YouTubeから生まれた、今夏最高の音楽(ただし非YouTuberによる)

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ブルックリンのソロユニット・The Rangeの生み出す音楽は、再生回数がせいぜい3ケタの「YouTubeパフォーマー」とのコラボレーションによって生み出された。

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The Rangeは、27歳のミュージシャン、ジェイムズ・ヒントンによるエレクトロポップのソロユニットだ。YouTubeから探し出したアカペラやスピーチのサンプルを組み合わせて、複雑な楽曲をつくり出している。アマチュアたちが心を込めて歌っているのをオンラインで見聞きしていると相当な時間が過ぎていくものだが、そうした歌声が、非常に高い評価を得たRangeのセカンドアルバム『Potential』には用いられている。

『Potential』が完成したのは今年の初めのことだが、その作成のためにヒントンは「YouTubeで35日間、200時間ほど」を過ごしたという。「YouTubeの視聴時間としては、ちょっとしたものだよね」と、彼は言う。

アルバム製作中、ヒントンは彼らパフォーマーの暮らしに思いを巡らせた。彼らは皆アマチュアで、ヴィデオの再生回数はせいぜい3ケタ程度だ。

「いわゆる『YouTubeのサクセスストーリー』では、YouTuberは多くのサポートを受けるのが普通です」とヒントンは言う。「(一方でヒントンの作品に関係しているアーティストたちは)皆、自分たちの空いている時間を使ってなんとかうまくやろうとしています。自分たちの生活がある一方で、自らの音楽への情熱も失っていません。ぼくは彼らのことを、そして何が彼らを動かしているのかを知りたいと思いました」

同名シングルとともにリリースされたドキュメンタリー『Superimpose』では、ダンスホールレゲエの歌手でジャマイカ・キングストンで看守の仕事をしているダミアン・“ナチュラリス”・ゴードン(彼の楽曲「1000 Blessings」はRangeによる「1804」に使用されている)や、ロンドンのティーンエイジャー、クラディ・ザック(5年前にYouTubeで発表したフリースタイルラップが『Copper Wire』で使用されている)、19歳のブルックリンの学生、カイ(アリアナ・グランデの『You’ll Never Know』のカヴァーが、アルバムのリードシングル「Florida」の中心要素として用いられている)といったアーティストたちを追いかけている。

彼らのYouTube動画は、不思議な親密さを感じさせる。画面上の彼らは自信たっぷりだが、まっすぐカメラに向かった映像からは意味ありげな微笑みや不安げな視線の動きが見て取れるので、視聴者は彼らとつながりを感じずにはいられなくなる。

「パフォーマーが喜びに満ちていると、ぼくはそれにのめり込んでしまう。それはきっと、ぼくも同じように感じているから」とヒントンは言う。

YouTubeには最高の歌い手がいる、もし見つけ出せるなら

ヒントンは、作成したトラック(彼のオリジナルの楽曲と加工したYouTube上のサンプルを組み合わせたもの)が出来上がるのを待って、それをパフォーマーたちに披露した。これには多くの場合、困難が伴った。彼が掘り起こしたヴィデオには数年前に公開されたものもあり、クリエイターを見つけるのが難しいケースがあったのだ。「場合によっては大掛かりな探偵仕事になることがありました」と彼は言う。「ほとんどの人は自分宛のメッセージをチェックしていませんから」

最終的にパフォーマーを見つけられたとしても、さらに説明の手順が必要になる。「(ヒントンが連絡してきたとき)わたしは最初、何かの偶然だと思いました」とカイは言う。「自分のYouTubeヴィデオがいまだに見られているとは思ってもいませんでしたから。というのも、わたしはいま、自分のチャンネルでほとんど活動していなかったから。それまでRangeを聴いたことはありませんでしたが、いったん彼の音楽にふれたら、これは普段わたしが好きでやっているR & Bとは違ったジャンルを探求することにつながるんじゃないかと思いました」

ヒントンの作品で使用された「YouTubeミュージシャン」は全員、共同制作者というクレジットを得て、著作権収入の一部を得ている。さらに、そのうちの何人かはこの機会をもとに自分たちのキャリアを先に進めようとしている。ナチュラリスは自身の楽曲「1000 Blessingsのプロ仕様のヴィデオを撮影したし、カイとヒントンは「Florida」のトラックを手直ししようと計画している。

「わたしはいま、自分の作詞作曲スキルの向上に取り組んでいます」とカイは言う。「Floridaの一部になることはほんとうに素晴らしいこと。わたしは自分自身について、そしてわたしのアーティストとしての目的についても、ほんとうにたくさんのことを学びました」

Twitterに新たなインスピレーションを求めて

自分にとって、YouTubeを通じたパフォーマーとのつながりは、作詞作曲やレコーディングの孤独なプロセスを「少しだけ寂しくない」ものにしてくれるのだと、ヒントンは言う。「ヴィデオを見て会える人々がいることで、ある意味、ぼくは共同制作者を得たように感じられる」。膨大な量のパフォーマンスが埋もれているという点で、YouTubeに勝るものはない(「Facebookなどではこうしたヴィデオが入り交じることはない」と彼は指摘している)。

ヒントンはいま、自家製サンプルの新たな収集源を探している。

「最近では、Twitterを真剣に検討しています」とヒントンは言う。「少数だけど、フリースタイルで書かれた歌詞をポストしている人たちがいるんです。1つのツイートが1つの完全なアイデアになっているものもあれば、詩的なかたちで複数のツイートにわたってアイデアを綴り続けているものもあります」

自分宛のDMを忘れずに確認しよう。もしかしたらあなたの知らない間に、あなたの書いた140字のテキストの1つが、Rangeの手によって3分間のポップソングになるかもしれないから。

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