『はじめまして さようなら』1巻(六多いくみ/講談社)

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 何かと不安定で、事件や事故が多い世の中だ。大切な人とのお別れは、いつ訪れるかわからない――。

 そう覚悟はしていても、愛する人の突然の死は、特別悲しいものである。だが、急な不幸でも、しばらくの間思い切り泣いて、悲しみに浸るようなことは、喪主には許されない。死亡届や葬儀や供養、様々な手続きや連絡に奔走しなければならないからだ。

 そんな時、遺族の悲しみに寄り添いながらも、冷静かつ迅速に、事務手続きや遺体の安置、葬儀全般のお世話を担ってくれる葬儀社は、とても心強い存在になってくれることがある。

 六多いくみのマンガ『はじめまして さようなら』(講談社)は、葬儀社を舞台に繰り広げられる物語だ。

 このマンガの主人公は、明るくて素直な女子大生、日向珠子(ひむかいたまこ)。同じ大学に通うイケメン、岸川廻(めぐる)に3年間片思いしており、積極的にアピールを続けているものの、なぜかかわされ続けている。そんなある日、岸川くんは突然大学を休学してしまう。珠子はいても立ってもいられなくなり、岸川くんの実家まで押しかけたところ、父親の急逝により、実家の葬儀社を継ぐことになったと聞かされる。珠子は人手不足から、偶然葬儀社の仕事を手伝うことになるのだが……。

 物語は、葬儀の素人である珠子の目線で進んでいくので「お葬式」が一体どのようなもので、何のために行われるのか、とてもわかりやすく描かれている。1巻で珠子は、3人のお葬儀を手伝うのだが、残された家族は、皆それぞれの事情を抱えていた。

 例えば、第3話で登場する末期ガンで亡くなった若槻寛志は、まだ32歳。しかも喪主となる妻のサヤには、お腹に9ヵ月の赤ちゃんがいた。上場企業に勤めていた寛志と、高卒のフリーターだったサヤは、駆け落ち同然で結婚したため、サヤと寛志の母親は仲が悪い。

 サヤは「身体のことを考えて喪主はお任せしたほうが」と勧められても「それはダメ」と絶対に譲らない。葬儀の話し合いの場でも、涙を流すこともなく気丈に振る舞っていた。何か事情がありそうだと察した珠子は、サヤの身体を労りながら、理由を聞き出す。
するとサヤは、寛志が亡くなるのを覚悟の上で、子供を作ったことを話し始めた。

 サヤは次の日、喪主の挨拶でも、夫とのこれまでの思い出を振り返り、自分は絶対に泣かないから子供を作らせてほしいとお願いしたことや、強いお母さんになることを皆の前で宣言し、最後まで立派に喪主を務め上げた。

 その後、サヤがまだ一度も泣いていないことを気にした岸川くんは、珠子と共に彼女を車で送り届けることにする。珠子がサヤの肩をさすって、「今くらい泣いたっていいと思います」と告げると、ようやくサヤは大粒の涙をこぼすことができたのだった……!

泣くことしか出来ないなら 泣ききってしまえたらいい
そうして悲しみを受け入れた その未来に 希望があるって信じてる

 第3話はこんなエピローグで終わりを告げるのだが、岸川くんや珠子は、お葬式を亡くなった人との最後のお別れの日にするだけでなく、これから生きていく人が少しでも前を向けるように、限られた時間内で、できるだけ優しい空間を作り出そうと心をこめて仕事をしていることが伝わってきた。

 珠子は葬儀の仕事で、まだまだ大変な人たちと出会う。「絶対にこの女を式場にいれないで」と女性の写真を見せてくる故人の妻や、告別式当日に姿を見せない喪主にも出会う。亡くなった人と「はじめまして」と出会ったらすぐに「さようなら」が待っている……だけど様々な人生が交錯する葬儀の世界。珠子はこれから一体、どう成長していくのだろうか。中々詳しく知るきっかけがない「お葬式」の世界が身近に感じられ、温かい気持ちになれる物語でもある。

文=さゆ