(写真=PJB sports)バトミントン日本代表ヘッドコーチを務めるパク・ジュボン

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バドミントン界で朴柱奉(パク・ジュボン)の名を知らない者はいない。現役時代はシングルス公式戦103連勝、国際大会の優勝67回という前人未到の記録を打ち立て、1992年バルセロナ五輪では金メダルを獲得するなど、韓国ではバドミントン界史上最高の選手として尊敬を集めている。

そんなパク・ジュボンは2004年11月からバドミントン日本代表のヘッドコーチを務めている。近年、日本バドミントンは着実に力をつけているが、その成長を語るとき、パク・ジュボンの存在も大きい。

韓国からやってきたバドミントンの英雄は、日本にどんな変化をもたらしたのか。韓国人のバドミントン日本代表ヘッドコーチは静かに語り始めた。

勝負を放棄してしまう日本選手のメンタルに驚いた

私が初めて日本に来たとき、日本代表はアテネ五輪に12人の選手が参加しましたが1人だけが1回戦を突破し、残り全員が初戦敗退でした。

当時外から見ていた私からすると、日本選手はバドミントンに必要な攻撃力や技術、パワーなどが世界的な選手と比べて劣っているようには思えませんでしたし、実際に試合をしても良い勝負をするはずだと思っていましたが、結果はいつも負けでした。

日本に来て選手たちの練習しながら感じたのは、選手たちにモチベーションがないということでした。

試合には出場しますが、必ず勝ちたいという欲が欠如していたというか、負けたとしても「仕方ない」とあまり気にしない部分に、正直驚きました。

簡単に勝負を放棄してしまう選手たちを見て、はたして自分にできるだろうかと否定的に考えていました。

安易なポイント稼ぎをやめて世界に挑んだ

そんなメンタル的な弱さを直すために何から始めたのか。

まずは選手たちに大きな目標よりも小さな目標を与え、ステップ・バイ・ステップで彼らを理解させながら、ポジティブな思考を持たせ、もう一度チャレンジさせることに最も神経を使いました。

私が知るかぎり、アテネ五輪前までの日本は常にレベルが低い試合に出てランキング・ポイントを稼ぎ、五輪チケットこそ手にしましたが、それではレベルは上がらないと思ったのです。

それで私は日本の現住所を選手たちに確実に示そうと考え、試みました。

例えば世界ランク10位なら10位くらいの実力は備えていなければならないと私は考えるのですが、国際大会に参加するときはできるだけ大きな大会に出場し、自分が世界トップクラスとどれほどレベルが違うのか、自ら感じることができるように、わざと大きな大会中心に出場させたんです。

軋轢を乗り越え代表合宿を実施した

選手本人たちが違いをハッキリと感じ、自分に何が必要でどれだけやらねばならないか、そんな部分を本人が知れば、どんな練習をすればおのずとわかってきますからね。

いきなりすぐにレベルが上がるわけではないですから、時間がかかるのは仕方がない。すぐに成績や結果を求めるのではなく、まずは厳しい練習のときからパフォーマンスを最大限に発揮し、少しずつ上がっていこうと目標設定しました。

ポイントとなったのは、合宿です。

私が日本に来る前までは、バドミントン日本代表の合宿はなかったと聞きます。それぞれが所属チームで練習し、そのまま国際大会に出場するシステムだったと。その取り組みを変えることもお願いしました。

ただ、いろいろと大変でした。

男女で異なった代表合宿での工夫を凝らした強化方法

日本では代表合宿があまりなかったので、それまでは所属チームで練習し、国際大会に出場するときは代表コーチも帯同しますが、所属チームのコーチもやってきて、彼らがベンチに座り、代表コーチはベンチにも入れなかったというんです。

そんななかで私が日本に来て、代表合宿やさまざまなスケジュール、プランを立てることに、所属チームの干渉というか要求もあり、軋轢も生まれました。

例えば代表チームでエントリーするのですが、所属チームからこの選手は男子シングルと混合ダブルス、この選手は女子シングル、さらには今回の試合には私たちは行かない、この試合には行くという感じで、所属チームから要請があったんですよ。

代表チームの人選を所属チームが決める。そんな日本のシステムに悩みもしましたが、私としては代表チームとしてみんなに協力してもらいたかった。その理解を得るのが難しかったですね。

もっとも、常に国際大会に参加する前に合宿を行い、厳しい練習をするシステムが機能するようになってから、2008年北京五輪の女子ダブルスで好成績が出るようになりました。

それを見たほかの選手たちも、「もしかしたら自分もできるんじゃないか」「もっと頑張ってみよう」「私も成績を出せるかも」と、可能性を感じはじめたようです。

代表合宿はやはりその国の最高レベルの選手たちが集まりますので、所属チームで練習するよりも高いレベルの選手を相手に練習できるので、たくさんのプラス要素があったと思います。

特に女子選手の場合、男子大学生たちを相手にさせたことで、男子選手のスピードに対する適応や、男子選手の強い攻撃に対してもキッチリと守れる守備力などが高まる成果があったと思います。

では、男子選手はどう強化したか。

女子の場合、男子相手のスパーリングで鍛えることが可能ですが、男子選手の場合は2対2で練習するより、3対2もしくは4対2という形で常に数的ハンディを背負う練習することで中国や韓国選手たちの早いスマッシュに対する対応力を身に付けさせました。

考えてみてください。4人の選手でコートが埋まっていると、どこへスマッシュを打てばいいか、よく判断できないものです。

パク・ジュボン式のコミュニケーション

どれほど自分がコースを見て、コントロールできるか。厳しい状況でプレーすることで、アイディアを得たり、早いスマッシュに慣れたりもするわけです。

指導者になったばかりの頃、“一流選手は一流監督にあらず”ということをよく耳にしました。それだけに余計にたくさん心配しましたし、神経も使いましたし、努力もたくさんしましたね。

私は引退してそのまま代表コーチになったのではなく、私自身がまだ指導者として自分に自信を持てなかったので大学で学生たちを教えながら、指導者としての経験を積んでいきました。

母校の韓国体育大学でほかの種目の先輩指導者とともに生活しながら、選手たちをコントロールする方法、練習方法など、たくさんのアドバイスを受けたことが、大きな助けになったと思います。

心の底からあふれるものをもっと日本選手に伝えたい

日本に来たばかりの頃、言葉の面で言えば、イギリスやマレーシアでも代表を率いた経験から英語ができたので、最初の頃は協会国際部の方が通訳してくれて選手たちとコミュニケーションしました。

ただ、通訳を介してコミュニケーションしていると私ももどかしくて…。

それでコート内に関しては私自身が直接、一緒にプレーすることで選手たちとコミュニケーションしようと努力しました。

言葉の面では今もパーフェクトではないですし、重要な部分に関しては単純な言葉だけではなく、心の底からあふれ出る何かを伝えねばならないと思うのですが、それができないときは私自身がもどかしてく、空回りしてしまうこともありますね(苦笑)。

心の底からあふれるものをもっともっと伝えたい。私にそれができれば、日本の選手は今よりも理解力は深まるだろうし、関係も深まり、彼らを今よりも早くレベルアップさせられるのではないかと思っていますし、今でもそう思っていますよ。

トレーニングは辛くて厳しく、反復的なものなので飽きたりもしますが、 結局、努力しなければ結果はついてこない。

選手たちからすれば楽しさを感じられないときもあるでしょうが、良い成績を出すためには反復的な練習がとても重要だと思います。

指導者としてはそこで選手たちのモチベーションを高め、反復的な練習であっても、メニューを少し変えながら選手たちに興味を感じさせたりすれば、結果が出るのではないかと思います。

急速に変化する世界の潮流に日本が適応すめために

例えば単純なサーキット・トレーニングにも工夫を加えます。

最初の頃はストップウォッチや笛を吹いてやっていたのですが、サーキット・トレーニングは苦しいもの。それでももう一回またがんばろうと、苦しく汗する選手たちに何かリフレッシュや変化を与えることはできないかと考えた末に、音楽を流すようにしました。ちょっとした変化や工夫が、選手たちの興味ややる気を引き出す役割をしているわけです。

バドミントンは卓球やテニスと違って、シャトルが土に落ちる前に拾わなければならないので、とてもスピードが求められるスポーツです。

私が現役の頃はスピードよりも作戦や戦略的な面が重視され、攻撃と守備を兼備するようなプレーが多く求められましたが、現在の世界の潮流はスピードとパワーが重視されています。

また、全体的に世界各国のプレースタイルが似てきていることも特徴です。プレースタイルが全体的にスピード重視になりました。作戦よりもスピードが勝敗を分けるようになったわけです。

それにラケットも以前に比べて、とても軽量化されました。(スピード化は)それも関係しているのではないでしょうか。

かつてはバドミントンも15点ゲームでしたが、今は21点。ラリーポイント制に変わり、全体的に試合時間が短くなりましたが、それは試合展開のスピードがとても速くなったことでもあり、体力的に厳しくなった部分もあります。

ラリーポイント制に変わったことで、ひとつのミスがそのままポイントにつながるので、ひとつひとつのプレーに対する集中力が非常に重要になりました。緊張感を維持させながら集中しなければならないので、体力的な消耗も激しくなりました。

そんなこともあって、現在のバドミントンはスピードと体力が最も重要で、技術的な部分、そしてメンタル的な部分も重要になってきています。

勝敗を分けるメンタルの鍛え方

試合の終盤は体力的にも厳しくなり、メンタル的な部分が勝敗を分けることになります。メンタルが強くないと、最後の最後で負けてしまうわけです。

では、そのメンタルをどう鍛えるか。

それは普段からの練習、トレーニングの過程で鍛えなければなりませんし、その練習過程を克服してこそ、肝心の試合でも強いメンタルを発揮できる。
(参考記事:「やる気が感じられない」「日本の攻撃は鋭かった!!」バトミントン日韓戦に対する韓国の率直な反応

例えばノックのように集中的なトレーニングでその能力を養い高めるのです。

選手たちは練習であれ、試合であれ、終盤になればなるほど体力が落ちますから、その中で最後の10分、20分をどれだけ頑張るか、その苦しいなかでプッシュしてトライするか、そんな部分を選手たちに常に要求します。

日本の選手を勝たせることが私のモチベーション

もちろん、選手もいろいろでメンタルが強い選手も弱い選手もいます。弱い人には彼ら自身の心を変え、モチベーションを高めることができるように理解させます。

その際には否定的な話よりも、ポジティブな話をすることで、選手たちに肯定的な変化を与えられると私は思っています。

私は選手たちの模範にならなければならず、まず先に私自身のメンタルが強くならなければ、選手たちもついてきてくれないと思ったので、常に率先して模範になることを心がけました。

結局、最後の最後には勝負欲が重要になってくるし、それはメンタル的な部分が大きいので練習の過程からメンタルの成長があってこそ、試合でも苦しい状況を克服できます。

選手時代もそうでしたが、私は今も勝負欲がとても強いんですよ。ですので、日本選手を連れて国際大会で勝たなければならないという思い、勝ちたいという気持ちが強い。

選手たちを勝たせること。そんな勝負欲が今でも私のモチベーションなのです。

※このインタビューは2013年5月に行ったものをベースにしています。

(文=慎 武宏)