対! ”と考えているように勘違いされることも多いのですが(笑)。

私自身が「母乳よりミルクがいい」とされた時代にミルクとの混合で育った人間ですし、我が家の一番上の子(長女)もミルクで育てました。それでも自分も子どもも、問題なく大人になっていますよ。』


――光畑さんご自身がミルク育児をされていたとは、正直意外でした。実をいえば、私は完母にしたかったのですが、おっぱいの出が良くなくて混合にせざるを得ず……子どもたちに「ごめんね」という気持ちが、どこかに引っ掛かっています。

『もちろん、母乳がミルクに勝るというデータはたくさんあります。「母乳の方が免疫がつく」とか「長くあげれば子どもが健康になる」とか、はたまた「将来がんになりづらい」とか。研究によるエビデンス(科学的根拠)もありますね。

でもその差で、子どもの一生が左右されるなんてことはまずありません。

だからお子さんに対して「完母じゃなくてごめんね」なんて思う必要は、これっぽっちもないんですよ。我が家についていえば、私が母親として長女に申し訳なさを感じたことも、また長女がそのことで劣等感を持っていることもまったくありません。

育児の“材料”として、データを知っておく分にはいいと思います。でも育児にはいつだって、それぞれの環境で出来ることと出来ないことがあるし、選択をしなければならないことばかりでしょ?

「母乳」に「ミルク」に「混合」、どのスタイルがどのスタイルよりも「劣る」なんてことは、ないんじゃないかなぁ。』

――それでも「子連れスタイル推進協会」をはじめとするさまざまな場面で、光畑さんは母乳育児を推奨していらっしゃいます。やはり「母乳はいいもの」だからではないのですか?

『違います(笑)。いえ、もちろんそれもあるにはありますが、一番大きなポイントは……』

ママが忘れがちな、母乳最大のメリット

『ズバリ、母乳は「楽」だから。ママが「楽」できるからオススメしているんですよ。』

――母乳育児は、ママが「楽」?

『そうです。母乳育児は、ママが「楽」なんです。

例えば我が家の場合、母乳で育てた次女と長男は、寝かしつけもおっぱいを飲ませながらでしたし、夜中におっぱいを欲しがってもパパッと授乳できました。

長男については5歳までおっぱいを飲んでいたのですが、外で遊んで転んで泣いて帰ってきても、おっぱいをくわえれば2秒で泣き止みましたから、ほんと“おっぱいサマサマ”でしたね(笑)。

ただ、長女はミルクを作るのも大変だったし、泣いたらあやすのも、寝かしつけるのも大仕事でした。毎日、ミルクの準備と片付けに授乳のたび10〜20分、泣くたびに抱っこやらで20〜30分、寝かしつけにも30〜40分かかって……いま振り返ってみても、苦労が多かったなぁと。』


――とりわけ夜中のミルク作りは、計量を間違えてしまいそうなくらいヘロヘロになります。

『だから逆にね、ミルク育児をしているママは「よく頑張っている」と思います。

モーハウスに授乳服を買いにいらっしゃるお客様にも、ミルクとの混合の方がいらっしゃいますが「よく頑張っていますね」と声を掛けます。だって、本当に大変なんですから。「母乳じゃなくてミルクなの? 」と責められるなんて話をよく聞きますが、むしろ「よく頑張っていますね」と、ねぎらわれるべきことだと思いますよ。

そんなワケでモーハウスでも、お客様に「母乳はいいもの」だからとは勧めていません。「母乳は楽」だから、母乳育児をしてみませんか、とお話しするようにしています。』

母乳トラブル・断乳卒乳との向き合い方

――母乳が、ミルクより準備もろもろ「楽」なのは分かる気もします。でもそれは母乳がよく出る人の話で、出が悪かったり、乳腺炎などのトラブルを考えると、一概に「楽」とも言えないのでは?

『母乳に限らず、育児の情報は「大変! 大変! 」という話ばかりですものね……。

母乳育児は本来、もっと「楽」にスタートできるものなのです。動物としての本能を呼び覚まして、なんて言うと変にスピリチュアルな方向に行ってしまって嫌なのですが、そんな自然のパワー云々の話ではなく(笑)。

“快適母乳生活”を送るための情報や、知識が純粋に不足しているんですね。』

――ネットで調べてみても「トラブルが起きたら大変よォ、痛いわよォ」という体験談ばかり目について、「自分の身体の声に耳を傾けて」なんて捉えどころのないアドバイスに戸惑ったりすることもあります。

『そういうママが、大半だと思います。

“快適母乳生活”を送るために、トラブルを回避する方法も、トラブルが起きてしまった時に対処する方法も、またトラブルの後にスムーズで楽ちんなおっぱいライフを続けてゆく方法もあるのです。ただ、そういった理解が広がっていないだけ。

残念ながら「大変、大変」という思い込みと、誤った情報があふれているんですね。

ひとつ、例を挙げましょうか。赤ちゃんが生後6〜7カ月を過ぎたあたりから「おっぱいの出が悪くなったから」と母乳をやめてしまうママがたくさんいます。

追い打ちをかけるように、復職前に保育園から「断乳した方が預けられるお子さんのためです」と言われたり、1歳児検診で「そろそろ飲ませないほうがいい」と言われたりして、「これまでトラブル続きだったし、出も悪くなっちゃったし、子どもにいいこともないんじゃ断乳しよう」となるワケですね。

でもね、おっぱいの出が悪くなったように感じるのは、赤ちゃんが必要な時に必要な量だけ母乳を作ることができる“いいおっぱい”になったから、だったりするのです。

「母乳の出がいい」イコール「おっぱいが張ること」だと思っていると「最近おっぱいが張らないから出が悪いんだわ、もう止め時なのね」と勘違いしてしまう。

せっかくトラブルを乗り越えて、ママにとっても子どもにとっても“いいおっぱい”が手に入ったのに、それを活用しないで終わってしまうのは、あまりにももったいない。

まさにこれから、ママもお子さんも、いい思いがいっぱいできるのに!

復職後も母乳育児を続けることのメリットはまた別の機会にお話ししますけれども、仕事復帰の前に断乳する必要もなく“快適母乳生活”を続けることだってできるんですよ。

でも、その前におっぱいをやめてしまうと「母乳育児は辛かった」と、そんなイメージだけが残ってしまう。本当に、もったいないなーと思いますね。』

――私も、1歳児検診でお医者さんや歯医者さんから「もうやめたら? 」と言われたひとりです。

『母子手帳から1歳での「断乳」についての記載が消えてずいぶん経ちますし、WHO(世界保健機関)も、2歳以降までの授乳を推奨しているんですけどね……。

実は、そもそもドクターですら「母乳育児」について習う機会がありません。たとえ産科であっても、母乳についての学科そのものがないそうです。助産師も母乳については習うのですが、生活との関わりについては教えてもらっていない。

これを「母子を見ないで“乳房”(ニュウボウ)しか見ていない」なんて揶揄する人もいますが、どのようにしたら快適に母乳ライフが送れるのか結局のところ、ドクターも助産師も学んでいないんですね。

とはいえ、これもある意味で仕方のないことで、昔の日本では周りにたくさん母乳育児のお手本がいて、おっぱいを出して授乳するのもOKでした。つまり医者や助産師が勉強して教えなければならないようなことではありませんでしたから。

それが結果として誤った情報やフォローばかりになってしまって、現代のママたちを苦しめている。ママは何にも、ちっとも悪くないのに。

誰も教えてくれないうえに間違った情報が氾濫していて、問題が起きてもきちんと助けてすらもらえないんだから、どうしようもないことなのに自分を責めちゃったりね。

母乳で育てたい! というママは「どんな風に母乳育児をスタートしたらいいのか」、「トラブルが起こったらどのように対処したらいいのか」、また「どうやったら気持ちよく続けてゆけるのか」、母乳育児を応援している助産師さんや医療機関の母乳外来などで、正確な情報を手に入れるようにしてみてください。

きっと“快適母乳生活”が送れるようになりますよ! 』

母乳育児、見落としがちなもう1つの大きなメリット

『そして母乳育児にはもうひとつ、大きなメリットがあります。

母乳育児は、災害に強いんです。もっといえば「防災」にもなり得るんですよ。』


――母乳育児が、災害に強くて「防災」に? それは備え置きの防災袋の中に、ミルクのストックが要らないからということでしょうか。

『それもありますが、それだけではありません。

即避難できて授乳できる、常に非常食を携帯していることになりますから、この安心感は非常時のママの心をも、少なからず「楽」にしてくれます。

また新潟県中越地震(2004年)から東日本大震災(2011年)、さらには先日の熊本地震での経験などから言えることですが、被災地支援の全体像を考えた時に、母乳育児の家庭が増えればその分、限りある粉ミルクや水といった物資を、必要な被災者に回すことができる。支援を必要とする被災者を“選択”して、貴重な支援物資を“集中”して届けられる、つまり「選択と集中」ですね。

自分の考えでミルクを選ぶママも、またミルクを使わざるを得ないママもいます。繰り返しになりますが、それはねぎらわれこそすれ、決して非難されることではありません。
そしてそんなママと赤ちゃんのために優先的に物資を届けるためには、常日頃から、母乳育児が可能なママについては無理なく母乳育児を希望して進められるよう、自治体や医療機関がバックアップしておくことが、平時の備えとして大切になってくると思うのです。』


――モーハウスでは、被災した母乳育児ママへ「授乳服」等を贈っていらっしゃるそうですね。

『避難所は、極限の“パブリック”(公共の場)です。

母乳であれば「即避難できて授乳できる」のはママにとって大きな安心材料ですが、では極限の“パブリック”である避難所の、どこで授乳をしたらいいのか。赤ちゃんが泣くたびに、外へ出て授乳をするのか。無事避難した後、こんな問題に直面することになります。

赤ちゃんが夜中におっぱいを欲しがって泣くので一晩中、避難所の外で抱っこしていたという話も聞きました。

前回の「授乳服・ケープどっち? 光畑由佳さんに聞いた“赤ちゃんを泣かせない”コツ【動画あり】」でもお話ししましたが、“赤ちゃんを泣かせないコツ”は、とにもかくにも「すぐ授乳」することなんですね。「すぐ授乳」できれば「泣いたらどうしよう」という心配も、それほどしなくて済む。

避難所でも「授乳服」というソリューションがあれば、服1枚で解決できるのです。

普段から授乳服を身に着けて、サッと逃げてサッと授乳、というのが一番だとは思いますが、母乳育児をしているご家庭では防災グッズの中に、ぜひ「授乳服」を加えてもらいたいですね。』


――たしかに「すぐ授乳」できれば、赤ちゃんが泣くこともぐっと少なくなりますし、授乳服を着ていれば胸が見えてしまう心配も、また周りの方に余計な気遣いをさせることもなくなります。追い詰められた状況で、心理的負担はできるだけ減らしたいですね。

『授乳はね、命にすぐには関わらないことだし、まして授乳中のママはマイノリティーでしょう? 被災地では、自ら声を上げにくいと思うんです。だからこそ、私たちの方から声を上げたい。

極限の“パブリック”の中で、如何に女性のプライバシーを守るのか。そして悲しいことですけれども、災害後というのは、性犯罪も増えるんですね。夜中に女性が外へ出たり動き回ったりというのは、リスクが高い。そういった危険から女性を守るためにも、積極的な支援を続けてゆきたいと思っています。』

母乳に悩むママたちへ

――最後に「母乳育児」を願うママたちへ、アドバイスをいただけますか。

『「思い込み」を捨てましょう!

って、前回と同じになってしまいますが(笑)その一言に尽きます。

母乳育児は本来、もっともっと「楽」なものだし、“合理的”なものともいえると思うんです。

泣いた子をあやすのにも、数秒で済むか数十分かかるか、この違いは大きいでしょ? いわば“生産性”が高いんですよ。

スピリチュアルな観点とは真逆になるかもしれませんが、ママがおっぱいによって「楽」な育児をすることで、時間にしても心の余裕にしても、得られるものってたくさんあるんじゃないかしら。

さらにね、授乳の度にオキシトシンというホルモンが出るのですが、このホルモンは母体に癒しを与えてくれる効果があります。

育児疲れを癒すために一時保育を予約してマッサージに、というのももちろんいいと思います。そういう時間も大事。でも、その手配で逆にやることが増えてグッタリしちゃうことってありませんか。それを考えたら、授乳のたびにヒーリングができるなんて、お得でしょ? (笑)

あぁ、母乳育児は大変なものじゃないんだ、トラブルがあっても、解決できるものなんだ。プラスして、防災にもなっちゃうんだ!

そんな風に思って、おっぱい生活をスタートして欲しい。私たちもそのために正確な情報発信と、医療関係者への啓発活動を続けてゆきます。

ひとりでも多くのママが“快適母乳生活”を送れることを、祈っています。』

■光畑 由佳(みつはた ゆか)氏 プロフィール

子連れスタイルで子育てと社会を結びつけ、多様な生き方や育て方、働き方を提案するNPO法人「子連れスタイル推進協会」代表理事&授乳服メーカー「モーハウス」代表。三児の母。内閣府「暮らしの質」向上委員会委員、経済産業省「中小企業経営審議会」臨時委員、茨城県ユニセフ協会評議員、茨城大学社会連携センター特命教授。趣味はお産・おっぱい・建築とのこと。