女性の「オーガズム」は受精に不可欠(shutterstock.com)

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 古代ギリシア語の「満ちる」「熟する」を語源とするオーガズム(英:Orgasm)。日本(語)では「性的絶頂」と訳されてきた流れから、とかく淫靡な印象が根強いが、その正体は......。

 『JEZ-Molecular and Deve lopmental Evolution』(8月1日号)に掲載された、Gunter Wagner氏(イェール大学生態学・進化生物学教授)らによる論文によると、進化の過程から「女性のオーガズム」を考察した場合、元来それは「受精のために必要なもの」だった可能性が読み取れたという。

 つまりそれは、「世界遺産」ならぬ「女体遺産」なんだとか。

 射精へと至る男性のオーガズムは、精子を卵子に出合わせる(明確な)役割を果たしている。1970年代のマスターズ&ジョンソンの主張では「生理的な反応の大半は男女共通」とされてきたが、女性のオーガズムの役割については、従来「謎」の部分が多かった。

 「女性はイク・イクって言うけど。アレはいったい全体、どこへ行くんだ?」とは、昔から艶笑話として囁かれてきた定番ネタ。Wagner氏らはその「いったい全体」の謎を、女性のオーガズムがどのような過程を経て発達してきたのかという点に絞って探求した。

ホルモン分泌と多幸感

 その手がかりを探るため、研究班は「ヒト以外の哺乳類」を対象に徹底調査した。その際に着目したのが、プロラクチン(英:Prolactin ; PRL)とオキシトシン(英:Oxytocin ; OXT)というホルモン放出の役割だった。いずれも女性のオーガズムに伴なう「特徴的な反射」であり、これは多くの哺乳類にも認められる傾向である。

 プロラクチンは脳の下垂体から分泌されるホルモンで、乳腺の分化や発達、乳汁の合成や分泌に関連している。哺乳類においては巣作りや授乳などの母性行動に影響を与え、(子を守る本能から)敵対的行動の誘発も行なうもの。

 ちなみに男性の場合は、射精オーガズム後、急速に「性欲」を失う原因となっているのも、プロラクチンの影響だ。

 一方、オキシトシンは「幸せホルモン」「恋愛ホルモン」「抱擁ホルモン」「癒しホルモン」「絆ホルモン」などの俗称が物語るとおり、多幸の種のような源泉であり、下垂体後葉から分泌されるホルモンだ。

 こちらは、昨年4月に「飼い主とイヌが触れ合うことでオキシトシンがお互いに分泌される」という筑波大研究チームの知見が米国サイエンス誌に掲載されて、その存在が一躍耳目を集めたばかり。ギリシャ語の語源も「早く生まれる」の意を持っている。
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膣よりも陰核よりも......

 この双方の反射が、多くの哺乳類において「排卵時」の重要な役割を果たしており、卵巣からの「卵子の放出」を刺激・促進に役立っているという。

 現代の哺乳類を調査すれば進化の過程に応じて幅広い変化が認められるが、ヒトの祖先においてはこの特性が「排卵に必要であった可能性」が示唆された。

 「ヒトの場合、この反射が進化後に生殖上は必要でなくなり、副次的な働きとして女性のオーガズムが遺されたと考えられる」と、Wagner氏らは解説。さらに「クリトリスのほうは進化を通して解剖学的な位置が移動したと考えられ、そのために現在は性交中に直接刺激される可能性が低下した」とも同論文は言及している。

 性的絶頂は必ずしも「クリトリスへの刺激」によってのみもたらされるものでもなければ、「膣のみで感じるオーガズム」というのも都市伝説(?)の域を出ないようだ。

 今回の知見から「湧き出てくる」という源流を知れば、快楽の裏事情も納得できるというもの。

 「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンを例にとれば、スキンシップや家族団らん、友人と飲食を愉しんだり、ハグしあう(ペットを含む)だけでも分泌されるというから、要は気持ちや雰囲気の問題なのだろう。「いいじゃないの、幸せならば」ということか。
(文=編集部)