〈ライフ≒ワークな生き方〉
激務の通勤生活、今年で何年目? ふと気づけば、プライベートの暮らしは仕事に押しつぶされてぺちゃんこに。何のために頑張っているのかわからなくなることさえありますよね。「いつまでこんななんだろう」「働き方を変えたい」「でも方法が分からない」この連載では、そんな悩みや迷いをえいやっ!と乗り越えて、“ライフ”に“ワーク”をぐんと引き寄せてしまった彼女たちに話を伺います。

JR武蔵野線・市川大野駅から歩いて15分。築30年以上の大きな集合住宅が見えてきます。一見、どこにでもある風景ですが、その一室にまるで秘密基地のように「つみき設計施工社」はあります。ここは、合同代表の河野桃子(こうの・ももこ)さんの暮らしの場であり、仕事場であり、さらには子育ての場。

「ワーク≒ライフという生き方」第2回目は、集合住宅の一室で仕事も暮らしもごちゃまぜにしながら自分の叶えたい生き方を実践する、河野桃子さんのインタビューです。

「自分に素直に生きる」を見つめた結果

河野桃子さん(以下、桃子さん)が合同代表を務める「つみき設計施工社」(以下、つみき)は2010年、当時大学の同期であり、現在、桃子さんのご主人となっている河野直さんと共に初声をあげました。立ち上げた理由は至ってシンプルでした。「自分に素直に生きるとは」を見つめ、大学院卒業後、いったんは大きな建築会社での実務を経験するも、そこでの働き方に疑問を覚えた桃子さん。自分が理想とする働き方と暮らしを実現する場がないと感じ、みずから事務所を立ち上げました。

「大手設計会社の3ヵ月のトライアル期間で違和感を覚えたんです。大手であるがゆえに忙しすぎて自分の暮らしがままならない。この働き方で本当によい暮らしを人に提案できるか?というのが、最初の疑問でした。さらに、建物や家という“暮らしの場”をつくるのに、建てたい人、デザインする人、実際建てる人が、顔も合わせないようなシステムにも疑問を感じたんです」

そこで「つみき」は、建てたい人と建てる側が一つのチームとなって「ともに建てる」をモットーに、設計施工会社としてスタート。事務所や自宅には常に誰かがいるにぎやかな雰囲気になっていきました。

そんな桃子さんの暮らしを一言で表現すると、「ごちゃまぜ生活」。自宅の一室を事務所とし、さらに一室は縫製職人のアトリエとして貸し出し、リビングでは、大工さん、お客さんが楽しげに食事をする。仕事と生活、オンとオフが分かちがたく結びついている彼女の毎日。彼女いわく「暮らしと仕事が離れているのは理想ではなかったから」とのこと。

「大学院に進んだ翌年、1年休学してスイスの建築事務所で働きました。その経験が今の『つみき』の形や暮らしにつながっていて。その事務所では上司が仕事をしていても、時間になったらPCを閉じて、はい!仕事、終わり!みたいな(笑)。事務所内もフラットな関係で、年齢を超えて、インターンの学生から社長まで対等にディスカッションしていました。働くことにポリシーを持っているけど、自分や人生も大事にしている印象で衝撃でしたね」

「働く時間」と「生きる時間」を区別しないスタイルに戸惑いもあったものの、その本質に胸を打たれたと言います。

「ホリデーという長期休暇になると、どんなに忙しくても『ホリデーだから』って仕事は2週間先まで置いておくんです。建築の仕事は暮らしをつくることだからこそ、自分の暮らしをなおざりにしない。こういう働き方、生き方があるんだって実感しました」

理想を実現するには「選ぶ」ではなく「考える」

「つみき」を立ち上げて今年で6年。妊娠・出産も経験し、現在3歳の女の子のお母さんとしても大奮闘中の桃子さん。仕事との関わり方も少しずつ変化する日々の中で、「ごちゃまぜ生活」について改めて思うことを聞きました。

「暮らしと仕事は近い方がいいと思っていて。生きること、働くことを考えた時、いろいろある中から選ぶのではなくて、なんとなくこういう暮らし、生き方にしたいというイメージが先にあって、どこで実現するかを考えていたんです。それが、今の形でした」

こんなふうに生きたい、働きたいという「想い」がある時、すでにある選択肢から「選ぶ」のではなく、どこで実現できるかを「考える」。自分の中にある「想い」に緩やかに寄り添っていく。スイスで目の当たりにした「暮らしをつくる仕事だからこそ、自分の生き方をなおざりにしない」という姿勢が、桃子さんの今のあり方から伝わってきます。

「実際、ごちゃまぜな暮らしをしていて、困ることはなくて(笑)。強いて言えば、オン/オフがあまりないから、休みのとり方が難しいです。でも、休んじゃえ!って家族旅行に行ってしまうことも。人の出入りが多いので誰かしら子どもの面倒を見てくれたり、一緒に働くみんながここでにぎやかにごはん食べていたりするのが、私には居心地がいいんです。私なりの働き方、生き方はなんとなくここにあるような」

現在、3歳になった娘さんは日中は保育園へ。でも、4時半に迎えに行くのは鉄則だとか。

「娘と過ごす時間も大切にしたいので、たとえ仕事が中途半端でも4時半には打ち切ります。もう少し長く預かってもらえますが、そう決めているんです。PCをバタンと閉じて、バチッとお迎えに行きます」

子育てと仕事が緩やかにつながっている桃子さんの日常。子どもがいるからこそ、提案できる事例も多いと言います。

「子どもが小さいなら安心してハイハイできる無垢材のフローリングを提案したり。自分たちが日々実践していることが仕事につながることも多いですね」

もっとたくさんの人と“暮らし”を分かち合いたい

「もともと、大きな野望を抱いて『つみき』を始めたわけではないんです。やりたい仕事の形、イメージしていたような場所がうまく見つからなくて。だから、自分でつくるしかなかった。その延長に今の暮らしが自然と生まれてきたのだから、私は寄り添うだけです」

12月には第2子を出産予定の桃子さん。次の「作戦」はもう動きだしているようです。

「自宅から徒歩5分ほどの場所を借りて、今、事務所兼ギャラリー兼アトリエを準備しています。家族が増えることもありますが、もっとたくさんの人を巻き込む入口をつくりたくて」

もっとたくさんの人と一緒に“暮らしの場”をつくりたい!もっとたくさんの仲間たちと一緒に美味しいごはんを食べたい! そんなシンプルな「想い」を叶える場として、「つみき」の分室は生まれつつあります。

貪欲に前に進むのではなく、自分の理想に緩やかに寄り添い、心地よい暮らしを実践する桃子さん。そこには「自然体でいいんだよ」という彼女のメッセージが込められているような気がしました。