画像検査に振り回されるな!?(shutterstock.com)

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 「ちょっと背骨が変形していますね」「ここの骨と骨の間が狭くなっています」

 腰を痛めて医療機関を受診した際、医師からこのような言葉をかけられた人は少なくないだろう。以前にも「ほとんどの『腰痛』は画像で診断できない! 原因不明の『非特異性腰痛』とは?」で紹介したとおりだ。日本の医療機関の場合、「とりあえずレントゲン」は多い。

 レントゲンによる検査は、重篤な疾患がないかを確認するのには重要だ。そのこと自体は、悪い事ではない。

 しかし、レントゲン画像での所見が、そもそも腰の痛みは関係しない場合が多い。ところが、先ほどのような言葉をかけられると、患者は余計な不安を抱いてしまうものだ。

 多くの人は、「背骨が変形している=痛みの原因」だと思っている。患者さんと話していても、腰痛があるのは、「背骨が変形してしまっているから」と思い込んでいる人はとても多い。

 これは全くの誤解だ。確かに変形していることで、その結果、神経を圧迫していたり、骨と骨がぶつかりやすくなって痛みを生み出してしまっているケースは確かにある。だが、多くの場合は、変形が痛みを招くわけではない。

 海外でもこのような誤った認識は多い。腰痛の専門家(主に医師以外)は、この問題について、盛んに訴えている。

 医療関係者には有名な専門誌『Spine(スパイン)』で発表された論文のなかに、次のような驚く報告がある。腰痛の症状が出ていない健康な成人の腰部のMRIを撮ったところ、椎間板の変形が91%、亀裂が61%の人に認められたというのだ。

椎間板は、背骨と背骨の間にあるクッションのようなものだ。これが破れたり、膨張して神経を圧迫したりすると、下肢のしびれや痛みが生じる。これが「椎間板ヘルニア」と呼ばれるものだ。

 頚部に対しても同じような研究が行われていて、やはり健康な人の首のMRIでも変形が認められた、という報告がある。
骨の変形と痛みにはあまり関連がない

 健康な(痛みやしびれが全くない)人でも、半数以上の人に変形が認められるというのだ。このように、脊柱の変形と、実際に痛みが生じるかどうか、にはほとんど相関がない。

 ある専門家は「背骨の変形は、顔のシミや白髪のようなものだ。確かに若いときとは違うが、だからといって、健康上影響がない場合がほとんどだ」と述べている。これは言い得て妙だ。

 つまり、画像検査で「変形」が発見されたからといって、さほど心配する必要はない。「変形」という言葉も果たして適切なのか。その人の個性、固体差なのかもしれないのに。

 腰痛の研究が進んでいるオーストラリアでは、国が発行する腰痛の治療ガイドラインに「レントゲンなどの画像所見と実際の腰痛の症状は関連がない場合が多くあるため、むやみに画像検査を行うべきではない」と明記されている。

 レントゲンやMRIを無視すべき、というわけではない。しびれなどの症状がある場合、それは神経が傷ついたり圧迫されたりしている可能性が高い。

 その場合、MRIなどの画像検査は、とても効果がある。また、高齢者の圧迫骨折の診断にはとても有効だ。

 腰痛、特に若い人でしびれなどの症状がない腰痛の場合、画像検査で変形が見つかったりしても、「腰の痛み=変形」と思い込むことは、心理的な痛みや不安を増大させてしまい、いいことはない。

 画像と腰痛の関連性が低いことは、世界的な認識となりつつある。画像検査を過信した安易な診断に振り回されると、治るべき腰痛も慢性化することになるのだ。

三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の医療、理学療法を学ぶ。2014年に帰国し、東京の医療機関に理学療法士として勤務。現在は札幌市の整形外科専門の医療機関に勤務。その傍ら、一般の人に対しても正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。執筆依頼は、"Contact.mikitaka@gmail.com"まで。