『トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016』(町山智浩/文藝春秋)

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 日本人はどれくらいアメリカのことを知っているのだろう? アメリカのニュースやカルチャーは日本にだだ漏れ、映画からファッション、ダイエット法にいたるまでアメリカに大きく影響されている。FacebookにTwitter、そもそもiPhoneやGoogle だってアメリカ発だ。先進国で伝統や独自文化色はさほど濃くはないから、特別なことはなくわかっているような気になるが、本書『トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016』(町山智浩/文藝春秋)を読むと、「えーっ?」と思わざる をえないことばかりで愕然とする。

 タイトルにある「トランプ」とは、そう、2016年の大統領選挙で共和党から出馬したドナルド・トランプのことであるが、本書はトランプについてのみ書かれたものではない。新語やスラング、行き過ぎた著名人の言動や信じがたい事件について、その背景を丁寧にわかりやすく解説しながら、著者の町山智浩氏 がバッサバッサと斬っていくコラム集だ。

 そのうちのいくつかを紹介しよう。なお、コラムのタイトルは全て英語(とその日本語訳)になっている。

Breastaurant ブレストラン=巨乳レストラン

 ブレスト(胸)とレストランを合わせてブレストラン。胸の大きな女の子がタンクトップとショートパンツで給仕してくれる「フーターズ」は日本にもあるが、「アメリカでは似たようなチェーンが次々とオープンして群乳割拠の戦国時代になっている」。そのし烈な争いを勝ち抜くため、ある店舗がバイク客に割引メニューを始めた。すると、敵対する暴走族が同時に居合わせる事態となり、小競り合いから撃ち合いに発展、9人が死亡した。「誇り高きアウトローの死に場所がおっぱいレストランだとカッコ悪いなあ」とは著者のコメント。

Pansexual パンセクシャル=全性愛

 パンセクシャルとは“全性愛”と訳され、誰とでも恋愛し、セックスする傾向のことらしい。逆に“アセクシャル”は、“無性愛”という意味で、男にも女にも性的な感情を抱かない人。あの『アナと雪の女王』は、そのアセクシャルの苦しみを描いたのかもしれない。王女エルサの使命は国のために結婚することだが、男性を受け入れることができない。ふれるものは皆、凍りついてしまう。映画の原題はフローズンFrozen(凍りついて)だが、「性的に感じない」という意味もある。さて、エルサのいう「ありのまま」とは……。

 下世話な2例で恐縮だが、本書にはセレブの勘違い発言から根強く残る人種問題まで幅広くかつ軽快に取り上げられている。一部の特殊な人の場合もあれば、人として怒りを覚えるようなケースもある。全体を通して、アメリカという国の多様性や特異性にふれ ることができ、笑った後に考えさせられることもしばしばだ。読んだ暁にはアメリカのニュースやカルチャーの裏読みができるようになるかもしれない。だが何より、著者の平等なものの見方と本質をつく観察眼に脱帽である。

文=高橋輝実