卓球の男子団体決勝を見ていて、前日に行なわれた女子バスケット準々決勝を思い返していた。日本がアメリカと対戦した試合は、開始からペースを握ったバスケット大国のアメリカが、第2Q途中までにじわりじわりと点差を広げていった。

 いよいよ10点差(36−46)に開いた頃から、アメリカのマークは急に甘くなる。日本は司令塔の吉田亜沙美がスピードを生かして切り込み、栗原三佳らの3ポイントなどが面白いように決まって、2点差に迫った。

 しかし、そこからがアメリカの本領発揮だった。攻守のリバウンドで日本を圧倒し、サイズとパワーの利を生かすバスケットに転じた。わずか1分あまりで点差を再び10点に広げ、終わってみれば110−64という、ぐうの音も出ない大敗だった。

 どっしり構えて、日本に懐深く攻めさせ、際どい勝負となれば本腰を入れる。アメリカの戦いぶりはまさに横綱相撲だった。

 一方、卓球の男子団体決勝もそれに近い展開だった。丹羽孝希が出場した第1試合のシングルスをストレートで落とした日本は、第2ゲームにエースの水谷隼を起用。相手は12連敗中で、一度も勝ったことがないキョ・キン。

 水谷は2ゲームを先取しながら、フルゲームに持ち込まれてしまったが、7−10から5連続ポイントで劇的な逆転勝利を飾った。

「最初の2ゲームを苦しみながらも取ることができて、最高のスタートが切れたんですが、第3、第4ゲーム目は相手が吹っ切れていることをすごく感じていました。第5ゲーム目は相手にかなり余裕を持たれてしまって、僕が逆転負けをするパターンになってしまった。でも、これまでと違ったのは(7−10となっても)、僕が最後まで諦めなかったことだと思う」

 キョ・キンは、いわゆる"BIG4"と呼ばれる中国人選手の強豪のひとりだ。

「"BIG4"と言われている4人に、僕は過去0勝40敗くらいしています。この10何年間、一度も勝ったことない。この五輪という最高の舞台の、しかも決勝戦で勝てたことは、メダル以上の価値があったのではないかと思います」

 続く第3試合はダブルス。水谷の勢いに乗せられた丹羽・吉村真晴ペアは第1ゲームを先取する。日本男子の倉嶋洋介監督は、このダブルスが勝敗のカギを握ると考えていた。水谷でなんとか2勝し、ダブルスで1勝。それしか勝算はないと踏んでいた。目論見通りに水谷が1勝し、ダブルスでも1ゲームを先取。理想の展開だった。

 日本の応援団から大番狂わせを期待する歓声が、会場に響き渡った。

 一方、中国人の応援団も、大会期間中、一番の声量で「加油(ジィアヨー/頑張れの意味)」コール。日本を相手に、まさかのリードを許す展開に、当たり前に金メダルを期待していた中国のファンは、苛立ちを隠せないでいた。

 2試合連続の大金星が期待されたが、丹羽・吉村ペアは、ギアを入れ替えたような中国ペアの猛攻をしのげず、ゲームカウント1−3で落としてしまう。中国人ペアのボールの回転量が目に見えて増え、力強いスマッシュに反応できなかった。

 そして第4試合も、吉村が今大会のシングルス金メダリストである馬龍に簡単にストレート負けを喫し、日本は銀メダルに終わった。

 試合終了の瞬間、馬龍は両手を広げ、「どんなもんだい」というような表情で日本選手をにらみつけた。派手なガッツポーズがなかったところに、彼も必死だったことがうかがえた。

 前日の女子バスケットの米国代表のように、卓球大国・中国の戦いぶりは余裕のある横綱相撲だったのだろうか。いや、違うだろう。シングルスを制した馬龍がいちばん苦しんだ相手は準決勝で戦った水谷であり、団体戦でもその水谷に1敗を喫してしまった。急速に日本が力を付けていることを中国は改めて思い知ったはずである。それゆえに、ダブルスからは目の色を変え、死にものぐるいでボールと一緒に気迫もテーブルにぶつけてきた。

 もはや日本は、金星を狙う幕内力士ではなく、横綱の背中を追う関脇・大関クラスの強国となったのではないだろうか。倉嶋監督は言う。

「中国から離れて団子状態だった勢力図が、頭ひとつ分だけ、日本は抜け出せたかもしれない。ただ、水谷のような選手があとひとり、ふたり出てこないと、4年後、東京五輪で中国に勝利することは難しいと思います」

 エースの水谷は、日本選手として初めてシングルスでメダル(銅)を獲得し、団体戦ではチームを牽引して銀メダルに導いた。シングルスからの活躍で水谷に対する注目度と人気が、日本で高まっていると聞く。

「それはすごくモチベーションになりましたね。すばらしいパフォーマンスをみせて、日本中を熱くさせようと......途中からはそのために頑張っていた。自分の結果よりもとにかく最高のパフォーマンスをして、卓球の魅力を伝えたかった」(水谷)

 最後は「東京で日本が中国を倒すのも夢じゃない」と、リオで得た手応えを口にした。

柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji