『テラフォーマーズ』原作者が語る「テラフォーミング後の人類が生き残る」ための10冊

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火星に移住するため、人間が進化したゴキブリと死闘を繰り広げる漫画『テラフォーマーズ』。そんな600年後の世界をつくりあげた若きクリエイターが、火星で生きるために必要な本を10冊選んでくれた。10冊に含まれたキーワードから見えてきたのは、人類がどこにいようと必要となる生き方の指針だった。(『WIRED』VOL.24「宇宙で暮らそう」特集より転載)

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2/10(02)『ヒトはいつから人間になったか』リチャード・リーキー
直立二足歩行が人類をつくったという仮説に基づいて、あらゆる角度から人類発生の謎をひもとく。人類の脳の特殊性にも言及。

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3/10(03)『毒になる親 一生苦しむ子供』スーザン・フォワード
虐待という理不尽な出来事を乗り越えるためには、耐えてはならない。虐待に限らない悲劇への対処法であり、心の処方箋。

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4/10(04)『精子戦争 性行動の謎を解く』ロビン・ベイカー
人間の性行動に対して、徹底的な実証主義を用いて、既成の性愛観を覆す。人間が生物学的に特別でないことを示した。

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5/10(05)『恋するオスが進化する』宮竹貴久
子孫を残すために、人間以外の生き物はどのような戦略をとっているのか。例えば、モテない魚に人間社会の縮図をみることができる。

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6/10(06)『「恋ゴコロ」のすべてがわかる 早稲田の恋愛学入門』森川友義
現代の一夫一婦制は折り合いをつけただけのかたちであって、それが完璧ではない。人間は進化論的に、恋愛結婚に至っていることがわかる。

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7/10(07)『未来を拓く君たちへ なぜ、我々は「志」を抱いて生きるのか』田坂広志
人生に成功は保証されていない。だが、「悔いのない人生」を送ることはできる。成熟した社会が直面する問題への心構えを説く。

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8/10(08)『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦
成功が約束されない運命をどう納得するべきか。そして納得したうえで、なぜ歩き続けなければいけないかが、100巻以上にわたり語られる。

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9/10(09)『略奪者のロジック』響堂雪乃
悪いやつはいつでもいるし、今後少なくなることもない。古今東西の「略奪者」たちのことばを読めば、そんな当たり前のことがわかる。

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10/10(10)『口語訳 聖書』日本聖書協会
人類史に2,000年残る面白い本。「呪われたものは拒絶しよう」。そんなシンプルなことが書いてある。昔の人は本当に頭がいい。

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知恵を受け継ぐという特性

もともと宇宙や火星については、何も知りませんでした。ラグビーの漫画が描きたかったのですが、映画『第9地区』と『K-19』を観て感動した編集者から、宇宙船か潜水艦の話を描いてきてほしいと言われました。それが出発点です。

火星には雨が降らないことや、現在の移住計画など具体的な知識については、図書館で片っ端から集めた本から勉強しました。『図解 火星探検 火星人から生命探査まで』(上記ギャラリー #01)は、テラフォーミングの理論的な基礎を学んだ本です。

ぼくはもともと大学で文化人類学を勉強していた「文系」なので、理系的な知識はほとんどありません。ただ、人間は知ることによって問題に対処でき、しかもそれが1代で終わるのではなく、子孫にまで知恵を受け継ぐことができる。そんな素晴らしい特性がある生き物だということは知っています。

『恋するオスが進化する』(#05)は、昆虫のオスとメスが、1つの個体として生き残るためにある種冷酷な戦略に基づいて闘争しているというレポートです。これを男性と女性として取り組んだのが『精子戦争』(#04)、『「恋ゴコロ」のすべてがわかる 早稲田の恋愛学入門』(06)は、その実践編です。

これら3冊には、「人間も自らの利益のために性選択を行う」という事実が書かれています。人間も昆虫と同じような生存闘争のなかにいることを知っていれば起きない不幸が多すぎるとぼくは思います。不倫だって、悲劇でも運命のいたずらでもなく生物が生き抜くための戦略にすぎない。ただ、ガリレオの地動説が否定されてきたのと同じように、男女の関係について、こうした現実を受け入れない人がいます。この点が変わらなければ、人類は、テラフォーミングしても火星で健やかに生きられないと思っています。

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貴家 悠︱YU SASUGA
1988年神奈川県生まれ。1児の父。大学在学中の2011年に『テラフォーマーズ』で漫画原作者としてデビュー。作品をつくるときには、いまでも図書館で気になる本を読みあさることがある。大学では文化人類学を学び、集団が生まれることにより外部との境界が発生し、宗教が生まれる過程などを学ぶ。

人間には、哲学する癖がある

ただ、テラフォーミングするだけでは意味がないのです。避けがたい悲劇に直面することは、火星でもあるはず。そのときの対処法は『毒になる親 一生苦しむ子供』(#03)に書かれています。理不尽なことがあったら、それに対して怒って闘うことが、どれだけ自分の人生を生きるために大切か。

『テラフォーマーズ』は「テラフォーミング」そのものを描いた作品ではありません。「テラフォーミング後の人類」が描かれています。もう1度言いますが、ぼくは宇宙の専門家ではありません。テラフォーミング完了後に、人類に襲いかかる「なぜわたしたちは生きるのか」という問題とそれに立ち向かう人間を描きたかったのです。地球でも、月でも、火星でも人間はこの問題に必ずぶつかります。

『ヒトはいつから人間になったか』(#02)で説明されているように、われわれの脳は特殊なつくりなので避けられない。進化の結果、大脳が発達した人間には別々のものを同時に考える回路が備わっていて、自分の目の前にないものでも「見る」ことができるので、食べるために働くこと以外を考えてしまう。

つまり、人間は哲学する癖があるのです。それは、『聖書』(#10)を読めばすぐにわかります。この本が、2,000年以上読み継がれているのは、1行で言えるシンプルだけど大切な「哲学的」なことが書かれているから。しかも、キリストという人類史に残るくらい「頭がいい」やつが語っている。人間という種の本質は変わっていないんです。例えば『略奪者のロジック』(#09)を読んでも、昔もいまも(未来も)悪は滅びないことがわかる。

INFORMATION

『WIRED』日本版、最新号VOL.24は「NEW CITY 新しい都市」 特集!

8月9日(火)発売の最新号『WIRED』VOL.24は「新しい都市」特集。ライゾマティクス齋藤精一と歩く、史上最大の都市改造中のニューヨーク。noiz豊田啓介がレポートするチューリヒ建築とデジタルの最前衛。ヴァンクーヴァー、ニューヨーク、東京で見つけた不動産の新しいデザイン。未来の建築はいま、社会に何を問い、どんな答えを探していくのか。第2特集は「宇宙で暮らそう」。宇宙でちゃんと生きるために必要な13のこと、そして人類移住のカギを握るバイオテクノロジーの可能性を探る。漫画『テラフォーマーズ』原作者が選ぶ「テラフォーミング後の人類が生き残るための10冊」も紹介する。そのほか、NASAが支援する「シンギュラリティ大学」のカリキュラム、米ミシガン州フリントの水汚染公害を追ったルポルタージュ、小島秀夫+tofubeatsの「未来への提言」を掲載!

生きるためでもなく、いい暮らしをするためでもなく

「お前の祖父の時代は生きるために働いた。自分はいい暮らしをするために働いた」。そんなことを父親から聞かされたことがあります。では、ぼくたちの世代は何のために働いたらいいのか? その答えそのものは教えてくれなかった父が、大学に入学するとき1冊の本をくれました。それが『未来を拓く君たちへ なぜ、我々は「志」を抱いて生きるのか』(#07)です。そこには、父への問いに対する答えがありました。それは、「志をもって生きること」でした。

ぼくたちの世代は、すべてが満たされた時代に生きています。だから、何のために生きるのかは自分で考えないと、人生に悔いを残してしまう。成功が約束されていない人生を登り続けて、転んでも立ち上がるような志をもって生きた人は、死ぬときにもし同じ人生をまた生きなさいと告げられても「やります」と答えられる。ニーチェの永劫回帰と同じ考え方です。ぼくは『ジョジョの奇妙な冒険』(#08)のなかにもそんな戦い続ける人間たちの姿を見出します。

進化を経た人間にとって「志をもって生きる」ことは、オゾン層の破壊が進んだがゆえにオーストラリアでは夏にサングラスをかけなくてはならなくなったように、「必要な対処」となりました。これは、地球でも火星でも変わらないとぼくは考えます。

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『テラフォーマーズ』は、2013年版『このマンガがすごい!』オトコ編で1位を獲得、2014年にアニメ化を果たし、現在累計発行部数1,400万部を超える。最新刊18巻は、来たる8月19日発売予定。